君の音色を | ナノ

「これと、これ…あとこれと、この雑誌もかな。」
『えええええ…』

一冊、また一冊。
ソファに座らされた私の目の前にある大きなテーブルには今、雅臣さんの手によって芸能や音楽関係の雑誌がこれでもかというほど並べられている。

『あの…よくありましたね、こんな量の雑誌…』
「ええ、兄弟の中に芸能関係者がおりましてね。」
『そうなんですか…』

そりゃこれだけ顔の整った兄弟がたくさんいれば、芸能人の数人くらいいてもおかしくはないとは思うけど…でも正直言ってこの量は圧巻だ。

「そんなことより、どうです?これで少し分かりましたか?あなたの知名度が。」
『な、なんとなく…?』

右京さんに言われ、雑誌に視線を落とす。どれも1ページほどではあったが、全て私の活躍について取り上げてくれていた。コンクール優勝の時の写真だったり、コンサートの情報だったり、特集が組まれていたり…何だかどれも自分自身で見ていると恥ずかしくなってくる。

「でもこれだけ注目されてて今まで分からなかったって…ある意味スゴいね、蓮ちゃん。」

ソファに寄り掛かったまま雑誌をペラペラとめくりながら、要は感心したように呟く。その態度には少しムッとしたけれど、確かに知らなかったのは事実。私は、ありのままを話すことにした。

『私、高校生の時くらいからあまり日本には戻ってないんです。だいたい世界を飛び回ってる生活だったので、こういうのもあんまり見なかったですし。』
「日本や海外のどんな雑誌から依頼が来ているということを、マネージャーの方が教えてくれたりはしなかったのですか?」
『教えてはくれました。でも、基本来る者拒まずだったというか。』
「ほう…」
『変なこと書かれたりしないなら、怪しいゴシップ誌とか以外ならOK出してました。こっちからコメント出したりすることもほとんど無かったので。』
「絵麻ちゃんは、教えてあげたりしなかったの?」
「し、知らせてはいたんですけど…」
『だって絵麻が言う雑誌の名前、私が知らないのばっかりなんだもん。そんなに有名じゃないやつだと思ってた。』
「お姉ちゃんは知らなくてもこっちでは有名なんだってば!!」
『ふーん…』

とは言われても、知らないものは知らないし…。なんとなくふて腐れた気分になっていると、再び要が口を開いた。

「ま、日本でもここ4〜5年で新しい雑誌や音楽誌が随分発行されているだろうからね。世界を飛び回っていたのなら、知らなくても無理はないさ。」
『そうでしょ!?』
「ああ。…まあでも、今はそんなことより…」

同調者が現れた喜びで身を乗り出した私に、ニコッと微笑んだ要。その緩やかに弧を描いた唇は、やがて自然な動作で私の左手の甲へと押し当てられる。

『っ…!?』
「ねえ。君のことは色々知れたから、今度は俺のことも君に知って欲しいな。」

奇麗な笑みに見とれて左手を取られたことすら気付かなかった私は、突然のことに飛び上がり思わず手を引こうとした。けれど要はそれを許してくれず、今度は怪しげな微笑を向ける。そしてその視線から目を逸らした、その瞬間…


「いい加減にしなさいっ(怒)!!」
「いたっ!!」

小気味良い衝撃音が、要の頭から響いた。


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