君の音色を | ナノ

「ただいまぁー!おねーちゃん達来たよー!」
「すみません、今戻りました。」
『お邪魔しまーす…』

弥に連れられて部屋の中に入ると、大きなソファーに数名の男の人が座っているのが見えた。

「あぁ、おかえり弥、絵麻ちゃ…!?」

その中の一人…おっとりとした雰囲気の人が、二人の声に真っ先に気付きこちらへやって来る。しかし、彼もなぜか先ほどの右京さん同様私の顔を見て固まってしまった。

「雅臣兄さん、目を覚まして下さい。」
「あ…ああ、右京。」

二度目の反応に戸惑っていると、後ろから右京さんがやってきて声を掛けてくれた。ハッとして戻ってきた様子のその人は、改めて私を見ると今度はニコリと優しげな笑顔になる。

「ごめんね。僕は雅臣。この兄弟、朝日奈家の長男です。よろしくね。」
『えっと…今日からお世話になります、蓮です。よろしくお願いします。』
「うん。……そっか。蓮ちゃんって、彼女のことだったんだね…」
「ええ、私も最初は驚きましたよ。」
「す、すみません!私…その、説明してませんでしたっけ?」
『………?』

私に聞こえないほどの声で呟く雅臣さんに、それに同意して頷く右京さん、そして謝る絵麻…。なにやら私を囲む3人の中で、不思議な会話が成立している。
一体なんの話…?

「雅兄ー、京兄ー?いつまで妹ちゃんたちを足止め……おや?」
『…はい?』

そんな中、紫色の袈裟を身に着けた金髪の男の人が私の存在に気付いた。その人はゆっくりと歩み寄って来ると、雅臣さんの肩にもたれながら興味深げに私を眺め始める。

「へえ…君だったんだ、お姉さんって。」
『あ、私は…』
「日向蓮ちゃん、でしょ?知ってるよ。俺は要、よろしくね。」

要と名乗るその人は、さらりと私の名前を口にした。

『え…?』

…なぜ?
確かに私は、ついこの間までピアニストとして世界を回っていて人前に出る事は人よりも多かった。でも、今まで海外でメディアに取り上げられることはあったって日本では全くと言っていいほど騒がれなかったはず。CDだって出してないし、曲の配信もしていない。なのになぜ知られている…?

『あの…』
「やめろ要、彼女が困っているだろう。」
「ええ?俺まだ自己紹介しただけなんだけど?」

不服そうに言う要をよそに、話し合いを終えたらしい右京さんと雅臣さん、そして絵麻は申し訳なさそうに私を見た。

「ごめんね蓮ちゃん。僕たち君のことをちゃんと把握してなくて…」
「あなたのお名前に、日向という苗字…。少し考えれば気付いたはずなのですが…すみませんでした。」
「お姉ちゃん…ごめんなさい。私、ここの人たちにちゃんと言ってなくて…」
『…?…??』
「ちょっとかなにー!」

どうして急に謝罪が始まるのか…ますます訳が分からなくなって首を捻っていると、突如背後のドアが開く。そして、そこから更にぞろぞろと人が入って来た。

「あのさぁ、メールすんならもっと早くしてくんない?俺にも心の準備ってもんがあるんだけど!!」
「ねえ椿、この子…」
「え?なにあず…えええええぇ!?」
「日向…蓮…!?」
「あの人が…どうしてここに…?」
「マジかよ…あれがあいつの姉さんなのか…!?」

やっぱり…彼らも私を知っている。しかし知っているだけならともかく、なぜみんながみんな私を見て驚くのか…。理由を聞きたくて、私はほんの軽い気持ちでその疑問を口にした。

『あの…みなさん、何で私を見て驚かれるんですか?』
「「!?!?」」
『…あれ?』

どうしてだろう。その場にいた全員の視線が私に向けられた。え、私何かいけないこと言いました?

「…分からないのですか?」
『…?はい。』
「ほんの少しも?全く?」
『ええ、全く。』
「はあぁ…」

困ったように溜息をついた右京さんは、額に手を当てて押し黙ってしまった。けれど少しして、ゆっくりと口を開く。

「海外でご活躍されている時に、現地のメディア等に取り上げられることはありませんでしたか?」
『あー…はい、何度かは。でもそこまで有名所の記者は取材に来ませんでしたけど。』
「そんなに有名所では無くとも、情報というものは伝わってくるものなのですよ。」
『…え?』
「あなたの世界各国での活躍は、ここ日本国内でも知れ渡っています。」
『…うそ、』
「本当です。あなたは日本でも、相当な有名人ですよ。」
『………』

しょ…衝撃的事実発覚…です…。


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