続・蕾@

注意 10000hit記念の続き



「レイ〜ッ!!」

大きく手を振ってカガリは存在をアピールする。
目に止めたレイはにこやかに笑う。
やっと近い場所へとやってきたレイにカガリはたまらず走り出し、勢いのまま抱き付いた。

「おかえり、レイッ!」
「ただいま、カガリ」

レイの頬に自らの頬を擦り寄せて、嬉しさを表す。
一方のレイも荷物を持ってない手でカガリの髪を撫でてやる。



世界規模で活躍するピアニストのレイは久々にカガリのいる場所へと帰ってきた。
小学生の頃はレイも高校生でよく側にいてくれた。
けれど、レイが海外の大学に進んだ後は簡単に会えなくなった。
勿論、携帯やスカイプなど連絡する手段はあるが、直接会えない事はカガリにとって寂しい思いをしてきた。
たまに帰ってきた時は思いのままに甘える。
そんな関係が暫く続いていた。

「カガリ、明日は何処へ行く?」
「明日…か…」

今、カガリは高校生で現在は夏休み中。
わざわざ夏休み中を選んでレイは帰って来る。
一緒にいられる時間は少ないので、次の日から遊びにいくのが常だ。
即答しないカガリは珍しい。

「どうした、何かあるのか?」
「うん…映画を見る約束してるんだ友達と」
「……」

レイが帰って来る予定は本来ならもう少し後であったが、意外と早く仕事が終わったのでレイはカガリへの会いたさで予定を変更したのだ。
故にカガリの予定が詰まっていた。

「ゴメン…明後日、出掛けよう?」
「いや、俺も映画を一緒に見に行こう」
「ええっ!?」
「どうかしたか?何か都合でも悪いのか?」

レイの瞳が一瞬細くなる。
逆にカガリは驚きが支配して何故か挙動不審になっていた。
その仕草にレイの表情は険しくなる。

「都合は悪くはないけど…」
「なら問題ない。そうだろ」
「うん…そうなんだけど…」
「俺がいたら…邪魔なのか?」
「そういう訳でもないけど…」
「じゃあ、何の問題ないじゃないか」
「でも…」
「なんだ、何を気にしてる?」
「……見る映画、レイの趣味じゃないと思う…」

ボソッと言いながら、とうとう思っていた事を呟く。
レイの胸に蠢いていた感情とは、違う答えが返ってきて内心ホッとする。
もしかしたらデートなのではないかと勘ぐっていただけに、レイの表情は柔らかくなった。

「見る映画はカガリの好きな映画なんだろ?」
「うん…そうだけど」
「じゃあ、大丈夫だ」

ハッキリ言い切ったレイにもうカガリが述べる言葉は存在しない。
この会話はカガリの自宅に戻る車中で行われていた。
滞在期間が限られているレイはスポンサーのアスハ家にお世話になっている。
カガリがレイと一緒に居たいのもあるが、その逆もあるのである。
因みに運転しているのは、毎度おなじみキサカだ。



翌日。
いつも、スラックス姿のカガリが一般的に可愛らしいと言われるような姿でいた。

「カガリ…」
「ん?どうかしたか?」
「その服…」
「ああ、これ?」
「趣味じゃないだろ」
「うん、そうだけど…アイツが映画の時はスカートの方がいいって言うから…まあ、ミニはムリだって言ったけどな」

笑ってくるりと一回転するカガリ。
マキシ丈の白いワンピースがフワリと浮いた。
可愛い事は可愛い。
けれど、それはあくまでカガリ曰くアイツの趣味であり、レイは静かに闘志を燃やしていく。
この段階でカガリの友達とやらが男だと判断出来たからだ。
そして、待ち合わせへと向かう。
レイが手を出せば何の疑いもなくカガリは手を繋ぐ。
それはレイが長年かけて作り上げてきた努力の賜物。
出会った時からプレゼントや行事は欠かさなかったし、雛への刷り込みのように自分の存在をカガリの中に刻んできた。
年齢が経過するにつれて蕾だったカガリは綻び既に五分咲きまできている。
虫がつかないようにしたいのは山々だが側にいられない為、何かと注意を促してきた。
しかし、やはり虫はつくなとレイは改めて思い、直接害虫駆除に向かう腹積もりだ。
レイが一緒にいるお陰で待ち合わせ時間より早く着く。

「珍しく早く着いた」

感嘆するカガリ。
レイは軽やかに笑う。

「カガリはルーズだからな」
「そんな事ないって」
「いや、待ち合わせしていた時は散々待たされた」

今でこそ同じ家にいるが、別々の時はキサカに送ってもらっていたにも拘わらず遅刻していた。
そういえば、その時も映画を見に行った事を思い出す。
小学生のカガリが見る映画なので専らアニメだったが。
感慨に耽っていれば、隣でカガリが声を上げている。
カガリの視線の先を見やれば少年が走ってきていた。

「ハァッ…カガリが先に来てるなんて…フゥ、珍しっ…」

走って来た為、少年の息は荒い。

「へへっ、私だってやれば出来るんだ」

胸を張っている仕草のカガリにレイはコツリと軽く頭を叩く。
因みに今も手を握っている為、当然開いてる手でした。

「よく言うな、俺とマーナさんとの2人掛かりで起こしたっていうのに」
「あわわ…言うなよ、それ!」

自分で起きれない事をバラされてカガリはレイの口を塞ごうとする。
横からそれを見ていた少年の目には、イチャついているようにしか映らない。
ムゥっとしながら少年はカガリの服を引っ張る。

「ねぇ…誰あれ?」
「んっ…ああ、ゴメン。紹介まだだったな」

カガリは少年の方に向き直るので、レイも仕方なくそれに倣う。

「紹介するな。私のピアノの先生だったレイだ。世界で有名なピアニストなんだぞ。数ヶ月振りにこっちに帰ってきたんだ。映画に行くって言ったら一緒に行くって言うから連れてきた」

少年側からすれば、カガリの言葉からデートに何故連れてきたのか、納得出来る所は何処にもなかった。
引きつっている少年にレイは不適な笑みを浮かべる。

「初めまして、レイ・ザ・バレルです、宜しく。カガリとは十年来の付き合いだ。此方にいる間はアスハ家で世話になっている。今日も一緒に朝食を食べたなぁ、カガリ」
「うん、マーナの作るご飯は絶品だからな」

レイは自己紹介後にわざわざ言う必要のない情報をつけて少年を牽制する。
害虫駆除に来たのだから。
悪意を感じ取ったのか、少年のこめかみはピキピキと動いていた。

「レイ、こっちはアウルだ。高校のクラスメートなんだ」
「どうも…アウル・ニーダです」

言葉少なに水髪の少年は名乗った。
青い視線の先には自己紹介中も繋がれている手に注がれている。

「カガリ、何で…手繋いでるの?」
「ん?何でって…いつもこんな感じだよな」
「ああ、自宅でもこんな感じだ」

安易に違和感のない状況だと言い切る2人にアウルは顔をますますひきつらせる。

「……そっ、そう。それより早く映画に行こう?」
「うん、そだな」

漸くシネコンへと向かう3人。
カガリとレイは手を繋いで歩いており、明らかに自分の存在が邪魔のように周りから映ってる事に憤りを覚えつつも、アウルはここで逃げ帰ったら金髪ロン毛(カガリの事ではない)の思うがままだと感じ何とか堪える。
夏真っ最中に手なんか繋ぐなよと心中で悪態吐きながら。
とはいえ、開いている側のカガリの手を繋ぐ勇気などアウルにはなくムカつくと羨ましいの半分半分の感情が支配していた。



暫くしてシネコンへ到着。
カガリはレイを引っ張ってアウルは後ろをついて行きチケット売り場へ。
カガリとアウルの2人は前売り券があるのでそれを出す。
そのチケット内容にレイは驚き固まってしまう。
何故なら、アニメだったから。
所謂家族向けCGアニメではなく、完全なる子供向けアニメ。
よく見れば、それは小学生のカガリと一緒に見に行った事のあるアニメシリーズ最新作の映画。
帽子を被った少年と電気ネズミの1人と1匹が夢に向かって仲間と共に旅をしていく話。
小学生のカガリはこのアニメが大好きで、電気ネズミが欲しいと駄々をこねた事があった。
マーナとキサカとレイの3人掛かりで存在しない事を説明し、喋るぬいぐるみで納得して貰ったのは懐かしい思い出だ。
まさか、未だにこのアニメが好きだったとは意外であった。
元ネタがゲームである為、ゲームも一緒にプレイしていたが、レイが海外に行ってからはその話をしなくなったので興味がなくなったと思っていた。

「カガリ、このアニメまだ好きだったのか」
「うん!いつも欠かさず見てるぞ。レイが海外に行っちゃってからは、アウル達と映画を見に行ったり、ゲームで交換したりしてたんだ」

どうやら未だガッツリ大好きのようである。
レイが側にいない為、同級生辺りでゲームや映画を付き合ってくれる人間を見繕ってっていたようだ。
道理で夏休み中帰ってきてもこのアニメ関係で強請られる事がなかった筈だと改めてレイは思っていた。

「でもさ、中学入ってぐらいから、ステラとスティングが付き合ってくれなくなって…だから、アウルと2人で毎年見に行ってるんだ」

ニパァと笑って此方が聞きたかった事をペラペラと喋ってくれたカガリには笑顔で接し、その後ろにいるアウルには殺気を込めた視線を送った。
年の離れた成人男性から本気の攻撃にアウルは冷や汗を流すしかない。
男2人がバトル(一方的な攻撃)してる中、カガリは座席を指定しチケットを貰っていた。

「早く行こーよ」

強請るようにカガリはレイの手を引く。
ついて行けば羨ましそうに此方を見てくるアウルに勝ち誇った笑みでレイは返した。
連なって指定ナンバーのスクリーンを目指して歩いていく。
先頭はカガリで手を繋がれているレイ、そして不満たっぷりアウルの順。
目的の場所に近付くとカガリの足は必然性と早くなる。
ホール内に入って席を見付けると、カガリを挟んで両隣にレイとアウルが座った。
映画が始まるまで少しあるのでレイはどうしようかとカガリを見ればバッグから何かを取り出していた。
それはゲーム機。
映画とゲームは連動しており、ゲーム内のキャラクターを配信されるのだ。
カガリは夢中でゲーム画面を見ている。
レイが覗き込めば白い竜が送られてきていた。

「これは?」
「白い竜だぞ。私のゲームでは捕まえられないから貴重なんだ。しかもLv100で最強なんだぞ」

嬉しそうに笑うカガリの肩越し同じ動作でゲーム機を動かすアウルが見えた。

「カガリ、僕の所にも黒い竜が来たよ」
「あー、ホントだ♪」

ゲーム機を持ってないレイだけが蚊帳の外で必然的に不機嫌になる。
視線を感じてアウルの方を見れば、勝ち誇った顔で此方を見ていた。
勿論、黙っているつもりはない。

「カガリ…」
「ん?」
「俺も久しぶりにこのゲームするよ」
「えっ…でも、レイは世界ツアーとかレコーディングとか、忙しいんじゃないのか?」
「忙しくない訳じゃないが…カガリも、海外製のこのゲームと通信してみたくないか?」

カガリの目がキラリと光る。
これは興味を示した証拠だ。

「わぁ、したいしたい♪」
「じゃあ、今度帰ってくるまでにやっておく」
「うん、楽しみにしてるな」

完全にカガリの興味を持っていたレイにアウルは歯をギリギリと噛み締める。

「ゲーム内に世界と繋がる場所があるから、特別に用意しなくても通信出来るつーの」

ボソッと呟いたアウルの声は誰にも聞こえる事はなかった。



Aへ続く










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