アリスドラッグ | ナノ


▼ 大根役者


 道化師に、部屋に連れてこられてから数十分。普通の一人用の部屋、そこにあるベッドの上でヘンゼルは寝転んでいた。手足を拘束され、首輪でベッドに繋がれているから逃げることもできやしない。肝心の道化師が、ヘンゼルをベッドに繋ぐなりすぐに部屋を出て行ってしまったのである。



(椛はどうしたんだろうな……あいつも改造とかされていなければいいけど)


「ヘンゼル君、ごめんね、待たせて。今日の仕事片付けてきてたんだ」

「……えっ」



 扉の開いた音が聞こえ、顔をそちらへ向けたヘンゼルは、かちりと固まった。そこにいたのは、顔立ちの整った痩身の男。誰だと一瞬思ったが、声は紛れもなくあの道化師の声である。



「……おまえ、あのピエロ?」

「ヘンゼル君、そろそろ僕を名前で呼んで欲しいな……僕はトロイメライの団長・ヴィクトール。これから僕とこの部屋で過ごすんだから、仲良くしよう?」

「……は? 俺が、おまえとこの部屋ですごす? 何言ってんだよ」

「そのままの意味だよ。ここは僕の部屋。キミはこの部屋でこれから暮らしてもらうからね」



 いろいろ突っ込むべきところ――この男・ヴィクトールがトロイメライの団長、つまり頭だということ、話し方があまりにもサーカスや家でみたときと違うこと――があるのだが、ヘンゼルは一番意味不明だと思ったことをまず突っ込んだ。どう見ても一人用の部屋でなにが楽しくて二人で暮らさなければいけないというのか。先ほどの牢屋で、彼とドクターは「調教」すると言っていた。そもそもこの場所で調教なんてムリだろう、ヘンゼルはいろいろと考えて、訝しげにヴィクトールを睨みつける。



「ショーに出れるように……立派に育ててあげるから」

「だからショーって……そもそもなんで俺を、あんな大金払ってまで買ったんだよ! 俺にそこまでする価値なんて」

「気付いていないの? 馬鹿だねヘンゼルくん」

「……っ」



 自分の置かれている状況に混乱し叫ぶことしかできないヘンゼルをたしなめるようにヴィクトールは目を細める。そして、ゆっくりとヘンゼルの乗るベッドに近づいていくと、その上に乗り上げた。ヘンゼルの両脇に手をついて、すっと冷たい瞳でヘンゼルを見下ろす。



「ここらへんでは珍しい黒の髪と瞳……それを引き立たせるような透き通った白い肌……細身でありながら健康的な肉体……自分の生まれ持った身体の価値にも気付けない……キミはなんて愚かなんだろうね? その点自分の美貌の価値を理解して利用していた弟くんのほうが賢いかな?」

「……まるで身売りがいいことみたいに言うんだな……わけがわからない。……それより、その弟……椛はどうした、俺と一緒にここに連れてきたんだろ」

「椛? グレーテル君のことかな? 彼ならキミと同じショーのドールにするから綺麗なまま他の部屋にいるよ。大丈夫、キミが怒るようなことは一切していない。……それよりさ、ヘンゼルくん」

「……んっ!?」



 視界がふっと暗くなり、ヘンゼルは目を見開いた。頬を手で包まれ、唇を塞がれる。手足を拘束されているため押しのけることもできず、身を捩ろうとも抑えられてそれはかなわない。出会ったばかりの男にキスをされたことに強烈な不快感を覚えて、ヘンゼルはぎゅっと目を閉じる。



「キミはわかっていない……キミがどれほど需要のある存在か、わかっていないんだね。嗚呼、嘆かわしい。……僕が、教えてあげる。僕の下で、美しく咲いてみせてよ。僕にとっての最高のドールになってくれ」

「――ちょっ……!」



 ヴィクトールはじっとりとヘンゼルの全身を舐めるように見つめたかと思うと、ヘンゼルのシャツのボタンを外し始めた。そこでようやく、ヘンゼルはトロイメライの面々の言う「調教」・そしてヴィクトールの言った「この部屋でヴィクトールと共に過ごすこと」の意味に気付く。彼らは、ヘンゼルを「抱かれる側」の男にするつもりなのだ。抱かれることに悦びを覚える身体につくりかえるのである。



「ま、待って……! 嫌だ、それだけは、ほんとうに……!」

「痛いことはしないよ、大丈夫。しっかり慣らして、キミの身体に合わせてやってあげるから怖がらないで」

「そういうことじゃない! おかしいだろ、俺は男だぞ! 男が抱かれるなんてそんな、変だと思わないのか、おまえは俺を抱くことが、いやだと思わないのか!」

「男同士だって、セックスはできる、これからそれを教えてあげる」

「だ、だから……! ほんと、それだけはやめ……」



 ヘンゼルはヴィクトールから目をそらし、やがて静かに涙を流し始めた。濡れた瞳を隠すように枕に額を押し付けて、嗚咽をあげる。

 珍しい反応だ、とヴィクトールは不思議そうにそんなヘンゼルのことをみつめていた。ヴィクトールが今までこのように調教してきた少年たちは、たしかに嫌がりはしたがこうして泣いたりはしなかった。男であるのに抱かれるというのはプライドを折られる、しかしなぜここまで。純粋に興味をもったヴィクトールはなだめるようにヘンゼルの髪を撫でる。



「なんでそんなに嫌がるの? 神様への冒涜になるから? キミ見かけによらず熱心に神様信じているんだね?」

「……そんなんじゃない……神様なんて信じていない……神様がほんとうにいるなら、椛と俺はあんな思いをしていない」

「じゃあなんで?」

「……難しい理由なんてねぇよ! 恥ずかしいからに決まってるだろ! ずっとこのトロイメライのトップに立っていたお前はわからないだろうな、町の片隅の男娼がどんな目でみられていたか……どんなに馬鹿にされていたか! 男が抱かれるってことはな……おかしいことなんだよ!」



 ヘンゼルと椛が生きるこの時代・国では、同性愛者は肩身の狭い思いをしていた。それというのも、宗教において生殖以外の性行為が神への冒涜とされているからである。同姓を愛することが、罪と言われていたのだ。

 椛の商売については、公には広まっていなかった。町の裏のほうで生きる人間の間で噂になるくらいであったが、人々は椛のしていることをなんとなく察していた。人間は後ろめたいことについての嗅覚は長けているものなのだ。



「椛の兄である俺が……どれだけ町の人から冷たい目で見られていたかわかるか、馬鹿にされたかわかるか! あいつの兄なんだからって俺もそういうことを強要されたことがあった、下品な言葉で罵られる毎日を過ごした……絶対にいやだ、俺は違う、俺は男に抱かれたりはしない!」



 いままで受けてきた屈辱を思い出して、ヘンゼルは悔しくなって、さらにぼろぼろと泣きだしてしまった。自分が身体を売ったわけでもないのに、その親族であるからという、それだけの理由で辛い想いをしてきたのだ。それ故に、ヘンゼルは男が男に抱かれるということに対して人一倍嫌悪感を抱いていた。今、自分がその状況におかれているなんて、信じたくないくらいに。



「……ヘンゼルくん……辛かったね。みんなキミに酷いことを言ってきただろう」

「……、」

「でもね……愚かなのはキミでも、グレーテルくんでもない。キミたちを馬鹿にした人々さ。彼らは、キミたちの本当の美しさを知らない……知らないままに、死んでゆく。ざまあないね」



 ヴィクトールがヘンゼルの濡れた瞳に口付ける。涙を止めることに必死だったヘンゼルは、抵抗する気力がわかずにただそのキスを受け入れた。



「禁じられたものは、美しい。人間というものは、背徳感に酔うものさ。まるで神話にでてくる天使のように美しいキミが男に抱かれる姿を人々はどう思うだろう……審判は頭の凝り固まった莫迦共じゃない、ほんとうの美しさを知っている「観客」たちさ」

「……待っ」

「僕の下のキミは綺麗だよ、誰もキミを否定したりしない……僕の側にいる限り」

「――んっ」



 ヴィクトールが再びヘンゼルに口付ける。優しく、触れるように。暖かな熱を孕んだその瞳と、ぱちりと視線がぶつかる。悪魔のように赤みをを帯びたその瞳は、間近でみると吸い込まれそうになった。目を閉じようと思っているのに、なぜかそれができない。不思議なその瞳の引力に、ヘンゼルはひかれていた。



「……う、……ん」



 唇を解すようにやわやわと噛まれ、角度を変えながら何度も何度も。絶妙な力加減で繰り返されるそれは、正直気持ちよかった。相手が見知らぬ男であるという事実すらもどうでもよくなるくらいに。

 男とは、絶対に性的な交わりをしたくないーーいや、女であっても。そういったことでずっと揶揄されてきたから。

 それなのに、この男の熱が――



「……ひっ、」

「くち、あけて」

「……やだ」

「あはは、強情で結構。可愛いね」



 流されかけていた自分にハッと気付き、ヘンゼルはヴィクトールを睨みあげた。しかしヴィクトールはそんなヘンゼルの表情すらも愛おしげに見下ろす。



「……手、痺れていない? 大丈夫?」



 不意にヴィクトールがヘンゼルの頭上で纏めてあったヘンゼルの手に視線を落とした。先ほどからヘンゼルが身動ぎするたびに鎖がガシャガシャと鳴って煩かったのだろうか。ヴィクトールはポケットから小さな鍵をとりだすと、ヘンゼルの手錠を外し、手を解放してやる。



「……わかっているね。暴れればもっと酷いことになるよ。手を解放されたからといって、キミは決して自由じゃない」

「……ッ」

「いい子。ちゃんと理解しているね……可愛がってあげる」

「あっ、」



 ヴィクトールが何度目かになる口付けをヘンゼルに落とす。ヘンゼルの髪を優しく撫で、耳朶を指先で揉み、まるでヘンゼルの心とかすように。唇が熱くなってくるほどに、境界がとけてしまうくらいに繰り返されるキス。ヴィクトールのすらりとした指による愛撫で解れてしまった抵抗心。つ、と舌先で唇をつつかれ、ヘンゼルはとうとうヴィクトールの舌の侵入を許してしまった。




「ん……」



 するりと熱が口の中に入り込んでくる。それと同時に、耳を塞がれてしまった。何も聞こえない、目を閉じているから何も見えない。頭の中で反響する水音が、脳内を侵食する。全ての感覚が、ヴィクトールとのキスに集中する。

 うっかり侵入を許してしまったことに今更のように後悔した。本当に囚われてしまいそうになった。優しく絡められた舌先から、甘い痺れが生まれ出る。されるがままに、ただそのキスは深みを増していった。



「んっ、……ふ……」



 解放された手の行き場が見つからない。どこかを掴まなければ、飛んでしまう。指先で空を掻き、もどかしさを握りしめ、ようやくたどり着いたのは、ヴィクトールの背中。わけがわからないままに、彼の背のシャツの皺をかき集めていた。



「っん……!?」



 シャツの中に手を入れられ、ヘンゼルはびくんと身じろいだ。得体の知れない男・ヴィクトールへの恐怖のためか敏感になった肌は、すこし撫でられただけでも強い刺激として受け取ってしまう。



「ヘンゼルくんは、どこが好き?」

「し、知るか!」

「お腹? 胸? 脇?」

「ちょっ、やめっ」



 するりと手のひらで全身を撫でられ、ぞわぞわと変な感じがヘンゼルを襲う。腹部をくるくると円を描くように這い、やがて胸元まで登ってくると軽く揉むように指先に力をこめられる。



「どこかくすぐったいところとかは? くすぐったいところって性感帯らしいね?」

「し、知らない、触るな!」

「焦ってるところも可愛いね」

「うるさい、気持ち悪……あっ……!」

「ん?」



 その手が背中を滑ったとき、ヘンゼルの声が僅かうわずった。どこかぼんやりとしたヘンゼルの表情を確認すると、ヴィクトールは嬉しそに笑う。



「ヘンゼルくん」

「な、なに……んっ、」

「ここ、いいんだ?」



 肩甲骨の頂きを指でするりと撫ぜ、ヴィクトールは囁いた。どこか艶やかに伏せられたヘンゼルの瞳が濡れ震えている。



「ここはねェ……昔人間が天使だったときに羽が生えていたときの名残っていわれている」

「っ、……ふ、」

「キミ、本当に天使のようだね」

「う、わ……!?」



 不意にヴィクトールに体を反転させられて、ヘンゼルはみっともない声をあげてしまった。ヴィクトールはうつ伏せにしたヘンゼルの上にのしかかると、一気にシャツをたくし上げる。



「……綺麗な背中だ。さぞ、白い羽が映えるだろうね。……でも、そんな無垢なキミには黒い羽のほうが似合うかもしれない。美しいものほど、堕ちたときにはさらに美しくなるものだからね」

「ひっ……ぃ、ッ」



 ヴィクトールがヘンゼルの肩甲骨に唇をよせる。びくん、とその身体がこわばると、よりその骨はくっきりと浮き出てきた。

 ああ、なんてそそられるのだろう。甘そうだ。

 舌先で、皮膚を味わうように舐めつける。じりじりと、熱を溶かしてゆくように。同じところになんども、なんども、しゃぶるように舌を這わせた。



「ひっ、……ん、ぐ……」



 逃れられない責め苦。ゾクゾクと這い上がってくる熱。目をきつく閉じ、シーツを握りしめ、唇を噛み締めて……ヘンゼルは耐える。



「ヘンゼルくん……唇噛まないで。傷になっちゃう」

「んっ……あっ、や、だ……」



 ヴィクトールがヘンゼルのたぐまったシャツに下から手を滑り込ませ、襟元から指を出す。そして、そのまま指を一本、ヘンゼルの唇に差し入れた。



「ふっ……」



 きっと、これを強く噛んだりしたら何かされる。それを直感で感じ取ったヘンゼルは、されるがままに指を受け入れた。ずる、ずる、と抜き差しを繰り返される指に、唾液が絡まって気持ち悪い。次第に零れてゆく雫も、抑えることはかなわずに唇の端を伝ってゆく。



「いい子……いい子だね、ヘンゼルくん」

「あ、あぁっ……」



 再び、背中へキスの雨。閉じることのできない唇から、不意にはしたない声が溢れてしまった。




「……ッ」



 自分のものとは思えない甲高い声に羞恥を覚え、ヘンゼルは微かに顔を赤らめた。再び出してたまるかと、ぎゅっとキツくシーツを握りしめる。



「ヘンゼルくん、大丈夫……僕しか聞いていない。恥ずかしくなんてないよ」

「ぅ、あ……、っ」

「きかせて……ねぇ、」

「はっ、ぁあ……!」



 かり、と軽く肩甲骨を噛まれる。そして、舌先をぐりぐりと押し付けられたかと思うと、軽く吸い上げられた。やがて、背中の中心をはしる綺麗な筋に、ヴィクトールは舌を這わせる。窪みにはめこむようにしてゆっくりと、背筋を辿るように舐め上げた。

 力を込めすぎて白くなりかけた手に、ヴィクトールのそれを重ねられる。まるで、全身を彼に包まれたような心地になってヘンゼルは諦めたように目を閉じた。……逆らうことなんて、できやしない。



「あっ、……ん……」



 ずるりと唇から指が引き出される。そして、それは首筋を、鎖骨を……



「ひっ……! ん、ぐ……」



 局部に触れられて、ヘンゼルはビクリと腰を浮かせた。ヴィクトールはその瞬間に、ぐっと腕ごとヘンゼルの腹部に手を滑らせて、手のひらで大きく局部を揉みしだき始める。



「あっ、ちょっ……んっ、ぁふっ……」



 背中、局部と同時に責められてわけがわからなくなってくる。じわじわと這い上がってくる熱が怖くて、ヘンゼルは枕に額を押し付け歯をくいしばった。腰だけを浮かせ這うような体勢になっているのが屈辱的だったが、今はそんなことを気にしている場合ではない。この熱を、どうにかしなければ……



「ヘンゼルくん……気持ちよさそうだね。ここ、先からでてる」

「あぁっ……! やめ、さわる、なぁ……あぁ……」

「腰揺れてる……もっと感じて、素直になりなよ」



 鈴口をぐり、と親指で擦られて、堪らず腰が跳ねた。先走りを指先に絡め、何度も何度もヴィクトールは同じ動きを繰り返す。ぬち、ぬち、と卑猥な音が耳奥に届いてかあっと顔が熱くなってくる。



「はは、びくびくいってる。気持ちいいんでしょ? ほら、ヘンゼルくん」

「……、……」

「嘘つき、首なんて振って……それでイッたりしたら酷いことするからね?」

「……!」



 はっ、と冷たい笑い声が上から降ってきて、ゾワリと寒気が全身を貫いた。そしてその瞬間、ヴィクトールはヘンゼルのものを軽く握って、上下に手を揺らし始める。



「あッ……! まっ、まって……それ、だめッ、……ひ、ぁあっ!」

「なに? 僕が聞きたいのは『だめ』じゃない。どうしたの? まさかイッたりとかしないよね?」

「ひっ、あっ、あっ、だめ、だめ、ほんと、むり、止め、やだ、」



 ゾクゾクと下腹部に熱が集まってくる。身体を捩り、シーツを引っ掻き、逃げようとしてもヴィクトールがそれを許してくれるはずがない。次第に早くなっていく手の動きにヘンゼルは身体を震わせて限界を迎えようとしていた。頭が、真っ白。ヤバイ、イク、むりむり、イク……!



――酷いこと、される



「きもち、いい、です……気持ちいい、から……! やめてください、酷いことは、しないでください……!」




 ああ、なんてことを……なんてことを言ってしまったんだ。羞恥心と敗北感で、ヘンゼルの全身からがくりと力が抜ける。項垂れるヘンゼルの耳元にヴィクトールが唇を寄せる。



「気持ちいい……? へぇ、気持ちいいんだ? 男にこんなことをされてヘンゼルくん、気持ちいいんだねぇ……君変態だね」

「……っ」

「ヘンゼルくん……君、素質あるよ」

「そし……つ?」



 彼の指す『素質』がなんのことかわからないわけがない。「男に抱かれる素質」だ。「気持ちいい」というのは言わされた、ということもあるが紛れもない事実だ。熱くて堪らないこの身体がなによりの証拠。



「……なに? 泣いてるの?」



 目の前が真っ暗になった。自分も、おなじだ。身売りをしている人達と、おなじ。あんなに、嫌だったのに。



「泣かないでよ。言ったでしょう? 抱かれることはなにも悪いことなんかじゃないって」

「あ、あぁっ……」

「いい子……ちゃんと言えたんだからね、ヘンゼルくん……とびっきり気持ちよくしてあげる」

「んっ、ふ、ぁあ……ッ」



 嫌だったのに……



「んンッ……!?」



 根元をぎゅっと掴まれ、思わずヘンゼルの腰がびくんと跳ねる。耳元で、吐息混じりのヴィクトールの笑い声が聞こえて、ヘンゼルは逃げるように首を捻る。



「かわいいね。もっといい声で鳴いてね」

「あ、……ん、ぅ」



 ヴィクトールがヘンゼルのものの先から溢れる液体を指に絡め取る。そしてその指でそっと後孔の入り口を撫でた。



「……っ、待っ、それは……!」

「いや? 本当にそうかな? 今よりずっとずっと気持ちいいよ? ゆっくりやってあげるから、痛くない」

「やだ、嫌だってば……」

「嘘つかないでよ。僕が入り口撫でてあげるとこ〜んなに欲しそうにひくひくさせて。想像してごらん? ここの、ナカ……奥の方ぐりぐりされるの。いっぱいふと〜いものに突かれるの。熱くて、熱くて、中からじわじわ気持ち良くなって、頭が真っ白になって……それでもナカ掻き回されて……はは、またここピクピクいった。どう? 想像して感じた?」

「……は、ぁっ……」



 あつい。触られたところがじんじんしてきて、なかがぴくぴくしているのが自分でもわかる。なに、これ。身体が、おかしい。



「気持ちいいでしょ? ここ、撫でられるの。ねぇ?」

「……きもち、いい」

「いい子……奥のほうもいっぱい弄ってあげる」

「あっ……あぁあ……」



 つぷ。

 小さな音をたてて、指がなかに入れられる。ぎゅうぎゅうにしまったそこを押し進められると、少し圧迫感を覚えた。



「ああ、はいっちゃったね、ヘンゼルくん」

「……ん、」

「わかる? ここ、こうやっていれることができるんだよ? それにね、ここ」

「あっ……!?」

「ここ、男の子が一番気持ちいいところ」



 ヴィクトールが、指の腹で「それ」を擦りあげた。その瞬間、なかがぎゅうっとしまる。



「待っ……そ、それ……だめっ、変……」

「変じゃないよ、それでいいんだ。気持ちいいでしょう?」

「あっ……あぁあっ……むり、ほんと……あッ、はぁあ……」

「気持ちよさそうだね。なかもトロトロだ……僕にいっぱい身体触られて、ずっとここひくひくしてたんだねェ……嬉しいでしょう? 今からここいっぱいいじめてあげるからね」

「あぁ……!」



 熱さが渦のようになって、下腹部から這い上がってくる。身をよじり、息を吐いて、なんとか正気を保とうとするも、余計におかしくなってしまいそうだ。これが快楽だ、ということくらいヘンゼルにも理解できた。しかし、排泄器を弄られてイきそうになっている自分が酷く浅ましく思えて、また、涙がでてくる。



「また、泣いてるの?」

「ふっ、あ、ぁあ……」

「泣きながら甘い声あげちゃって……愛おしいね、ヘンゼルくん……もっとどろどろにしてあげる。ヘンゼルくん……ほら、もっと感じて、悪いことじゃないよ、男の子がこうされて気持ち良くなるの……全然悪いことじゃないから」

「……ぁんッ……」

「ほら、ここ。ここ、男の子にしかないんだよ、知ってる、前立腺? こうして奥のほう……ペニスを挿れるとちょうどあたる部分にこんな器官があるの。面白いでしょう? まるで、男の子がここにペニスを挿れられて感じることができるように体がつくられたみたい。ヘンゼルくん……だから、ね? 素直に感じて。いいんだよ、ここでイくの、変なことじゃないよ」

「……っ」



 ヴィクトールがヘンゼルの耳元で、甘く囁く。彼の体に覆われて優しく唇で耳朶を甘噛みされると、なんだか全てが赦されたような心地がした。



「あ……あぁ……」



 くち、くち、と卑猥な音がヘンゼルの耳を犯す。これが自分の排泄器からでている音だなんて信じられない。こんなに、そこを弄られて感じているなんて、信じたくない。

 ごりごりと一番感じるところを擦られて、絶頂までいってしまいそうになる。しかし、根元を握られているから出すこともかなわない。



「むり、むり、あっ、あぁあッ……はなして、もう、もう……」

「なに? イっちゃいそう?」

「イく……イく、から……! はなし、て……」

「ふぅん? そんなにお尻の穴触られるの気持ちいい? イっちゃうくらい? あはは、そりゃあ……」

「あっ――あぁあッ……!」



 ぐちゅぐちゅと激しい音が響き始める。めちゃくちゃな出し入れに、ヘンゼルの頭の中が真っ白になった。



「メスになっちゃったねェ、ヘンゼルくん! ここでイケるなんて! ほら、言ってごらん、気持ちいいって」

「あっ、あっ、きもち、いい……きもちいい、です……ひ、ぁやあッ!」

「もっと可愛くおねだりしてごらん? イカせてくださいって……もっと激しくしてくださいって」

「んぁ……っ、イカせて……はァッ……や、あぁっ、ん……もっと、して、はげ、しく……」



 もう、自分が何を言っているのかわからなかった。この苦しさから解放されたくて、ヴィクトールの言葉にただただ従った。どんなに自分が卑猥なことを言っているのかも、わからないままにヘンゼルは叫んだ。



「イク、イっちゃう、から、アッ、ぁあっ、はなして、おねがいします、ゆるして、だめ、だめ……」



 激しくなる一方の水音も、擦れるシーツの音も、自分の声さえも聞こえない。ヘンゼルは襲いくる快楽に完全に支配されてしまっていた。



「ふっ……ん、ァアッ!」

「おっと……今イッたね? ぎゅうってしまった。わかる? 出さないで、ヘンゼルくんイっちゃったんだよ?」

「は、……ぁ、ああ……」

「……あと、何回イケるかな?」

「……! や、だ……許して、ください……もう、だめ、ぁ、あぁ……!」



 ヘンゼルが絶頂に達しても、ヴィクトールは手を休めようとしない。ヴィクトールに根元を掴まれて出すことができなかったヘンゼルは、熱を吐き出すことができなかったため、再び与えられた刺激に酔い始めてしまう。



「や、や……あ、ぁあ……」

「可愛いね、ヘンゼルくん……ここ? 気持ちいい?」

「……はい……あっ、ぁ……」

「ふふ、そう。じゃあもっといっぱい触ってあげる」

「あ……あ……あ……」



 ゆるゆるとしつこくソコを刺激し続ける。何度も何度も達して、それでもヴィクトールはソコを虐めることをやめようとしない。

 やがて、ヘンゼルは意識を朦朧させ始め、動かなくなってしまった。とろんとしたその表情に、ヴィクトールはほくそ笑む。そして、びくびくと細かい痙攣を繰り返すその身体を、そっと抱きしめた。



「綺麗だよ、僕の腕の中で堕ちてゆく、君。ヘンゼルくん……愛おしいね」

「……」

「あれ? 寝ちゃった? はは、どこまでも可愛いなァ」



 ヘンゼルはとうとう意識を手放してしまった。ヴィクトールはそんなヘンゼルに優しいキスを落とす。



「おやすみ、ヘンゼルくん」



 夢に堕ちても尚、ヘンゼルの身体の震えは止まらない。悪戯心でイイところを擦りあげてみればビクンと腰が跳ねる。もっと限界までやってやろうとヴィクトールの嗜虐心が震えたが、そこはぐっと我慢した。

――明日も、調教するから。



「明日も僕と一緒だよ、ヘンゼルくん」



 くたりとしたヘンゼルを、ヴィクトールはぎゅっと抱きしめる。部屋の電気を消すと、そのまま布団を被って、ヴィクトールも目を閉じた。




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