とある狂人の育成記20

 波折が二年になった夏の終わりのころ。生徒会メンバーの入れ替えの時期だ。後期からは生徒会から三年が抜けるため、新しいメンバーが一気に入ってくる。波折と鑓水は続投。新たに牧石と月守……そして、一年の神藤が入ってくる。一年で生徒会に入ったというと、波折以来だろうか。俺は興味が湧いて彼のことの成績をみてみれば――なんと、攻撃特化の生徒。攻撃特化で生徒会に入るほどに優れた魔術の技量を持つ……俺の好奇心は、加速した。

 しかし、波折は神藤のことは激しく拒絶した。せっかく俺が神藤が波折のことが気になるように仕向けても、波折は必死に神藤のことを拒む。

 理由は、神藤が魔女を激しく嫌っているから。どうやら、親を魔女に殺されたらしい。そんな神藤と、魔女である自分が親しくして後に彼を裏切ることになりたくない、だそうだ。そして、神藤が呆れるほどに真っ直ぐな少年であるから。自分が悪であると自覚している波折にとって、神藤は眩しく見えたらしい。彼を汚すことになるのを、波折は拒んだのだ。彼が純粋な好意を波折に向ければ向けるほど、波折は神藤への罪悪感が募り、一緒にいることが苦しくなっていったらしい。ただ、罪悪感を覚えるくらいには神藤のことが好きだったようだ。ゆっくりと変わっていく距離感と彼と過ごす高校生らしい時間が、波折にとって幸せな時間だったらしい。

 結局、波折は神藤の好意を受け入れることになったが。斯くして波折は同時に二人の少年の心を奪ってしまった。ふたりとも、攻撃特化と防御特化と正反対の性質の魔術を持つ人間で、魔術を知りたい俺としてはありがたい話だ。

 さて防御特化の鑓水は、こんな決断をした――波折が悪であると知りながら、ずっとそばにいると。自らも同じ色に染まり、波折を支えていくのだと。なかなかに極端な決断だ。普通の人間だったら、絶対にできないだろう。愛している愛していない、そういう問題ではない。鑓水という人間が、普通と離れたところにあるのだ。相手の性質を保ちながらその幸せを願おうとする……これが、防御に突出した人間の「愛」らしい。

 問題は、神藤。鑓水のことを知ることができたから、次は神藤のことを知りたい。鑓水と真逆の人間である神藤は、波折が悪であると知った時……どんな決断を下すのか。ただ神藤は鑓水ほどキレるわけでもなく、波折のことを探ろうともしない。こっちから何かを仕掛けてみたいところだが……波折はやはり、神藤を自分たちの問題に巻き込むことを拒む。

 さて、どうしたものだろう――
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