晩餐会


「あ、あの……ご主人さま……」


 鑓水が波折のことを全て知ってから、数日たったある日。淺羽は波折と鑓水の二人を自宅へ招待した。積もる話もないままに二人が連れて来られたのが、寝室。淺羽は波折を引っ張ってベッドに座ると波折の服を脱がし始める。


「そろそろね、色々とやろうと思って。だから、その前に」

「……」


 淺羽が波折の服を脱がしてゆくのを、鑓水は黙ってみていた。

 色々ってなんだ、と聞きたいところだが、なんとなく察しがつく。そろそろ、篠崎が殺されたという事実が公にでるだろう。鈍い沙良でも、波折につきまとっていた篠崎が死んだとなれば、何かしら勘付くかもしれない。そこから、淺羽は沙良に何かを仕掛ける。

 止める術が、自分にはない。今の自分は淺羽の奴隷も同然だ、と鑓水はただ拳を握りしめることしかできない。


「おいで、鑓水くんも。君も俺達の仲間だ。一緒に愉しもうじゃないか」


 え、と鑓水が固まる。淺羽と、三人でやるの? と。

 波折が淺羽に抱かれているところは、一番見たくなかった。淺羽には、絶対に勝てないからだ。もはや愛とか依存とか、そんなものではない淺羽と波折の二人の間に、自分は入っていく余地などない。それを見せつけられながら、波折を抱くなんて嫌だった。


「や……や、です、ご主人さま……」

「なんで? 二人から愛されるの、気持ちいいと思うよ?」

「けいたに……ご主人さまに抱かれているところみられるの、はずかしい……」


 そうだろうな、と鑓水が心の中で舌打ちをする。淺羽に抱かれているときの波折は、鑓水に抱かれているときよりも数倍乱れる。波折もそれを自覚しているのか、と思うと苛立った。淺羽に抱かれていると俺に見られたくないという思いなんか吹っ飛んで乱れるのだと、波折がわかっている――それに、ムカついた。


「あっ……ご主人さま……だめっ……」

「……」


 ムカつく。ムカつくムカつく。俺は淺羽に堕ちたんじゃない。波折に堕ちたんだ。淺羽の好き勝手されるのが、本当にムカつく。


「……波折」

「……けいた?」

「そいつばっか見てんなよ……!」


――淺羽が、嗤う。

 鑓水は二人に近づいていって、波折の唇を奪った。波折がビクリと震え、目を見開かせる。


「んっ……!?」


 鑓水は淺羽の手を払い、自らの手で波折の服を脱がし始めた。波折が慌てて鑓水のことを押しのけようとするが、激しいキスに翻弄されて身体が上手く動かない。舌を絡めとられ、頭のなかがふわふわとしてきたところで、やっと解放される。


「けい、た……」

「……俺の前で、あんまりご主人様ご主人様して欲しくないんだけど」

「……っ、」

「おまえがそいつから離れられないのは知ってるし、理解しているけどさ……俺だって嫉妬しないわけじゃないんだよ」


 ……特に、淺羽は気に食わない。沙良だったら、まだいい。この男は波折のことを道具として支配している。嫌いだ。淺羽に下ってはやるけれど……嫌い。嫌いな奴に骨抜きにされている波折のことなんて、見たくない。


「俺のほうが、波折のこと気持ちよくさせてやれる」


 鑓水が、波折の首筋に吸い付いた。嘲笑うような声が聞こえて、鑓水は淺羽を睨み上げる。淺羽はにやにやとしながら波折の下着に手を突っ込んで股間を揉みしだき始める。


「あぁんっ……! ご主人さまっ……」

「……俺を、呼べよ、波折……そいつよりも、俺のことを……」

「……っ、あっ」


 鑓水が、ここまで強い独占欲を現すことは珍しい。少し苛立った様子で、それでも激しく自分を求めてくる鑓水に、波折はくらくらとしてしまう。

 でも、鑓水だけには集中できない。この身体をつくりあげた淺羽が、敏感なところを触ってくる。ぞくぞくと快楽が這い上がってきて、勝手に声が零れてしまうのに……声を出せば、鑓水が嫉妬する。

 どうしようもない。沙良と鑓水の二人に抱かれたときとは、違う。水面下で火花を放つ二人に挟まれて、どっちになびくこともできない。でも、身体はどんどん感じてきてしまって、狂ってしまいそうになる。波折は必死に声を堪えるが……耐えれば耐えるほど、苦しい。


「んぅっ……」

「目、開けてろ……」


 鑓水が波折の唇を舐める。そして、甘咬みする。至近距離で視線を交えながら、キスをするわけでもなく唇を責められる。呼吸もまともにできなくて、心臓がどくどくと高鳴って……声をあげることもできない。淺羽にアソコに与えられる刺激も相まって、もう、ダメ。波折は我慢の限界といったふうに鑓水に口付けたが、鑓水は「だめだ」というように波折の頭を掴んで唇を離す。そしてまた、唇を責める。


「けいた……キス……したい……」

「俺のことだけを見るようになったらな」

「そん、なぁ……」


 波折の瞳から、ぽろぽろと涙が零れ出す。ぐすぐすと泣きながら、波折は鑓水の服をぎゅっと掴んで、必死にキスをねだった。それでも鑓水はキスをしない。鑓水自身、キスがしたくてたまらなかったが、波折の意識をどうしても自分に向けたい。波折が自分を求めるように、焦らして焦らして、焦らしまくる。


「けいた……おねがい……けいた……」

「――あれ、波折。俺のことが一番だよね?」

「っ……ごしゅ、じんさま……」


 波折が鑓水の名を連呼するようになったとき。淺羽が、ぎゅっと波折の乳首をつまみ上げて耳元で囁いた。びくんっ、と波折が跳ねて、振り返る。もう少しだったのに……と鑓水がキッと淺羽を睨みつければ、淺羽はにやにやと笑うばかりであった。


「うぁっ……」


 鑓水が波折の臀部に手を回す。そして、淺羽に触られていないほうの乳首にも。感じるところ全てを触られて、波折は声にならない声をあげながら、身体をばたばたとさせて藻掻いた。淺羽に触られると調教されきった身体が疼いてイッてしまいそうになる、のに……そうすれば鑓水が睨みつけてくる。その視線でまたゾクゾクとしてしまって、そして淺羽が横槍をいれてくる。それの、繰り返し。


「もう、いやぁ……」

「こんなにぐちゃぐちゃに濡れているのにね?」

「うう……」


 くちゅくちゅと音が聞こえてくる。波折はもう感じきっていて、触ってくださいと言わんばかりに脚をぱかりと開いていた。ただ、背後にいる淺羽、そして前にいる鑓水。どちらにも寄りかかることができず辛そうだ。どちらかに寄りかかれば、また怒られる。でも、もう真っ直ぐにしているのも辛い。ふらふら、ふらふら、虚ろな目をしながら波折は「あ、あ、あ、」と儚い声をあげてイッてしまった。

 がく、と波折の身体が後ろに倒れこむ。鑓水がハッとして、波折の腰を引き寄せて自分へもたれかからせた。波折は「はー、はー、」と荒く呼吸をして鑓水の首元に顔を擦り付ける。やっとこうしてすがりつくことができた、と波折は鑓水にぎゅっと抱きついた。


「波折。今の、どっちに触られてイッたの?」

「……わかり、ませ……」

「ふうん?」


 ひくひくと震える波折に、淺羽が声をかける。波折は鑓水の首元に顔をうずめながら、ふるふると顔を振った。淺羽のくすくすという笑い声が聞こえてくると、波折はビクッと怯えたように肩を跳ねさせる。


「波折。じゃあ、俺達にわかるように教えてよ」

「へ……?」


 ぐ、と淺羽が波折の頭を掴み、振り向かせた。鑓水が睨んで制止をかけても淺羽は物怖じしない。


「これから二人のおちんぽ交互に挿れるからね。どっちのとき気持ち良さそうにしてたか、俺達みてるから」

「……っ」


 波折が瞠目して、息を呑む。そんなことを言ったら、鑓水がどうなるのかわからない。ぎゅっと震える手で鑓水の服を掴むと、淺羽はそんな波折の腰を持ち上げて鑓水にしがみつかせたまま臀部を突き出させる。


「じゃあ、俺が先」

「おい……何勝手に」

「俺が先だよ。俺に突かれてよがっている波折のことをよくみているんだ。そして、ソレに負けないように、次に気持ちよくしてあげてね」


 くくっと淺羽が笑って、自らのペニスを波折にアソコに押し付ける。波折が顔を真っ赤にしてのけぞって、そして儚い声をあげた。


「はぁんっ……」

「ほら、おまえのずーっと欲しかった、俺のおちんぽだ」

「ごしゅじん、さまっ……あっ……! 入って、くる……」


 ずぶっ、と淺羽のペニスが波折の奥まで入り込む。そうすれば波折はがくがくと震えだし、ペニスからぱたぱたと白濁を飛び散らせた。たまらない、そんな波折の様子に鑓水はぎりっと歯を噛みしめる。見たくもない結合部をみれば淺羽の太いペニスがずっぽりと刺さっている。


「ほら、どう? 俺のは」

「はっ……はっ……おっきぃ……」

「大好きだろ? 俺の。ほら……言って、みて!」

「あぁんっ!」


 ぱん、と淺羽が腰を波折のそこに叩きつける。その瞬間波折の身体は大きく跳ね上がって、甲高い声が口から漏れだした。


「ごしゅじんさまの……おちんぽっ……あっ……きもち、いいっ……!」

「ほら、もっと言え!」

「あんっ! あんっ! さいこぉっ……! ごしゅじんさまのおちんぽ、さいこぉっ!」


 がくんがくんと揺れる波折の身体を抱きながら、鑓水は唖然と波折を見下ろしていた。ものすごく、淫らだ。いつもの波折も充分に卑猥だが、今の波折はそれよりもずっとずっと。


「だいすきぃっ……ごしゅじんさまのおちんぽ、だいすきっ……!」


 目はとろとろに蕩けさせて今にもイカれてしまいそう。唇からは唾液をこぼして、舌をだらりと垂らす。次第には自らも腰をふりふりと降り始めて、更なる快楽をむさぼる。「あひっ、ひゃあんっ、」としきりに鳴いている波折は、もはやいつもの面影がない。


「……」


 ムカつく。なんで、こんなキチガイに抱かれてよがってんだよ。俺のほうが、絶対に波折を愛しているのに。


「あぁんっ……! あひゃあっ! ごしゅじんさまっ!」


 鑓水の中で黒いモヤがぐるぐると回りだす。


「――あれ、鑓水くん」


 鑓水が黙りこんでいると、淺羽が声をかけてきた。ゆらりと鑓水に見つめられれば、淺羽はにっこりと笑ってペニスを波折から引き抜く。


「あぅん……」

「どう? 俺よりも波折のこと、気持ちよくさせてあげれそう?」


 淺羽はまだ波折のなかに出していない。波折は物足りなそうにはあはあと息をしている。淺羽のことをチラチラとみては「なかにちょうだい、はやく、はやく」と視線で訴えている波折をみていると鑓水はムカムカとしてしまって、勢い良く波折の頭を掴んで自分のことを見させる。


「ざけんなよ、俺のほうが絶対に波折のこと感じさせられる」

「けい、た……?」


 いつもよりも乱暴。そんな鑓水をみて波折は不安そうに瞳を震わせた。そのまま横に倒されて、腰を掴まれる。


「あっ……あっ!」


 思い切り、鑓水は波折の奥を突き上げた。いきなり挿入されて、波折はびっくりしたようだ。びくんっ、とのけぞって大きな声をあげてしまう。


「きゃぅっ……あぁあっ!」


 ごりごりと奥の方を抉るように、鑓水は腰を押し付けた。波折の感じるところは、大分知っているつもりだ。全部、思い切り責めてやる。焦らしもなにもいらない、この「ご主人様」のことなんて考えられなくなるくらいに、イかせてイかせてイかせまくってやる。

 鑓水は、淺羽の挑発に感化されてムキになっていた。とにかく波折の心を自分のものにしたかった。波折が幸せなら、波折が誰と一緒にいてもいいと思っていたのに、淺羽にはやりたくない。淺羽だけはダメ。こいつにやるくらいなら、自分のものにしてやる。


「あっ! あっ! あっ! あっ!」

「波折、イけよ……もっと、もっとイけよ」

「あっ……ひゃあんっ! あっ、いっ……いくっ……! あ、だめっ、あっあっ!」


 ズコズコと激しくペニスを出し挿れする。波折の身体はがくがくと揺さぶられ、波折の焦点は定まっていない。すがりつくところを求めて淺羽に手を伸ばせば、鑓水が勢い良くその波折の手を払う。


「はあっ……はぁっ……あっ、あっ……」

「波折……こっち見ろよ……!」

「け……いた……あぁあっ……あっ……!」


 何度も何度も、波折はイッた。びくびくと激しくペニスを締め付けられて、鑓水にもやがて絶頂が訪れる。

 パンッ! と思い切り腰を打ち付けて、鑓水は波折のなかに精液を出してやった。そうしていると、淺羽がにこにこと笑って、自らの手でペニスをしごき、波折の顔に射精する。


「うっ……」


 波折がひくひくと震えて、目をとじる。顔にかかった精液が、てらてらと光っている。


「波折。どっちが気持ちよかった?」

「……わから、ない……です……」


 波折は泣きながら、呻くように答えた。いつもよりも乱暴に犯されて身体に負担がきているのかもしれない。はっきりと答えを言わなかった波折に、淺羽はふうとため息をついて笑う。


「まあ、いいか。さて、鑓水くん。俺達の親睦も深まったところだし」

「……親睦ゥ?」


 嫌味にしか聞こえない淺羽の言葉に鑓水は眉をひそめる。しかし淺羽は全く気にしていない。


「これからのことだけど。君にも、協力してもらうからね」

「……協力」

「そう。君は俺達の仲間だから。君も、魔女になってもらうよ」


 目を細めた淺羽を、鑓水はじっと睨んだ。気味の悪い目つきだ。蛇のような。

 どうせ、逃げられない。波折のそばにいると決めたからには、どんなことだってしなければいけない。この男の餌であると知りながらも……これから自分は、世間から断絶されて生きることになるとしても、手を悪に染めなければいけないのだと――鑓水は諦めたように笑って、淺羽の言葉に耳をかたむけた。


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