ひとりの帰り道
 生徒会の活動を終えて、帰路に就く。今日は一日中上の空で何にも集中できなかった。考え事をするにしてもこんなことは初めてで、波折は自分がおかしいんじゃないかと思ってため息をつく。

 すでに暗くなった空を見上げて、冷たい風を感じる。最近はずっと二人で帰っていたから、一人で帰るのは久々だ。隣に誰もいないと少し寒いんだな、と思った。


「……!」


 そのとき、スマートフォンのバイブレーターがなる。ポケットから取り出してみれば、鑓水からの電話だった。どき、として画面をタップして耳に当てれば、能天気な声が聞こえてくる。


『もしもし、波折?』

「どうした」

『えっ? いや〜頼みがあってさ!』

「頼み?」

『コンビニであんまん買ってきて! 今めっちゃ食いたい』

「……はぁ?」


 ものすごくくだらないことで電話をしてきたな、と波折は軽く吹き出した。それと同時にきゅ、と小さく心臓が痛んで変な感じがした。


「わかった、買って帰る」

『やり〜! ありがと!』

「もうすぐ帰るから」

『おお、待ってる!』

「あんまんを?」

『ん〜? なんて言って欲しい?』


 ああ、変な冗談を言ったかな、なんて波折は後悔する。一瞬の間波折が黙り込めば、画面の奥から笑い声が聞こえてきた。


『波折のこと、待ってるよ』

「……あっ、そ」

『早く会いたい、波折』

「……うん……」


 かあっと顔が熱くなった。本当に馬鹿な質問をした、と少し前の自分を殴りたかった。波折はぼそりと「じゃあ」と言って電話を切って、スマートフォンをポケットに突っ込んでしまう。


「……っ」


 どうしよう。家に帰ったら、彼と目を合わせられないかもしれない。

家に帰るのが億劫で。でもそれでいて足は何故か早足で。こんなの初めてで、どうしたらいいのかわからなかった。
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