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「なに? 君の店ってこういう奴? ヤるところ?」
俺の店、『ブレッザマリーナ』はおしゃれな外観とは裏腹に、中に入ると「いかにも」な雰囲気が漂っているから始めてきた客はみんな驚く。受付には美青年の写真パネルが並び、いかがわしさ満点。
いいタイミングで入ってきた同僚のミツキくんと客が、「若い色白の美少年とデブのおっさん」とかいう風俗店のお手本のような組み合わせだったから、余計に「らしさ」がでてしまっている。智駿さんと男は、びっくりしたような顔をして、俺を見ていた。
「ゲイ専門風俗店・ブレッザマリーナへようこそー! タチでもネコでも楽しめるよ! ちなみに俺はネコ専門です」
「ちょ、ちょっと待って、僕恋人がいるから……」
「うん、わかってます。エッチしなくてもいいよ。一緒にお部屋に来てくれれば」
「いやいやいやいや、アウトだよ」
智駿さんが俺の店に拒否を示すのは、わかっていた。智駿さんには恋人がいるし、浮気をするタイプでもない。智駿さんは断るだろうと思って、あえて誘っているのだ。
ねらいは隣の男。たぶんこっちは、……
「えー、じゃあ私はやってこうかな」
「えっ、本気、白柳」
オッケーする。この男――白柳と言うらしい彼は、酔うと調子がよくなるタイプだろう。この目つきから見るに、普段はもっと思慮深い人間なんだろうけれど、今はそうではない。こういうことに誘えば、間違いなくオッケーする。
「……僕は帰るよ?」
「へいへい」
「はあ、君がしたいなら別に止めないけれど……君明日仕事だよね?」
「午後からだから大丈夫」
「……死んでも誤診とかするなよ、センセイ」
やる気満々の白柳さんを置いて、智駿さんは店を出て行ってしまった。完全にこの店にはドン引きしているようだったけれど、別れ際に俺に見せた笑顔は相変わらずの暖かさ。あの優しい人は、俺とは全く違う世界にいる人だなあ、なんて思いながら、俺は彼に手を振った。
さて、残った白柳さん。智駿さんの去り際の言葉を聞くに、彼は医者だ。やばい、久々の大当たり。俺は久々に思いっきりサービスしてやろうと意気込む。
「いきましょ、白柳さん。俺、がんばっちゃうよ」
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