5

 時計を見ると、少し昼を過ぎた頃だった。

 少し体がだるかったので、二人でベッドでごろごろとしていたが、少しだけおなかが空いてきたような気がする。


「南波ー……昼、どうする? 冷蔵庫の余り物でご飯つくるか……外、行くか……」

「ん……」


 南波はぼんやりと俺を見つめて、「どうしようね」と囁く。俺の耳たぶを指でいじりながら、くすくすと笑っている。


「そういえば、この前職場の人に教えてもらったんだけど、駅前に新しいお店ができたんだって」

「じゃあ、そこ行く?」

「うん……でも、もうちょっと休んでいいかな。少し、だるくて……」

「あ、……ごめん。俺がちょっとやりすぎちゃった……」

「ううん……大丈夫だよ」


 南波の腰を撫でてやると、「きもちいい〜」と腑抜けたような声を出されたので、そのままゆっくり撫で続けてやる。


「可愛いな、南波は」

「……恥ずかしいから、あんまり言わないで」

「言いたいから言ってるだけ。聞き流していいよ」

「聞き流すなんてもったいないよ」

「どっちだよ」


 南波の額に、キスをする。

 そういえば、珈琲豆がきれていたから、ご飯を食べに行ったついでに買ってこよう。ブルーマウンテンもいいけれど、南波と一緒に他の豆を選ぶのもいいかもしれない。


「ねえ、伊勢くん。さっき、珈琲豆きれていたよね。ついでに買いに行こうよ」

「……同じこと考えてる」

「? ふふ、伊勢くんの珈琲が大好きだから、珈琲豆がきれるのは僕にとって死活問題なんだ。さっき珈琲豆きれたの見た時、やばいなって焦っちゃった。ドイツ人の血はビールでできてるっていうけど、僕の血は伊勢くんが淹れる珈琲でできていて、」

「……そうかい。愛してるよ、南波」

「えっ! ……あ、……うん。と、突然言われるとドキドキするね」

 くすくすと笑う南波の声が、耳をくすぐる。

 もう、自分の人生を鉛のようだなんて言わない。どうせなら、珈琲豆って言ったほうがいくらか可愛らしい。







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