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時計を見ると、少し昼を過ぎた頃だった。
少し体がだるかったので、二人でベッドでごろごろとしていたが、少しだけおなかが空いてきたような気がする。
「南波ー……昼、どうする? 冷蔵庫の余り物でご飯つくるか……外、行くか……」
「ん……」
南波はぼんやりと俺を見つめて、「どうしようね」と囁く。俺の耳たぶを指でいじりながら、くすくすと笑っている。
「そういえば、この前職場の人に教えてもらったんだけど、駅前に新しいお店ができたんだって」
「じゃあ、そこ行く?」
「うん……でも、もうちょっと休んでいいかな。少し、だるくて……」
「あ、……ごめん。俺がちょっとやりすぎちゃった……」
「ううん……大丈夫だよ」
南波の腰を撫でてやると、「きもちいい〜」と腑抜けたような声を出されたので、そのままゆっくり撫で続けてやる。
「可愛いな、南波は」
「……恥ずかしいから、あんまり言わないで」
「言いたいから言ってるだけ。聞き流していいよ」
「聞き流すなんてもったいないよ」
「どっちだよ」
南波の額に、キスをする。
そういえば、珈琲豆がきれていたから、ご飯を食べに行ったついでに買ってこよう。ブルーマウンテンもいいけれど、南波と一緒に他の豆を選ぶのもいいかもしれない。
「ねえ、伊勢くん。さっき、珈琲豆きれていたよね。ついでに買いに行こうよ」
「……同じこと考えてる」
「? ふふ、伊勢くんの珈琲が大好きだから、珈琲豆がきれるのは僕にとって死活問題なんだ。さっき珈琲豆きれたの見た時、やばいなって焦っちゃった。ドイツ人の血はビールでできてるっていうけど、僕の血は伊勢くんが淹れる珈琲でできていて、」
「……そうかい。愛してるよ、南波」
「えっ! ……あ、……うん。と、突然言われるとドキドキするね」
くすくすと笑う南波の声が、耳をくすぐる。
もう、自分の人生を鉛のようだなんて言わない。どうせなら、珈琲豆って言ったほうがいくらか可愛らしい。