甘い恋をカラメリゼ | ナノ
 quatorze(1)


 久しぶりの白柳さんの家だ。半年ぶりくらい。家に入ると、ああ、白柳さんの匂いがするなあと懐かしい気分になる。

 ここにくると、胸のなかがふわふわとして、それでいて締め付けられるような痛みも感じて、落ち着かない気持ちになったものだ。なので、俺はここに寄りつかなくなった。それが半年前のこと。改めてここにくると、やはりあの感覚が心のなかを支配する。けれど、それは嫌な感じではなく、凪に揺れる海のようなゆるやかな心地だった。

 しかし。


「――っ!」


 ぎゅ、と後ろから抱きしめられる。

 凪? うそうそ、これじゃあ暴風だ。いきなりそんなことをされたら、しかもこの朴念仁先生にやられたら、心臓がバクバクしてしまう。


「しっ……白柳さん……?」

「悪ぃ、情緒がねえのは自覚してるんだが……」

「あっ……」


 ちゅ、と首筋を吸われて俺は思わず声をあげてしまった。

 ここに来たら抱かれるんだろうな、とはわかっていたし、俺だってしたかった。けれど、今の俺は妙に緊張してしまっている。

 なんでだ。なんで俺はこんなにドキドキしているんだろう。


「まっ……待って待って、白柳さん……! あのっ……一旦、お風呂……とか……」

「すまん、無理」

「あのっ……」


 声がひっくり返るし、掠れるし、俺、かっこ悪い。調子が狂う。

 セックスなんて人生何度目だかわからないし、緊張なんて遙か彼方の昔に置いてきたのに、体全体が心臓になったように激しく胸が高鳴っている。自分の体の脈動が感じられるほどのそれは、体感したことのない不思議な感覚。

 手を掴まれ、引きずられるようにベッドに押し倒されて、それはもう鮮やかなお手並みで。白柳さんはシーツに手をついて、仰向けになった俺を見下ろす。なんだか彼と目を合わせられなくて、つい視線をきょろきょろとあっちこっちに動かしてしまうけれど、「セラ」と呼ばれて、ふと彼のほうへ視線をやってしまった。

 ――うわ。

 余裕のない顔。色んなものがこみあげているような、そんな表情。どことなく泣きそうな目。珍しい白柳さんの表情に、かあーっと顔が熱くなるのを感じる。


「――やっと、……やっと、俺の傍にいてくれるんだな、セラ」

「……、はい」


 ……ああ、そうか。

 俺は、初めて恋人とセックスをするんだ。

 だからこんなに緊張しているのか。


prev / next


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -