▼ onze
「あっ、……あっ、……ぅ、んっ……」
ベッドの軋みがうるさい。窪塚さんの動きは重く、激しく、体の奥が震えるようなセックスだった。窪塚さんは俺に覆いかぶさって、俺の腰を掴み、何度も熱で俺を穿つ。
全身が熱くなっているのを実感する。体が火照って、窪塚さんの汗がポタリと腹に落ちてきただけで飛びそうになる。体中が敏感だ。空気に触れた肌がぴりぴりと小さな快楽を拾って、少しずつ興奮を高めていく。
「あ、ア……! お、おく……そんなに、おくに……あぁっ、まって、……」
「この奥に行ったやつは、いないのか」
「いないっ……こんなに大きい人、いなっ……あ、窪塚さ、……くぼ、ッーーあッーー」
グッ、と腹の奥に重みを感じる。ずっと、腹の奥のほうだ。これ以上進ませてはいけないと、そう思ったが、窪塚さんは止まってくれなかった。
俺の膝を自らの肩に掛けさせて、ぐぐっと俺に体重をかけてくる。ぎゅう、と腹の奥が締まる感覚、びりびりと全身に快楽が広がっていく感覚。だめだ、だめだ、これ以上――そう思うのに、手が動かない。知らない感覚に、体が恐怖を覚えている。
「あ、あ、あ、あ、」
「まだ、入るぞ」
「う、そ――……あッ……あぁっ、あ――……」
ズンッ、と体が大きく揺すられた。その瞬間、奥の奥に熱が到達する。ゾクゾクッと強烈な快感があふれてきて、とまらなくて、頭が真っ白になる。
「あ、あっ、あ――
」
俺が悲鳴をあげると、それを皮切りに激しいピストンが始まった。バチュンバチュンと凄まじい勢いで突きあげられ、そのたびに俺の内臓が震えている。ベッドの軋みはさらにうるさく、その激しさが耳からも伝わってきておかしくなりそうになる。
ハア、ハア、と荒く呼吸する窪塚さんが獣のようだ。俺よりもずっとたくましい筋肉が汗で濡れ、動くたびに筋がゆらめく。見上げれば窪塚さんの肩にかかった自分の脚が見え、彼との体格差にくらくらした。こうしていると、自分の脚が女のもののように見えて、今、自分は彼に犯されているのだと実感する。
「あっ、アッ、あ、アアッ、ッ、」
「セラ、」
「くぼ、づかさっ……くぼづかさんっ……アッ……だめ、イク、……あぁっ……!」
「今更ッ……もう何回イッたんだよ、……ハァッ……」
「わからな、……ぁあっ、そこだめっ……イクッ……!」
腹が冷たい。俺が吐き出した精だか潮だかで、腹がびしょびしょに濡れていた。突きあげられるたびにぴゅっと透明な液体が噴き出てきて、腹を濡らしてゆく。俺はもうわけがわからなくなって、枕をぎゅっと握り締めて、激しい責めに耐えることしかできなかった。
「なあ、……セラ、」
「ん、あ……」
ズブッ、と勢いよくペニスをねじ込んで、窪塚さんが俺に覆いかぶさる。屈伸するような形になって、腹が苦しい、熱い。窪塚さんは片腕をシーツにつくと、もう片方の手で俺の頬を撫でる。
「窪塚さん、……」
俺はぼんやりとしながら窪塚さんの動きを目で追っていた。そうしている間にも、俺のペニスからはぽたぽたと液体が垂れている。びくびくと体は震えている。窪塚さんはそっと顔を近づけてきて、そして、俺に口づけようとしてきた。
けれど。
「ん、……」
無意識に、俺は彼から顔を逸らしてしまった。
「あ……」
咄嗟に、俺は窪塚さんの手を掴む。つい顔を逸らしてしまった自分が憎たらしくてたまらなかった。
「い、今のは……違うんです……気にしないでください……」
「……セラ」
「窪塚さん、はやく」
なぜ顔を逸らしてしまったのか。そんな理由は一番自分がわかっている。俺はまだ白柳さんに未練があって、もう一度白柳さんに会いたかったのだ。おこがましいにもほどがある。彼を傷つけたくせに、ずいぶんと自分勝手だと思う。だから、そんな自分が憎たらしくてたまらない。
窪塚さんにねだれば、彼は少しだけ顔をしかめた。たぶん、俺の考えていることはわかっている。
「続けて、窪塚さん……このまま、俺のこと、窪塚さんのものにしてください……」
「……おまえは随分と、……」
ばかだなあ――そう言って、窪塚さんは俺に口づける。
窪塚さんはキスが上手い。こうして唇を奪われれば、体が熱を持つ。心が少しひりつくだけで、ちゃんと俺は彼のキスで感じている。ああ、これでいい。このまま、何もかもがどうでもよくなればいい。
「ん、……ぁ、ふ……」
結合部をこねられるようにして、ねちねちとゆるいピストンをされる。蕩けるようなキスも相まって、頭がぼんやりとしてくる。本当にこの人は、セックスが上手い。心がついていかないというのに、体はすぎるくらいに感じてしまって、気付けば俺の腰が勝手に揺れている。
抱きしめられ、俺は抱きしめ返して、お互いに腰を揺らす。おかしくなるくらいに気持ちいい。そう、このまま、もっと溶かしてほしい。
「ぁ、……ん、……んん……ぁん……」
ああ、俺はどうしたいんだっけ。セックスの熱はあまり好きではなかったはずだけれど。胸が苦しくて、結局セックスに逃げている。どこへ行っても、逃げても、結局は行き止まりにぶつかって、戻ってくる。俺はどうしても自由にはなれない。たぶん……生まれた時から、決まっていたのかなあ。なりたくて、「ふつうじゃない」になったんじゃないんだけど。
「んっ、んっ……ん、ん、ん、」
ぐ、ぐ、とねじ込まれた奥のほうを押される。じわじわと肉壁に蕩け落ちるような快楽が広がっていって、ぴくぴくとなかが収縮を始める。
ああ、イク……イきそう……。
かりかりと窪塚さんの背をひっかくと、窪塚さんがぎゅうっと俺を強く抱きしめてきた。その瞬間、ぎゅーっと強くペニスを押し込まれて、ゾクゾクと体の奥が震え、濡れるような感覚に貫かれる。
イク――……
「ん――……」
ビクッ、と大きく腰が跳ね、そして断続的な快楽の波が俺の中でうねり回った。体が勝手によじれ、ガク、ガク、と腰が揺れ動くが、窪塚さんが全身で俺の体を押さえつけていて俺は快楽を逃がすことができない。窪塚さんの肉体に体をこすりつけるようにして、俺は彼の腕の中でもだえるしかできなかった。
「あ、――……」
零れた吐息を最後に飲まれ、窪塚さんが体を起こす。彼はじっと俺を見つめてきて、何を考えているのかわからない。
そっと、窪塚さんの手が俺の目尻に伸びる。するりと指でそこを撫でられれば、自分が泣いていたのだと気付いた。
「おまえってやつは……」
「……?」
ふっと窪塚さんが笑う。くしゃっと笑ったその顔が優しくて、ああ、また、心がひりひりする。
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