甘い恋をカラメリゼ | ナノ
 douze


 彼女と付き合うようになったのは、彼女と出逢ってから三ヶ月ほど経った頃だ。彼女が徐々に僕に笑顔を見せてくれるようになったのが嬉しくて、そして好きになっていった。自分から告白したのは、これが初めてだったかもしれない。

 このとき僕は、凛とはこれまでと違う恋愛ができるかもしれないと思っていた。たしかにそれまでの恋とは違っていたから。でも――根本的に、僕のなかは変わっていなかった。それを思い知ったのが、彼女に別れを告げられたとき。付き合い始めてから、一年も経たない頃だった。



「――私、忘れられない人がいるの」



 初めての振られ方だった。こんな風に振られたのが初めてだったから、押せばいいのか引けばいいのかがわからなかった……それも、あると思う。でも。



「「彼」の命日になると、どうしても彼のことを懐かしんじゃうから。どうしても、私は……あの人の、彼女のままでいたい」



 彼女が、亡くなった恋人を想い続けていたのだと知ったとき。僕は自分でも驚く程にあっさりと身を引いてしまった。踏み込んではいけないと思ったのだ。それは遠慮とかそんなものではなくて、もっと僕の内面に関わる気持ち。亡くなった恋人を想う彼女を、自分こそは幸せにしてあげたいと思えるほどの強さを、僕は持ち合わせていなかった。一人の女の人を幸せにする責任を持っていなかったのだ。

 本当に僕は彼女のことを好きだったのかと、わからなくなってしまった。ただ、一緒にいて楽しいから、笑った顔が可愛いから、セックスをしたいから、そう思っていただけて彼女を幸せにしてあげたいなんて思っていなかったんじゃないか。

 僕は自分が嫌になった。だからといってそんな風に迷ったあとに彼女にいけしゃあしゃあと「僕が幸せにします」なんて言えなかった。

 彼女と別れ、その時に僕は――恋愛なんてできない人間なんだ、そう思ってしまった。


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