甘い恋をカラメリゼ | ナノ
 trois


 東京まで約二時間の新幹線の旅はあっという間に終わった。乗る前は新幹線を楽しみにしていた俺だけど、智駿さんと一緒にいると智駿さんと話すことに夢中になってしまう。何より、いつもと違う雰囲気の智駿さんにドキドキしっぱなしで、窓から見える風景なんて見ていられなかった。

 東京駅に着いたら続いて最寄駅まで在来線で移動する。そして、いよいよホテルまで向かうタクシーに乗り込む。ホテルへ送迎してくれるタクシーがあるってだけで高級だなんて思ってしまう俺はやっぱり田舎者というか、まあそうなんだろうけれど、非現実に来たようで気分が高揚していた。



「今日はお仕事ですか? 観光?」

「どちらかと言えば観光です。ホテルで働いている友人に用事があって」

「なるほど」



 タクシーの運転手に話しかけられて智駿さんは和やかに話している。タクシーの運転手もホテルの専属の人なんだろうか、話し方が上品だ。



「新見さんって知ってますか?」

「新見さん……ああ、パティシエの!」

「そうなんです、僕、彼に用事があって」



 智駿さんをホテルに招待したパティシエは、新見さんという。なんでもどこかのコンテストで賞をとって、つい最近ホテルに勤め始めたそうだ。それなりに名前が通っているのだろうか、タクシーの運転手の反応もそれなりのもの。



「時々彼のスイーツを食べるためにあのホテルに行くって人がいるんですよ。まだ若いのに凄い方ですよね、あのパティシエは」

「ええ……昔から彼は目立っていたんです」



 俺の思った以上に、彼はすごい人らしい。考えてみればそうだ。智駿さんと同い年で高級ホテルのパティシエになれて、そしてコンテストで賞までとれしまうのだから。

 智駿さんも彼に一目置いているのだろうか。彼の話をするときの表情は、いつもとは違う。なんとも言えない、複雑そうな顔をするのだ。

 智駿さんにとって彼は特別な位置にある人なのかもしれない。どんな人なんだろう、そう思うと同時に会うのが少し怖かった。



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