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「あの……レヴィ様ってレッドフォード家になにか恨みでもあるんですか」

「ああ? んなもん俺が聞きてーくらいだよ。アイツ妙に俺らに敵意もってやがる」

「はぁ……」



 今日エリスがマクファーレン家を訪れたのは、いつもどおり近況報告をするためであった。レッドフォード家とマクファーレン家は昔から親しいため、こうして度々会談の場を設けるのである。

 ここまで来た理由もそれだけのため、二人はマクファーレン家にそう長居することはなかった。ラズワードはレヴィがまた何か言ってくるのではないかと構えていたが、それは杞憂に終わりこうして何事もなく帰路につくことができたのである。



「……それにしても……すごいですね。あの年で当主なんて……ハル様と歳もほとんど変わらないのでは?」

「チッ、あんな成り上がりが当主になったおかげでこっちは苦労してんだよ」

「……あの、さっきも言ってましたけど……成り上がりって……」



 あんまりレヴィの話をするとエリスは機嫌を悪くするだろうか、と思いつつも、ラズワードは恐る恐る訪ねてみた。マクファーレン家という天界でも大きな勢力を誇る名家の当主に若いレヴィがなっていることもそうだし、貴族とはあまりにも言い難い彼の言動も気になっていたのだ(口だけで言えばエリスもそこそこ悪いが、身なりはレッドフォード家の長男らしい、きちんとした格好をしている)。


「……貧民街にいるとそういう情報も入ってこないのか? あいつはマクファーレン家の全てを力でぶんどったんだよ」

「……力? そんなことが可能なのですか? たとえどんなに強くて、当時のマクファーレン家の当主より強かったとしても、彼が当主になることなんて周りが許さないでしょう? レッドフォード家や、神族も……」

「あれだよ。流石にこれは知っているだろ。『マグニフィカト』、あれの中の『レグルス』。それで奴はマクファーレン家の全権を手に入れた」

「……マグニフィカト……」



 ラズワードは聞き覚えのある言葉に記憶を手繰り寄せる。

 確か、『マグニフィカト』とは天界で10年に一度開かれる大規模な祭りだ。平民はもちろん、貴族や神族の一部まで参加するもので、豪勢な祭りである。貧民街に住んでいた者は自分たちが差別の目で見られることを嫌がり参加する者が少なかったが、名前くらいは皆知っていた。ラズワードの場合、元貴族なので他の貧民街の者に比べればその知識はもっている。しかし、自ら参加したことはないため詳しくは知らない。

 『レグルス』、それは記憶が正しければ『マグニフィカト』の中の最大の催しだ。ハンターのその10年間で最も成績が良かった上位2名が矛を交えるのである。そのとき最も強いもの同士の戦いが間近で見ることができるということでとても盛り上がるのだそうだ。そして、勝者は主催者に欲しいものを言って「なんでも」手に入れることができるのである。



「……レヴィ様は『レグルス』で勝利した景品としてマクファーレンの全権をもらったとでもいうんですか……?」

「ああ、その通り。まさか俺たちも主催者がそれを受理しちまうとは思ってなかった。レヴィは『レグルス』で勝利し、晴れてマクファーレンの当主となったんだ。あいつ元々は平民の中の下の方だったのによ」

「……そんな」



 ラズワードはエリスの話に驚きを隠せないといった様子で声を震わせた。



「あー、たぶん今年もレヴィは『レグルス』に出るだろうな。あいつ『レグルス』にでるためにたぶんハンター業に精を出しているんだ。「力で全てを手に入れる」、それがアイツのスタンスらしいぜ」

「……なんで、そこまで……」

「さあな……もうひとりは誰だ? あー、ウィリアムとかいい線いっているよな。あと……テリーなんかもアリかな」

「……それに、ハル様がでたりとか……しないですよね」

「それ一番最悪の展開だろ! レッドフォードから出ちまったら何奪われるかわかったもんじゃねぇ! いや、でもハルはねぇよ。あいつ確かに強いけど、ハンター業の成績は悪ィもん」

「……そうですか……よかった。……そうですよね、確かハンターの仕事ができなくなってクビ寸前になったから俺を買ったとか聞きましたし……」



 あんな血の気の荒い男とハルが戦うことになったらどうしようかと思っていたラズワードは、エリスの言葉に安心する。そんなラズワードの顔をエリスは覗き込むと、ふ、と笑った。



「……おまえさ、ハルとどこまでやったの」

「……え?」



 きょとんと目を瞬かせたラズワードをみてエリスは吹き出した。一瞬考えて、エリスの言葉の意味を理解したラズワードはほんの少し顔を赤らめて、言う。



「……何も、してませんよ」

「はぁ? マジ? ヤってねぇの!? チューは?」

「……そ、それは……しましたけど」



 もごもごと言葉を濁らせるラズワードをエリスはにやにやと見つめている。あまりこういう話に慣れていないラズワードは恥ずかしくてエリスから視線を逸した。



「……おまえ、ハルのこと好きなんだ?」

「……」



 チラ、とエリスをみて、ラズワードはすぐにまた顔を逸らす。そして小さくこくこくと頷いた。



「……ふうん、そう。……そりゃあ、羨ましいこった」

「……え」

「……いや、別に」



 微かに目を細めたエリスが何を思っているのかラズワードは分からず、ぽかんと口を開く。そんなラズワードを気にせず、エリスは一歩前にでると笑って言った。



「あ、ここ、ここ。今日止まる宿ね。遅くなるだろうって、今日は泊まってくるように言ってあるから。すげぇぞ、スイートだ! おまえ泊まったことねぇだろ」

「……初めてです」

「そ。じゃあ感動するんじゃね?」



 にこ、と笑ったエリスに、ラズワードも笑顔を返す。その表情を見たエリスは一瞬何か言いたげだったが、結局そのまま宿の中に入っていってしまった。
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