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「い、いや……俺、ルーレットのルールわからないですし!」

「簡単なものもありますよ。大丈夫」



 黒にルーレットに誘われたハルは、いやいやと手を振る。ハルはあまり世俗的な遊びに詳しくなかったのだ。周りでルーレットをやっている人たちをみても、ルーレットはやたらと難解そうに見えるし、すぐに自分が覚えられる気もしなかった。だから断ったのだが……黒は大丈夫と微笑んでいる。



「赤か黒か、それだけを賭ける方法もあるんですよ」

「……二分の一ですか」

「そう、それなら簡単でしょう?」



 ハルはまじまじと設置されているレイアウトを見つめてみる。数字ばかりあって嫌厭してしまっていたが、よくみれば「ROUGE(ルージュ)」「NOIR(ノワール)」といった二択の部分もある。それならやってみてもいいかな、とハルは思い始めていた。こうした遊びに全く興味がないというわけではないのだ。周囲でやっている者がいなかったため触れてこなかったが、こうして一般の人々に混ざって遊ぶことは、密かな憧れだったりもする。



「じゃあ……ちょっとだけ」

「賭けるものは何にしますか?」

「えっ、賭けるんですか?」

「嘘です。ここのカジノはお金を賭けなくてもできます。賭けるものは、なしで」



 黒がディーラーに声をかけると、彼がゲームスタートの準備を始める。彼はまずチップをハルと黒に配り――そして、玉を手に取る。その玉は、サファイアのように深い青色をしていた。丸い、青色の玉を見て……なんとなくハルは、ラズワードの瞳のようだなあ、なんて思う。ラズワードの瞳の美しさには全く及ばないが。

 ハルと黒、そしてディーラーの準備が整うと、ディーラーが二人に目配せをした。ハルが緊張しながらも苦笑いをしてうなずき、黒が微笑むと、ディーラーが宣言する。



「――place your bet!」
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