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「はあ、これの絵付けを?」



 ある日、レヴィの父親はミオソティスの父親に頼み事をしていた。もうすぐ、レヴィが誕生日を迎える。大人へ近づく彼に、家宝である特別なプロフェットの鉄扇をあげることにしたのだ。ただ、家宝とはいってもそのプロフェットは見た目がボロボロで、歴史的な価値もなくなるほど。そのため、有能で付き合いのある染師である、ミオソティスの父親に新たに絵を描いてもらうことにしたのだ。

 ふむふむと受け取った鉄扇をミオソティスの父親が見つめていると、屋敷の奥の方から足音が聞こえてくる。



「……私が、やる」

「……え、ミオソティス、おまえがかい」

「レヴィにあげるんでしょ。私がやる」



 屋敷から逃げようとした日から、ミオソティスとレヴィはあまり外に出してもらえなくなってしまった。あれから、二人は一度も会っていない。免除金を神族へ払えなくなって、ミオソティスが施設へいかねばならなくなるときまで、きっともう、会えないだろう。ミオソティスは、レヴィに自覚のない恋心を抱いていた。鬱陶しく絡んでくる彼を疎ましいと思いながらも、一緒にいる時間を楽しいと思っていた。だから、伝えたいことも伝えられず別れてしまうのはどうしても嫌で、レヴィの手に渡る扇へ自分の絵を描きたいと思ったのである。



「……あの馬鹿に、ぴったりの絵を描いてやるから」



 切なげに笑ったミオソティスを、二人はぽかんと見つめていた。ミオソティスに、施設にいかなければいけないと知られてから、彼女はほとんど笑わなくなってしまった。久々に、笑ったのである。染め物の腕は非常に優秀なミオソティス。ミオソティスの父親は、少し悩んだ後、頷いた。



「……じゃあ、頼んだよ、ミオソティス」
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