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「その詩、誰にあてて詠んだ詩なんですか?」



 風に髪を揺らしながら女性は尋ねた。黒髪の青年はくるりと女性を顧みて、ふ、と微笑む。



「ザカライアがですか?」

「ええ。誰かに向けて詠ったのでしょう?」

「……そうです。ザカライアは『青い鳥』を――鳥籠の中の美しい鳥へ向けて詠いました。彼女は、世界の美しさを知らず、自分の中にある感情を知らず……愛を知らない。そんな彼女へ向けて、ザカライアは詠ったのです」



 女性はその青年に目を奪われていた。空を仰ぐ彼はその瞳に何を映しているのだろう。闇を宿しているとばかり思っていたその黒い瞳は、今、空の青を反射して、綺麗に青みを帯びている。木々を揺らす風に、なぜだか香りがついているように錯覚した。彼を見ていると、空を彩るような透き通った匂いを感じる。



「……彼女は、どうなったんですか? ザカライアがその詩を送った彼女は……」

「……飛び立ちました。籠から抜けて、青空へ。ザカライアに「喜び」というものを教えてもらって、ザカライアに愛されて……彼女は美しく、羽ばたいた。――そして、彼女は詠った」






「『鍵は開いたわ』」
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