理想よりも愛してる

※三つ子が生まれる前の夫次屋と妻富松の子作り話(R指定)/匿名様リクエスト

※三つ子パロはついったろぐにて小ネタを出している次屋×富松(♀)夫婦と三ろ三つ子の親子パロです。


俺がさくと出会ったのは俺が大学生の時だった。すでに短大を卒業して社会人だったさくとサークルの先輩を伝ってたまたま出会って、俺が恋に落ちた。俺の方がひとつ年下で、当時さくが片想いしていたのがうんと年上の会社の先輩だった事もあって、俺はがむしゃらだった。だけどそれが功をそうして俺たちは恋人同士になった。
それから、俺は無事に大学を卒業し、あろうことかお笑い芸人を目指して事務所に入り、さくは会社で後輩を指導するくらいになっていた。
自分たちも周りも目まぐるしく変化していく中、さくの先輩や周囲が結婚をしていくけれど、さくは一言も結婚について俺には話さなかった。けれど、待ち合わせ場所で親子連れを目で追う姿だとか、手料理を作ってくれる時、ふっとした仕草で結婚願望がある事は気が付いていた。もちろん、収入だってアルバイトが主だった俺も結婚願望だけは一丁前に強かった。

「一緒に住もう」

ある時そう小さく呟いてくれたさくに、俺はプロポーズをした。
三か月分の給料の指輪もロマンチックな場所もなかったけれど、それでも泣きながら俺の手を握り返してくれたさくが、愛しくて愛しくてしょうがなかった事を俺は今でも覚えている。
立派に正社員として働いているさくと、しがない売れない芸人とをすんなり許してくれる両親はもちろん存在するわけもなかったけれど、何度も何度も頭を下げて食らいついたおかげで婚姻届を出せたのはそれから半年後の事。
それからすぐの事だった。婚姻届を出したのをきっかけに俺にテレビの仕事が来るようになった。週のほとんどをバイトでつぶしていた時が嘘のように劇的にブレイクして、家に帰るのも深夜になる事もあって、さくに会えない事も多くなった。
そんな生活が1年続き、少し仕事の量も落ち着いた頃に丁度さくの誕生日が来た。俺はこれでもかというほど張り切って、今まで行ったことない高級ホテルのレストランを予約し、さくを連れて行った。ガラス張りの向こう側に広がった煌びやかな世界は今まで知らない、まさにドラマみたいだった。
そんな夢みたいな時間を二人で楽しんで、そろそろ帰ろうかという時だった。

「欲しいものがあるんだけど…」

言いにくそうに、さくが言う。今まであれが欲しいこれが欲しいとほとんど言った事なんてなかったから、どんなものだって買ってあげようと俺は思った。だけどその口から零れたのは到底買えるものじゃなかった。
差し出されたのはカードキー。だいたい見れば、ここのホテル一室のキーだとは解る。

「…子どもが、欲しい」

薄暗い照明の中でもわかるくらいに熱をもった頬が緊張気味に言う。
忙しさに埋もれても会えない事が寂しいと思う時があって、それはさくも同じだったみたいで俺はすごくうれしかった。

「さく、ごめんね」
「ぁ、」

こんな事言った自分をはしたないと俺が思っているとでも思ったんだろう、うつむいた瞳に涙が浮かんでくるのがわかった。

「俺もさくとの子どもはいつか欲しいと思ってる」

プロポーズの時握ってくれた手を今度は俺が握る。

「でもまだ俺も妻になったさくを独り占めしたいから、もう少し待って欲しい。結婚式もしたいと思ってるし、もちろん新婚旅行も。全部順番違うけど、絶対するって決めてたから。ねぇもう少しだけ俺だけのさくでいて」

ただの我儘だった。だけど本当の気持ちだった。
芸人をやめてもっと安定した仕事に就くことだって何度も考えた。そうしたら普通に結婚式もして新婚旅行に行って、ただいまとかおかえりを毎日出来る生活があると考えたけれど、ここまで応援して支えてくれて、あきもせず馬鹿にだってせずに側にいてくれたさくがそんな俺を望む事がないって事も解ってた。
けれどそのおかげで、テレビの仕事ももらえて世の中の人に芸人の俺を覚えてもらえ始めた。忘れられる事も簡単だけれどまだ頑張るのも始まったばかり、あとは自分で頑張って行くしかない。一緒にいたくて側に居たくて結婚したから、そういう甘くて甘くて溶けそうな蜜時を遅くてもしたいと思った。

だけど、その選択は間違いだったというようにいざ子どもを作ろうとしたら一向に上手く行かなかった。
過ぎてく年月に年齢を重ねさくは焦っていたのだと思う。
今は晩婚もそう珍しくはなく、それに伴い30、40歳で子供を授かる人もいる。それでも作りたいと思う時に出来ないと心身を追い込む。もちろん病院にも通い、不妊治療もした。それでも出来なかった。
そうして行くうちに、俺がさくを抱いている最中も、さくは子どもを作る事しか考えてないようになった。それが俺にとって寂しくて悲しくてしょうがなかった。それでも俺はさくを抱いた。出会った時と変わらない大好きだという気持ちだけで抱き続けた。だけど、そうすればそうするほどに、さくの気持ちは俺から離れて、まだ見えもしない子どもに向かう。それでとうとう喧嘩をした。

「さくは子どもが出来れば俺じゃなくてもよかたんだろっ」

さくが子どもを欲しがったのは、相手が俺だからだって知っていた。
弟が二人いる俺がその弟を可愛がってた事も、姉の子どもと遊ぶのが好きな事も、一人っ子のさくが兄弟が羨ましかったこと、だから二人で子どもは何人いてもいいと話したこと、女の子なら俺は溺愛するだろう事、でもさくは元気でやんちゃな男の子が欲しいこと、川の字になって寝ること、いつか二人がどうやって出会ったのか話してやろうということ。並べた夢と希望の話にひとつだって偽りはなかった。
それでもそういう言葉が出た。

「俺はさくと一緒に生きていきたかったから結婚した。さくは俺だけじゃ幸せになれない?子どもできなきゃ俺はいらない?俺は例え子ども出来なかったとしてもさくとずっと一緒にいたい。今だってさくを幸せにしたい気持ちは変わらないよ」

30歳にもなろう大の男が泣きながら言うんだから、はたから見れば笑いものだろう。でもそれくらい悔しかった。幸せにするとプロポーズをして幸せに出来てない自分も、俺を見てくれないさくも、とにかく嫌でしょうがなかった。
さくに怒鳴られる事は今まで数あったけれど、逆はほとんどない。だからだろう、最初は本当にびっくりして目を丸くしていたさくだったけれど、全部言い終わるとボロボロと涙を流してまさに子どものようにわんわんと泣いて、ごめんなさいって繰り返すものだから、泣いていた俺の方が慌ててさくを慰める事になった。

それから子づくりを休憩して二年が過ぎた。その間、二人で過ごす時間は特に増えたわけではなかったけれど、たくさん笑った。ただ家でごろごろ過ごす日もあったし、時にはいろんなとこにも行った。外に出れば親子連れが目に入るときもあったけれど、可愛いね、と俺が言えば、そうだね、と返ってくる。その頃には俺は中堅の雛壇芸人。有難いことに仕事は定期的にあって、レギュラー番組も数本ありそれなりの収入も得た。さらに愛妻家芸人というイメージもあり、仕事が終われば直帰する事が当たり前になっていて、世の中もそんな俺を受け入れてくれていた。

その年の俺の誕生日にさくと沖縄に行った。
沖縄は初めて二人で旅行した場所で、思い出の場所。そしてさくと俺が初めて結ばれた場所でもある。当時行った海水浴場に行ったり、有名な水族館、国際通り、手をつないで回った。ホテルはあの時より少しグレードも上がって、ベッドもダブルベット。
初めて行ったときにはツインの部屋でぎゅうぎゅうになって一つのベッドに寝たのを思い出す。あれはあれでいい思い出だけれど。

今回選んだホテルの部屋はベランダからプライベートビーチの見え、窓も大きくて解放感がある。
満点の星が海に浮かんだように見えるほどその夜は澄んでいてロケーションとしては最高だった。その場所が気に入ったようで、俺がシャワーから上がってもさくはそのから離れない。ベランダにある大きめのロッキングチェアで揺れながら夜風に当たっているようなので、覗くと目を閉じていた。だけど俺の気配に気が付いて言葉を漏らす。

「幸せ」
「うん」
「ねぇ三之助」
「なに」
「産れてきてくれてありがとう」
「もう一年早く生まれたかったけど」
「まだ、そんな事いってんの。まぁあたしは今の三之助が一番好きだけどね」
「さくがそう言うなら、それでいいけど」

このまま寝てしまいそうなさくをお姫様だっこで抱き上げる。

「さく、寝ちゃうつもりだったでしょ」
「寝かすつもりなんてなかったくせに」

昔は顔を真っ赤にするばかりだったのに、今ではきっちりと言葉が返ってくるのだから恋人の延長のような俺達でも間違いなく夫婦だ。
二人分の体重できしむベッド。空気をたっぷりと含んだ羽毛の布団が沈んで、俺たちの体を包む。露出の多い夏の装いは夜になると都合がよく、触れ合う肌が心地よく滑りその感触を楽しんでいると耳たぶに甘噛みされた。お返ししてやろうとすれば、それをさせまいとさくが動くものだから、小動物のじゃれあいみたいにぱたぱたと遊ぶ。これもこれで嫌いではないけれど、しばらくすれば大人しくなって軽い口付けを交す。
唇以外にもひとつひとつ好きの気持ちを落とすように、口づけて指先を胸に下ろすとふとさくは俺に語りかけた。

「最近夢見るの」
「どんな」

手を止めずに答えて、その話に耳を預ける。すればそれはパステル色した優しいお話だった。
太陽の笑顔をもった元気な男の子、泣き虫だけどしっかり者の女の子、マイペースで寂しがり屋の男の子が大好きなお父さんと遊んでいると、ご飯よ、とお母さんの声に子供が答えて家族みんなでご飯を食べる、絵に描いたような幸せな家族。ある時は一緒にお出かけをする話、ある時は一緒に寝る話。
同じ夢ではないけれど、いつも同じ家族だとさくは言う。

「最初は目覚めた時ちょっと寂しかった。だけど今はなんかいいお話だったって思えるんだ」
「さく」
「三之助があたしを好きになってくれて、旦那さんになってくれてよかった。本当によかった」
「さく、泣かないでよ」
「泣いてんのは三之助でしょ」

そう言われて、目の前で歪むさくの笑顔が自分のせいなんだと理解した。
指で、唇で子どもをあやすように、優しく俺の涙を拭きとる。その後にっこりと愛情に満ちた笑みを落とすと深い深い混ざりあう口付けをかわす。息も絶えるような熱い口づけにのぼせる思考で、さくをお母さんにしてあげたいな、と思った。
前はそんなふうには思わなかったけれど、もしかしたらさくも俺をお父さんにしたいなと思ったのかもしれない。それがなかなか出来ない自分にいら立ってどうしようもなくなって、ああいう形になってしまったのだろう。

初めて熱をかわした時、胸小さいからと恥ずかしそうにしてたさくを思い出す。今も当時とさほど変わらないけれど、その膨らみは柔らかく俺の指先の動きに反応して、俺はその吐息として消える反応に熱をあげる。
子づくりと名打って交していた頃は、行為を早くと急かしていたさくだったけれど、今は違う。おれの愛撫もひとつひとつ応えてくれる、時には負けないと言わんばかりに俺に触れてくる。どろどろと溶けて、もう行きつく場所がギリギリになったらひとつになる。
子づくりを始めてから避妊具は使ってない。何度も何度も混ざり合ってる。
でもそのたびに二人で何度も今の愛情を確かめあってる。それで子どもが授かれたら、きっととても可愛いに違いない。この先例え子どもが出来なくても、そういう将来しかないと誰かに言われても俺たちは変わらない。

「さく、」
「ぁ、ん、さんの、すけぇ」
「愛、してるよ」


今日も何回も交わって、くったりと俺の腕の中で安堵してるさくの髪を漉きながら、幸せだなと感じた。それでだろう、確信めいた現実がじわじわと俺を満たす。

「さくー」
「んー」
「いつになるかわかならいど、いつか沖縄くる時はさ、二人じゃないと思う」
「えっ」
「二人だけじゃないと思う。俺はそう思う」

なぜそう思うのかわからなかった。ただ暗示にでもかかったようにそうとしか、その時の俺には思えなくって、どうしようもなくて、くすぐったい幸福がぺったりと張り付いていた。そんな俺を否定なんてせずに、そうだねと優しく頷いたさくがやっぱりどうしようもなく愛しくてしょうがなかった。

その約三か月後に嬉しい知らせが届きはしゃぎ二人で喜び、周りがより一層お祭り騒ぎになり、その一か月後にまた一人、そのまた一か月後にまた一人と三つ子妊娠が発覚するまでの紆余曲折を通り熟成に熟成を重ねた長い蜜時の話。
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