次富

寒い。
寒い。
寒い。

そう、呟けば嬉しそうに頬をほころばしながら三之助はこちらによってくる。最初は俺の言葉に軽い相槌うちながら少し空いた距離を埋めはじめる。
春も近く、外を歩けばその産きが容易に目にもつくが気温差激しくもある時期。部屋で暖をとるほどでもないが、そうだな、まだまだ人肌は恋しいとは思う。薄手の羽織をはおりを前で握り混みながら、早く春になればいいのにと愚痴をこぼすと三之助の手が俺の手を握った頃だった。

「…お前の手いっつもあったけぇな」
「手だけじゃないよ」

ちらりと横目で三之助を見れば、こちらを食い入るようになにかを求めた視線をよこしていた。無意識だろう、三之助の握る力が強くなったのがわかって、そんなに必死にならなくてもいいのになぁと笑いをこらえながら俺は三之助の肩に頭を預けた。
例えば今隣にいるのが三之助でなければ、こんなに寒いなんて繰り返さないし、それを理由にくっつきたいとも思わない。ぼんやり寒いな、と呟くくらいで終わる大したことない会話。もうひとつ言えば、別にこんなに遠まわしに言わなくても、寒い胸かせくらいで、三之助は喜んでその両手をめいっぱい広げるだろう。それから、苦しいくらい抱きしめて、寒くないかと何度も俺に聞いてくる。

「さく」

しらじらしく間延びした返事を返す。
それが我が儘か、それが俺の甘え方なのか俺自身も曖昧なのだけど、間接的にかけられる言葉はいつだってどこかふわふわと浮いてどこかに飛んでいきそうで三之助自身みたいだ。だからたまに、本当にたまに地についた言葉聞きたくて遠回りに仕掛けてしまう。そんな事知ってか知らずか、三之助はちゃんと落ちてくれるのだからとんだ間抜け野郎に違いない。

「ほら、こっちのがあったかいし」

三之助が自らの羽織の片方を開けて誘う。そこに今入るは初春の空気は肌寒く、丁度よく俺が埋まると暖かい事を俺は知っている。

「おせぇよ」

疑問を浮かべる三之助を余所にいつもの場所に収まれば、両腕と共に主人の匂いを漂わした羽織がしっかりと閉められた。お決まりの言葉に軽い相槌を打ちながら、午後の夕暮れを静かに過ぎるのを待った。

春を待っていた
早く早くと心待ちにしていた
だけど
君とくっつける理由多い
この季節
嫌いじゃないと
季節の終わりに心寂しく
あんなに待ってた春
もう少しだけ寝坊してよと零した

「君と待つ春」


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