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メモクラム



真選組に姫ちゃんが来てからと言うもの、なんだかすっかり平和な雰囲気が続く今日この頃。

「山崎さん、お疲れさまです」

廊下でばったり鉢合わせるといつも彼女は優しく話しかけてくる。

「姫ちゃんもお疲れさま。仕事中?」

「はい、土方さんにお茶を届けたところです。山崎さんもいかがですか?」

「そうだね、じゃあお言葉に甘えて貰おうかな」

「すぐにお持ちします。休んでいてくださいね」

ニコニコしながら給湯室に入って行くのを見送ってから部屋に入って汗を拭く。あー、どうして彼女がいるとこんなに癒されるんだろう。マイナスイオンでも出ていそうだ。


最近、真選組に衝撃的なニュースが舞い込んできた。
なんと姫ちゃんと沖田隊長がついにくっつき恋仲になったという話だ。
思い返せば友達というにはあまりに近すぎる距離で焦ったくて仕方なかった2人だが、いざくっついたとなるとある疑問が浮かぶ。

穏やかで可愛くて真面目な姫ちゃんがなぜ沖田隊長を選んだのかと不思議に思う隊士は多い。顔か?やはり顔なのか?
そりゃあ2人が並んでいる姿を見てお似合いだなと思わない人はいない。
若い美男美女が微笑み合っている様はまるで恋愛モノのテレビドラマのワンシーンを観ているかのようだ。
ただひとつだけ問題なのは、沖田隊長の性格にある。

これまで何人もの隊士があのドS隊長に貶められて来たのだ。しかも剣術で敵うものはいない。やられっぱなしだ。あの副長でさえも手を焼く問題児。その人を好きになる子がいるなんて。いたとしてもとんだもの好きのドMだと思っていたが、まさかあの子が。


「山崎さん、失礼します」

悶々としていると控えめに声がかかる。

「どうぞ。早かったね」

「今日は暑いので、喉が乾いているんじゃないかと思って」

見惚れるくらい綺麗な動作で俺の前に冷たい麦茶を置いてくれる。お盆には他に皿が乗っていた。その上には……

「ドーナッツ?」

「良かったらおやつにどうぞ。山崎さんだけ特別です」

小声で悪戯っぽく笑う仕草に思わず変な気を起こしそうになり、落ち着け……と自分を制する。この子といるとたまに自分の理性を試されているんじゃないかと思う。

「…と言うのも、この間のお詫びです」

「この間?……ああ、いやアレは俺が悪かったんだ。泣かせちゃったね」

「いいえ、山崎さんのお陰で総悟くんとちゃんと話せたんです。さすが監察の方というか……わたしが自分でも気がつかない心の部分まで見てくれているみたいで、すごいなって思ってるんですよ」

「いや〜、そんなに褒められたことしてないよ。監察の仕事なんて地味な張り込みがメインだからね」

「やっぱり地道なお仕事で洞察力が培われているんですね!」

「そうだといいんだけどね。ところで…姫ちゃんは沖田隊長のどういうところが好きなのか聞いていい?」

「えっ?」

「いやー、男の俺にはわからない魅力でもあるのかなーと思ってハハハ…」

俺の突然の振りにも真面目に捉えた姫ちゃんは、うーん、と少し考えてから顔を上げてほんのり頬を染めてはにかんだ。

「優しくて、剣を握る姿が格好良くて、わたしの気持ちが揺れそうになるといつも安心させてくれるんです。総悟くんがいるから大丈夫って思えるというか…、頼り甲斐があるっていうのかな。あと……」

「あと?」

「すっごく優しく笑うんです。その表情を見るのが好きなんです」

「……それ本当に沖田隊長なの?誰か違う人のことじゃなくて?」

「ふふ。普段すっごくいじわるですもんね。あ、山崎さんの素敵なところは、」

「いやいや俺褒めてもなんも出ないから!沖田隊長の後に褒められるのすっごくいたたまれないから!」


「そうだなァ。あんまり褒めると調子に乗って姫に襲いかかるかも知れねーぞ」

「…………今…襖の向こうから声がしたような………」

しかもこの状況を一番見られたくない人の声が……。

「総悟くん?」

そうそれ。君の大好きな総悟君。

部屋に入ってきたのは言わずもがな沖田隊長だ。
うわー、めっちゃ真顔でこっち見てるんですけど。

「沖田隊長、なんか用デスカ」

「喉渇いたから茶飲みに来たんでィ」

「いや喉渇いて俺の部屋に来ることがおかしいんですけど。どうせ姫ちゃんの声がしたから来ただけでしょ。ちょっ、それ俺のお茶!」

あろうことか沖田隊長はどっかりと腰を下ろし俺のお茶をグビクビ飲み、ドーナッツを頬張った。ちょっと!それ!俺の!まだ手つけてないのに!

「総悟くん、それ山崎さんのだよ」

そーだそーだ!姫ちゃん言ってやって!

「…姫、前髪伸びたな」

ドーナッツをもぐもぐ頬張りながら沖田隊長の空いている手が姫ちゃんの前髪をさらりと攫った。
露わになるおでこ。綺麗な子っておでこでさえ美しいんだなと思いながらいつもは見えない部分を見たことで秘密を覗いたような気持ちになりドギマギしてしまう。


「うん。そろそろ切るか、伸ばすか悩んでるの」

「俺ァ今のが好みだ」

「ほんと?じゃあ後で整えようかな」

「切ってやろうか?鋏ねーから真剣で」

「だめだよ、前髪なくなっちゃう」

「でこが丸見えになればキスし易いな」

「もう…そんなのやだよ、恥ずかしい」

「ほら、半分やらァ」

「ありがとう!…って、これ山崎さんの…むぐ」

「どうせザキは胸焼けして食えねーだろィ」

姫ちゃんの口にドーナッツの残りを押し込みながらニヤリと意地の悪い薄ら笑いを浮かべてこちらを見る沖田隊長にヒクリと口元が痙攣する。

「ええそうですよ胸焼けも胃もたれも尋常じゃないですよ!アンタら俺の部屋で何イチャイチャしてんすか!」

「イチャイチャ?俺たちがいつイチャイチャしたってんでィ。普通に話してただけだろィ。ああ、チェリーにはちぃと刺激が強かったか」

「あああああクッッッソムカつくぅぅぅぅ!!」

チェリーじゃねーし!出て行け!さっさと出て行け!
どうせ俺に姫ちゃんとの仲の良さを見せつけたいだけだろうこの人は!あーハイハイ良かったねムカつく羨ましい妬ましい!

「山崎さん、また後でお茶お持ちしますね」

「大丈夫だぜ姫、ザキは茶より井戸水汲んで飲むのが好きなんで」

「そんなわけないでしょーが!」



とりあえず胃薬下さい。






title by ユリ柩




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