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「あー疲れた。ちょっと休憩していかね?」

「…それ、目の前のラブホか向かいの喫茶店、どっちの事ですか?坂田副長」

「俺的には前者」

「わたし的には断然後者が良いです」

「じゃあパフェ食っていい?」

「仕事中にそんな浮ついたもの食べないで欲しいです苦情入りそう」

「なーにが浮ついてるだよ俺には緑茶と同じくらいの立ち位置だわ」

スタスタと足を進める同じ黒い服を着た副長を追いかける。この人…武装警察真選組の副長である坂田銀時はもう一人の副長である土方十四郎とは対照的に全体的にかなりゆるい性格で、本当にこの人が上司なのかと思うほど突拍子もないことをしでかす。
坂田副長とコンビを組む日(ほぼ毎日)はいつもこうして休憩と称して喫茶店や甘味処に連れて行かれこれが美味いアレを買ってみろとオススメを食べさせられるのだ。はじめは仕事中にこんな事…と思ったけど副長があまりに美味しそうに、幸せそうに食べるからその顔を見るのがお気に入りになってきてしまっている。だって坂田副長って、普段はこんな風にフラフラサボってやる気ないのにいざとなるととっても強くて格好良くて、そんなギャップを近くで見てきてわたしとしては…少しだけ副長のことが気になり始めていたりする。まぁ真選組にいる以上普通の恋愛なんてしてる暇はないので多分この気持ちはアレだ、憧れに近いんじゃないかなと思うことにしてる。

「やっべめっちゃうまくねこの新作。桃のパフェ。ヤバくね?もはやエロささえ感じるわ」

「エロさはわからないです。美味しそうだなーとしか」

「ほらあーん」

細いスプーンに桃とクリームとアイスを器用に乗せて目の前に座るわたしの口元に手を伸ばしてくる。確かに美味しそう。桃は好物だし。仕事中なのも忘れて軽く口を開けてスプーンが唇の上に乗るのを待っていると、数秒手が止まった。え、まさかからかわれた?と思った瞬間に甘くて冷たいパフェが口に入ってきた。

「ん、これ美味しいです!」

「だろー?」

「桃がすっごくみずみずしくて、でもクリームがそれを邪魔しないくらいの甘さで」

「わかるわかる」

頬杖をついてわたしの感想を聞いている坂田副長は嬉しそう。本当に甘い物好きだよなぁ。ゆるく笑ってる表情は大人の色気を感じるしどきっとすることもある。まぁこんなわたしなんて釣り合わないけど。

「お前ここに来るといつもそれだよなぁ」

「大好きですもん」

「それ俺のこと?」

「違います。このお店のワッフルのことです」

「美味いよなぁ」

目の前に置かれたお皿を物欲しげに見つめる副長の意図はわかっている。俺のパフェを一口あげたんだからお前のも寄越せと言っているのだ。フォークでワッフルをさく、と刺して手を上げるともう既に副長は軽く身を乗り出してわたしの腕を掴みぱくりとそれを食べた。

「このメイプルシロップがもうやべーよなぁ。ふわふわサクサクのワッフルに染み込みすぎないくらいが一番うめーよな」

「めっちゃ同意です」

「おや?見回り中に仲良くデートですかィ」

聞き慣れた声がしてそちらを見れば同じ隊服を着た若い男の子がわたしの隣に腰を下ろした。ぐいぐいケツを押しつけてくる。ちょっ、狭い。もう行き止まりだよ。

「お疲れさま総悟」

「名前さん今日は一段とアレですねィ」

「アレって?」

「馬鹿っぽい面してますねィ」

「ワッフルあげないよ」

「いりやせんよそんな食いかけ。それに目の前にいるお方に殺されるんで」

「沖田くんの持ち場はここじゃないよね?なんで当然のようにいるんだよ」

「いやですねェ坂田副長。向こうの通りで連続強盗事件の犯人追いかけて来たらこんなところでご休憩とは隅におけねェやこのこの」

メニューを手にしながら肘で副長を…ではなく何故かわたしの方をこずいてくる総悟を鬱陶しい目で見る副長は無言でパクパクとパフェを食べ進め容器を空にする。

「いやお前だったらさっさと屯所帰れよ。犯人捕まえたなら報告書書かなきゃなんねーだろうが」

「いやですねィ誰が捕まえたなんて言いやした?まだ隠れんぼの真っ最中ですぜ」

「はぁ?」

「通りをひとつ越えればアンタ方の持ち場でしょう。俺はそれを伝えに来ただけなんでねィ」

ニヤッと笑ってすみませーんと店員さんを呼びコーヒーを注文した総悟を見つめて数秒。

「おまっまさか犯人放ってここに来たのかよ!?ふざけんじゃねぇぞ!!おい名前行くぞ!」

「はいっ!」

「サボってデートなんざしてた罰ですぜ、副長」

「てんめぇぇぇ後で覚えてろよクソガキが!」

せっまいソファを抜け出して乱暴にドアを開けて喫茶店を出た。先を走る隊長を追いつつ、連続強盗事件の資料を頭の中で開いた。

「名前!情報!」

「犯人は四十代くらいの中肉中背で黒いフェイスマスクに作業着、三ヶ月前から六箇所の銀行や店舗で犯行を行っています!凶器はナイフとスタンガン、恐らく今日も所持してるはず!」

「流石だな、応援呼んどけ!見つけたらまず俺に連絡しろ!」

「はい!」

それを合図に二手に分かれた。無線で応援を呼びつつ犯人が潜んでいそうな人気のない場所を中心に探した。総悟の奴、犯人追ってる途中で切り上げるなんてあり得ないんだけど…!
走っているとドンと人にぶつかった。人気のない通りだからまさかぶつかるとは思ってなくて驚く。男性も同じのようで焦りながら頭を下げた。大きな荷物が地面に落ちた。

「すみません!急いでたもので…いたた。足を捻ったかな」

「こちらこそ余所見していました。大丈夫ですか?手を…」

蹲って下を向いた男性に手を伸ばすと差し出されたのは黒いスタンガン。バチっと電流が走るのを咄嗟に避けるが差し出した腕を掴まれ体勢が崩れた。あ、やば、コイツだ。坂田副長に連絡しなきゃ、いやその前にコイツのスタンガン食らうとまずい、

「女の真選組なんてラッキーだ!気ィ失わせて裸にして吊るしてやろうかぁあ!」

「っこの変態親父!!」

掴まれた腕がびくともしない。振り上げられたスタンガンに身が縮こまる。やだやだ、こんな変態にやられるなんて。

「ったく連絡しろっつったろ!」

「ぐあっ!」

「副長!」

男が殴られて腕が緩んだ隙に間合いを取って離れた。懐から取り出したナイフを振り上げた男に対して副長は顔色一つ変えず正面から突っ込んで行った。目にも留まらぬ刀捌きで犯人を気絶させるとソイツを踏みつけた。

「えーっと何だっけ?真選組だ。お命頂戴する」

「御用改めである、ですよ坂田副長」

しかももう気失ってるし。

「大丈夫か?油断してんじゃねーよ」

「はい、すみません。フェイスマスクしてなかったんでてっきり普通の人かと」

「マスクなんて目立つモン外すに決まってんだろ。自分の情報に踊らされてんじゃねぇぞ」

「ごめんなさい」

「でもあれだな、裸にして吊るすってのはちょっと見てみてたかった気もするな」

「刺しますよ」

「いでっ!冗談だっつの!」

脛を蹴ると飛び上がった。副長のスケベ。





その日の夜、眠れなくて庭でぼーっとしていると誰かが近づく気配がした。隣に腰を下ろした坂田副長は寝間着をゆるゆるで着ていた。

「まーた反省会か」

「反省じゃないです。リフレッシュです」

「なんでもいいけどさ、お前のお陰で犯人逮捕できたじゃん」

「副長がいなかったらすっ裸にされてました」

「いーじゃん別に。俺がいたんだから」

「あんな男くらい一人で捕まえられないなんて自分が情けなくて」

「そりゃあ体格差もあるししゃーねーじゃん。だから俺と組んで見回りしてんだろ。頼ってりゃあいいじゃん。んで、『坂田副長格好いー惚れちゃう〜』って思ってればいいじゃん」

「思ってますよ。格好いーって」

「惚れちゃう〜は?」

「いやそこまでは」

「ふーん」

実際かなり惚れそうになっちゃってるけど。公私混同は良くない。

「名前さー、真面目で正義感もあっていい子じゃん。意外と胸あるし」

「普通にセクハラですよそれ」

「でもさ、ドジなんだよなぁ。めっちゃ空回ってるし」

「………ソウデスネ」

「そういうとこ、可愛いよ」

「…………」

坂田副長はそういう人だ。フラフラして総悟と一緒にサボったり遊んだりしてるくせにいざと言う時にちゃんと決めてくれて助けてくれるし、落ち込んでればこうやって部下のフォローをしてくれる。そしてついでに仕事以上の視点から突拍子もないことを言ったりする。わたし自身を見て褒めてくれる。ああ大人だなぁと思うし、そんな一言で嬉しくなってしまうわたしはなんて単純で子どもなんだろうと思ったりする。

「…初めてあの喫茶店に連れて行ってくれた時のこと、覚えてますか?」

「んー?名前とは何回も行ってるからなぁ」

その時も、こんな風に励ましてくれたんですよ。忘れてるだろうけど。




「おはよーございまーす」

「おい名前」

食堂に行くと先に食べていた土方さんの視線がこっちに来いと言っている。嫌な予感しかしない。朝食を受け取り土方さんの向かいに座ると目に入る黄色い物体。うっ胸焼けが…。

「お前昨日連続強盗事件の犯人にやられそうになったらしいな。総悟から聞いたぞ全裸で吊し上げられそうになったとかならなかったとか」

「なってないです!土方さんも間に受けないで下さいよ!ていうか総悟見てたな……!!後でこらしめてやる…!」

ぱくぱくとご飯を口に運んでいるとカタンとトレーが土方さんの隣に置かれた。

「おーっす朝から説教たぁ今日も気合い入ってんなぁ副長さん」

「テメーも副長ならもっと早く起きろよ寝癖やべぇぞ坂田」

「いやこれでもセットした後だからね?天パ舐めんなよ誰よりも早く起きてっからね俺」

「うっ……」

目の前に土方スペシャル、その横に宇治銀時丼。は、吐きそう……。

「おいおい俺の顔見てえずいてんじゃねぇぞ名前。そんなに気持ち悪いかよ。俺の天パが泣いてるぜ」

「いや違いますもう視覚の暴力が…おえっ」

失礼しますとトレーを持って立ち上がる。すると「見回り忘れんなよ」と坂田副長の声。忘れるわけないじゃないですか。

「あり?変態野郎にひん剥かれた名前さん懲りずに見回りですか」

出たな総悟!

「ひん剥かれてないから!!変なこと触れ回るのやめてよねホント!怒るよ!昨日も見てたんなら助けてよね!」

「助けませんよ。アホでドジな名前さんの子守は副長の役目なんで」

「子守って言い方酷くない?」

「アンタに何かあったら全部坂田副長の責任ですからねィ。あの人も随分と物好きなもんでさァ」

「何それ。まるで坂田副長がわたしと一緒にいたくているみたいじゃん」

「そう言ってんでさァ」

「まぁ連れて歩くには生意気な部下たちより女の方が楽でいいんじゃない?」

「まぁなんとでも言ってなせェ」

ぺちっとおでこをはたかれてスタスタと行ってしまった。ポケットからアイマスクを取り出している。どこかでサボる気だな。





「15時かー、おやつにすっか」

「素敵なタイムスケジュールですけどうちにはおやつタイムなんてありませんよ」

「何言ってんの坂田副長は毎日15時におやつタイムって決まってんだろうが秘書なら把握しときなさい」

「いつから秘書になったんですか」

いつもの喫茶店。頼むのはパフェとワッフル。お決まりのメニューが目の前に広がっている。そのうち新人さんとか入ってきたらこういうのも無くなっちゃうのかなぁ。

「お前もう何年目?」

「二年が終わるんで三年目ですね」

「先が思いやられるな」

「余計なお世話…と言いたいところですけど否定しません」

実際、副長がいなかったらこれまで百回は殉職してた。

「名前が入ってきた時ってさー、あーなんか難しい子が入って来たなって思ったんだよな」

「え?」

「正義感と度胸は人一倍あるくせにどうもドジだし詰め甘いし女だからって相手からはまず舐められるわけじゃん。意外と傷つきやすくてどーでもいいことで悩んで夜中に庭で丸くなってるから放っとけなくて」

苺パフェが副長の口のなかに消えていく。鮮やかな赤はこの人によく似合う。そういえば初めてここに来た時食べていたのは……。

「だからさ、肩の力抜いて欲しくてここに誘ったんだよ。甘いもん食べるといい気分になるからさ。んで、ワッフル初めて食ったお前、すげー顔して笑ったんだよね」

「初めて来たときのこと覚えてたんですか…。ていうかすげー顔って?まさか白目剥いてました?」

「すげー好みだったんだよね。甘いモン食べて笑った顔が」

甘いもの食べたら幸せそうに笑う坂田副長の表情がお気に入りだった。それはわたしの方なのに。

「それからどうやってお前のこと笑わせようかってばっかり思って何度もここに誘ったりしてんだけど」

苺をスプーンですくってわたしの方に差し出す。鮮やかで、みるからに甘そうで、

「それってさー、好きってことじゃね?」

胸が、熱い。薄く開いた口の中に入った甘酸っぱい苺と副長の言葉を咀嚼する。

「…わたしがいつもワッフルを食べるのは…副長が初めて連れて来てくれた時に勧めてくれて」

「うん」

「シロップが甘くてバターの香りが胸に染みて、サクサクでふわふわしてて、坂田副長みたいに優しいと思ったから」

自分でも何言ってるのかわからない。ワッフルと副長。苺とメイプルシロップ、この場所にある空間の物全てが甘くて、わたしはその優しさにいつも救われて来たんだ。そしてそんな貴方がずっとずっと…………。

「これって恋だと思いますか?」

「わっかんねーよ。でも、そうであって欲しいと思うよ」

同時に漏れた二人分の笑い声。手の中のフォークでワッフルを持ち上げて、副長に差し出した。多分お互いが気付かないくらいずっと前から恋する気持ちをこうやって分け合ってきたんじゃないかなって思ったけど、それってちょっとロマンチストすぎ?って考えて言うのやめた。

「んまい」

「そうですね」

仕事用の携帯が鳴る。テーブルにお金を置いて立ち上がり、どちらかとなく手を繋いだ。店のドアの前までのたった数メートル。

「てんちょー、領収書頼むわー。『真選組 土方十四郎』で!」

「あははっ」

まいどー!と笑う店主に頭を下げてドアを開けた。さぁここからは、お巡りさんの時間。

「うっし行くぞ!」

「はーい!」


スプーンですくって銀河線

坂田副長と甘いものシェア。

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