これ、見てください。
フルギ達五人は玄関まで移動してきて、あるものを見ていた。
フルギが、手の中に持っているものを皆に見えるように掲げる。そこには「あと五人」と書かれていた。

「あと五人。ここにはそう書かれている。」

その言葉に、ホシダが言葉を詰まらせながら六人って書いてあったのに、と呟く。
そうだ、“ヒメジの死体をみるまで”は、入口のドアに貼ってあった紙には「あと六人」と書かれていた。それが今、一つ数字が減っている。

「つまり、ヒメジさんが脱落したことを示している。…きっと、最後の一人になるまで、これは続けられる予定なんだ」

最初に目覚めた部屋にあった封筒。それは全員が持っていた。封筒も、便箋も、内容も一つ違わず。
―――ここから出られるのは、一人だけ

「…じゃあヘビノは、僕たちが最期の一人になるまで、襲い続ける、と?」

青ざめたイチノセが声を震わせながら問う。その問いには誰も口を開かなかったが、それが答えでもあった。
わけのわからない洋館。同じ境遇の五人。謎のメッセージ。ヘビノという男と、男が妄執しているユリの存在。
理解しない訳にはいかなかった。理由は不明であっても、自分たちはあの男に命を狙われているのだということを。
フルギの手の中で、便箋がぐしゃりと潰れる。
ふざけるな、フルギの中は怒りがふつふつとわいて来ていた。
訳のわからない場所で、知らない男に言われも無く殺されてたまるか。絶対にこんなところ抜け出してやる。早く日常に戻るのだ。

「絶対にここからみんなででよう、絶対に、絶対に、だ。殺されてたまるものか」
「そうだな、あんな奴に殺されて人生終わるなんてごめんだ。」
「僕もそう思います。早くここからでましょう」
「無事に出たら皆さんと一緒にご飯でも行きたいです」
「誰かが死ぬなんてこれ以上は後味悪いもの…誰か死んだら承知しないから」

五人全員、お互いの顔をみて強くうなずいた。

まずは安全に寝るところを確保することになり、一番広い図書室を拠点にすることになった。
男女一緒なのは申し訳ないが、各部屋だとなにかあった時に対処できない。本棚を移動させて部屋の中央に壁をつくり、人ひとり通れる隙間を残しておくことで解決した。
そこにベッドからマットレスを運んで持ち込み、ドアの前には寝る前に開けられない様に本棚を置くことになった。部屋の外で行動する際は、必ず男を含んだ二人以上で行動すること、何かあった時は大声で叫ぶことなどのルールがフルギ主導のもと設けられた。
そして、夜。

「冷えるなぁ、ここは」
「山の奥とかなんだろうな、足元から冷気がくるし…まだ秋だってのに、冬みたいだ」

フルギとホシダの二人は、お手洗いを済ませて部屋へと歩いて来ていた。洋館の廊下にはふかふかのカーペットが敷かれているため相当温かいはずだが、それでも寒い。山の奥など標高の高いところにこの洋館が位置しているのだろう。指先が冷える。防寒のために明日はなにか探した方がいいかもしれない。
その時、後ろから物音が聞こえた。
二人はバッと後ろを振り向き、そして言葉を詰まらせた。

「…!ヘビノ!」

喉からフルギが振り絞ったその名。
黒髪の男は、静かな表情で、赤く染まった包丁を握りしめてそこに立っていた。
静かな表情、しかし瞳は。その瞳だけは、何かを恨むかの様に、強い光を宿してフルギ達を睨み付けていた。
その瞳に、表情に、全身がぶるりと震えた。寒さではない。恐怖だ。


「お前達、ユリに何をした」


その瞳で、ヘビノは包丁の切っ先をこちらに向けながら言い放った。
その声は、酷く冷たく、凍えていた。



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