特別ってなんだろう。
私は至って普通で特技すらあまりない、ただの今日から女子高生になる一人。
強いて言うなら園芸とか雑学として役に立ちそうな知識は人より豊富だが、大した特技ともいえないだろう。
だから私は特別、や特殊、なんて言葉で区別される種類の人では全くなく、そして近くにそんな人もいなかった。
だからふと疑問に思ったのだ、特別って、どんなことなんだろうって。それは間もなく解決されたけど。…いや、あれは特別というより特殊、というか変だ。

今日から始まる高校生活。私立高校ではあるが私の家庭は普通の一般家庭だ。バイトしなくてはいけないかもしれない。
そんなことを入学式の朝から考え、これから三年間歩くであろう道を歩いているとふと怪しいものが目に入った。…面?
住宅街の少し道幅の狭い道路、人ひとりが手を目いっぱい広げればある程度は封鎖できるほどの狭さ。つまりそれを実際にやって封鎖している、怪しい人が視線の先にいたのだ。
これまた妖しい、鬼のような面をつけて。

「……なに、あれ」

思わず独り言をつぶやき、なんとはなしに後ろを振り向く。うん、誰もいない。前方にはもう曲がり角などはなく、進むにはあの鬼面のセーラー服―しかも自分と同じ篠崎高校のセーラー服―を着た少女と思しき人物とかち合わなくてはならない。それは避けたい、怪しいから。
なので回れ右をして、すぐ後ろにあった曲がり角に方向転換しようとした。

「まって!!!そこの少女!!」

「……。」

すると即座に大声が飛んでくる。明らかにあの鬼面少女が発している声だ。あれは、絶対私を呼んでいる。なにせ今いる少女と言えば私しかいない、というか人がいない。
あんな大声、近所迷惑だなぁとか関係ないことを一瞬考え、しかし無視するのも良心が引けたのでそっと振り返った。
鬼面がじっとこちらを見ている。まるで蛇に睨まれたカエル気分だ。

「…ねぇ君!…もしかしなくても、新入生!?」

鬼面少女は道路を封鎖するのを止め、こちらにたったったっと小走りで駆け寄ってきた。いや怖い。じりじりと後退しつつ、そうですが…?と返す。
すると鬼面少女は、面を被っているのに分かるほど嬉しそうにしはじめた。お花が飛んでいるように見えなくもない。

「よかった!じゃあ君に決めたっ!!」

「私モンスターじゃありませんよ!?」

「決めたったらきーめーたーの!!!!女の子だし丁度いいよねー!ふっふーんっ」

「あ、ちょっ!?」

駆け寄ってきたと思ったらいきなりのどこぞのモンスター扱い。君に決めたってなんですが一体。
この様子、制服のくたびれ具合から察するにこの鬼面少女は上級生のようだ。
その鬼面少女はテンション高く、こちらの話を一切聞かずに手をとってずるずると引っ張り始めた。
わけが分からないなりにしかし抵抗はするのだが、力が強くて逃げることもできない。

―――なんなの、この人―――!?

若干の恐怖感と不安を抱きつつ、私はそのまま高校へとずるずると引きずられていったのだった。
その人が実は校内で有名で、しかもそこそこ偉い立場であることは少し後で知ることになる。


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