ある国の秘密諜報部トップのアラウディ様。
一人を好み、誰かと協力するのは互いの正義が一致した時のみ。

いつでも我が道を進み迎合なんてしない彼。
だからこそ自警団、ボンゴレファミリーの雲の守護者にふさわしいのだとジョット様は笑っていた。

一人は寂しくないのでしょうか、そう呟いた私をジョット様は驚いたように見ていた。



『……』



アラウディ様は自警団の大切な会合に顔を出した事がない。
ジョット様は彼らしいと出席しない事に対して特に気に留めてなかった。
だけど私は守護者の皆が揃って欲しいと思う。

だから、ジョット様の秘書である私は今日もまた「会合に出て欲しい」と懇願しに彼の元へとやって来た。

あぁ、これで何回目になるんだろう。
両手でも数え切れないくらいアラウディ様の元を訪れては説得しているけれど首を縦に振ってくれる様子はない。



『アラウディ様、こんにちは!』

「………」

『む、無視は止めてください!寂しいですよ、アラウディ様…っ』

「……はぁ。」

『うぅ、あからさまな、ため息もやめてください…っ』

「……またやって来たんだ、ボンゴレは随分と暇だね」

『……ッ』



ま、負けるもんか!
これでも最初に比べたら大分、会話が続くようになったんだから!

自分を奮い立たせるため、ファイト!と心の中で炎を燃やしガッツポーズしてアラウディ様に話しかけた。



『暇じゃないですよ!これでもジョット様の秘書なんですから仕事はたくさんあるんです!』

「…ふぅん。僕を呼びに来るのもその仕事のうちって訳かい。」

『へ?』

「今回は今夜の会合の件だろ。何度、来ようが僕は顔を出すつもりはない。雲の守護者にもなった覚えがないからね。」

『でも、この間はジョット様と共に戦ってくれたじゃないですか!』

「利害が一致したから、それだけだよ。」

『……』

「………」

『……一度だけでもいいんです!会合に出てください!』

「嫌だよ。僕はそんなに暇じゃないんだ。」

『……っ』



私を無視してソファーへと座るアラウディ様。
これでも本当の本当に対応はマシになった方だ。

最初の頃なんて睨まれて脅されて無視されて話なんて聞いてもくれなかった。
やっと聞けた声を言えば「邪魔」の一言。

二回目の会話だって鮮明に覚えてる。
「誰、君?」が二回目の会話。

あんなに名乗って話しかけてたのにね…!!



『……(…思い出したら凹んできた)』

「……?どうしたんだい」

『あ…、いえ!何でもないです!』

「……そう。ならいいけど。」

『………!』



それが今ではちゃんと会話が成り立ってるんだよね…!!
初めて会話になっている事に気付いた日は会話のキャッチボールが出来る事は何て素晴らしいんだと感動した…!!

これは少しは信用を得られているって思っていてもいいよね?

うんうん、良く頑張ってるじゃないか、私!



「ねぇ」

『何でしょうか?』

「まだいるつもりならお茶を入れてくれるかい」

『……』

「コーヒー。君も飲みたいなら勝手に入れて構わないから。」

『………』

「返事は?」

『……了解しました、アラウディ様』

「その後は掃除を頼むよ」

『…はい』



信用してくれてるというか、これは何というか…丁度いいメイドがいるって思われてる?

私、これでも秘書なんだけどな。
そりゃジョット様にもお茶を入れるけどね!お菓子も用意したり家事もこなしちゃうけどね!

ここでは一応、私ってお客様の立場でしょう、普通はお茶を入れてくれるものでは…!?



『お茶が入りました、どうぞ』

「ありがと、そこに置いといて」

『はい』



文句を心の中で呟きつつもテキパキとお茶を入れてしまう私、偉くないですか?ねぇ、ジョット様!

さりげなく自分の分も用意してアラウディ様の正面へと腰を下ろす。
今ならお茶のまったりした空気が助けてくれて話を聞いてもらえるかも知れないと思ったから。



『あの、アラウディ様…』

「行かないから。」

『……』



うぅ、見透かされてる…!!
いつもならここで会話は強制終了だけど今日はもう少し粘ってみよう。
私はごくりと喉を鳴らして緊張しながら会話を続けた。



「………」

『り……理由、聞いてもいいですか?』

「ん……?」

『あ…、いつも来てください、行かないのやり取りだけで理由をちゃんと聞いてなかったな、と思いまして』

「一人が好きだからだよ。騒がしい奴等がいると分かっている場所にわざわざ行く奴の気が知れないね。」

『……』



ですよねー…!!
何で分かりきったことを聞いてるんだ、私は!

ふぅ、とため息をしてコーヒーを一口、飲むと珍しくアラウディ様の方から話しかけてくれた。



「ねぇ」

『は、はい…!?何でしょうか?』

「君は何でそんなに僕を会合に連れ出したいんだい」

『……へ?』

「…あぁ、あいつが命令でもしたのか。本当、迷惑な話だよ。」

『あいつ、ってジョット様ですか』

「他に誰かいる?」

『ジョット様はそんな命令しません』

「……」

『命令でアラウディ様が来られても、嬉しいと思うような人ではないです。』

「ふぅん…」

『……』



アラウディ様にジッと見つめられると冷や汗が出るほど緊張してしまう。
沈黙が続いて緊張は増すばかり。

何を考えているんだろう?なんて思っていたら予想外の言葉がアラウディ様の口から出た。



「君、ボンゴレT世に惚れてるんだ」

『………は?』

「彼の役に立ちたいから僕を呼びに来ている、そうだろう」

『ち、違いますよ!』

「何が違うのさ」

『ジョット様のためでもありますが、それは別に惚れてるとかではなく…』

「……」

『だからと言ってアラウディ様を呼びに来ているのは命令があったとか仕事としてでもなく……』



あれ?私、めちゃくちゃな事を言ってるような…っ!?

自分が何をしたいのか。
何のためにアラウディ様を呼びに来ているのかを言葉にしようとすると混乱してしまう。

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