あれでもない、これでもないと、ぐるぐると考える。
考えれば考えるほど混乱して答えが出ない。

言葉に詰まっているとアラウディ様は簡潔に一言、言い放った。



「前々から思ってたけど君って頭が悪いんだね」

『う…っ』

「自覚してなかったんだ」

『…〜…つ、つまりですね!』

「あぁ。つまり、何なんだい?」

『……っつまり』



う……っ!ここから先の言葉が出てこない。
アラウディ様はそんな私を呆れたような眼差しで見つめて息をついた。



「考えがまとまってないのに"つまり"なんて言葉にするものじゃないと思うけど」

『………私もそう思いました』

「思いましたって、君……」

『うぅ……今度はちゃんと答えを出してきます…』

「ふ……っ」

『……!!』



わ、笑った!!
一瞬だけど口角を上げて笑ってくれた事が嬉しくなった。

そして今、何となくだけれど私の言いたいことが分かった気がする。



『私、アラウディ様にそうやって笑っていて欲しいです!!』

「ん……?」

『一人じゃ笑えないです、一人は寂しいじゃないですか!』

「……」

『だから、私はアラウディ様にボンゴレファミリーに入って、みんなと一緒に笑顔でいて欲しいと思ってて…』

「………」

『まずは、会合からなら来やすい、かなと…』

「…ねぇ」

『はい?』

「君は何で僕に笑顔でいて欲しいって思うんだい」

『え……?』

「………」

『何で、って笑っていた方が幸せじゃないですか?』

「……君は本当にバカだね、それに楽観的すぎる。」

『なっ!?だって一人だなんてつまらないじゃないですか!寂しくないんですか!?』

「言っただろう、僕は一人が好きなんだよ」

『……』

「だけど……」

『アラウディ様?』

「君には興味を持ったよ、名前」

『え…っ!?』



立ち上がると隣に座る。
アラウディ様は私の頬に触れ自分の方へと向かせる。

キラキラと透き通るような金の髪に淡いブルーの瞳、綺麗に口角を上げた笑みが近くてドキドキする。
ついつい見惚れていたら両手首に冷たく硬い感触がして、不思議に思い手元を見た。

その時、ガシャンと無機質な音が響いた。



『………え』

「君、自警団を辞めてうちに入りなよ」

『あ…、え……えぇ!?ちょっ、何なんですか、この手錠は!!』

「yesって言わないなら牢獄行きってこと」

『な……っ』



楽しそうに微笑んでいる彼。
まるで「どうするんだい?」って言っているような微笑み。

どうしようにも手錠を掛けられては何にも出来ない…!!
卑怯ですよ、アラウディ様!



『わ、私が入ったらボンゴレの会合に顔を出して、くれますか?』

「出る必要なんてないだろう」

『あ、ありますよ!言ったじゃないですか、一人は寂しくないんですかって!』

「君が傍にいるなら僕は一人じゃなくなる」

『…………え』

「だから、わざわざボンゴレ自警団の会合に出ることはない」

『た、確かに一人じゃなくなりますけど…っ』

「そうだろう、いい案じゃないか」

『え、えっと、でも!あの…っ!?』

「……」

『う……っ』



有無を言わせない眼差しで見つめられ言葉が詰まる。

どうしよう、どうしたらいいんだろ!?
手錠のせいで身動きが制限されてしまって固まっていると頭上から声が聞こえた。



「そこまで。」

「何がそこまでなんだい、不法侵入者。」

「不法侵入者とは酷い言い方だな…」

『ジョット様…!?』

「やれやれ、やはりここにいたのか。あまり心配をさせるな。」

『ご、ごめんなさい、ジョット様…』

「気にしないでいい、…オレのためだろう?」

「君のためじゃなくて僕が一人だと嫌だから、らしいよ」

「……」

「………」

『あ、あの、ジョット様?アラウディ様?』

「さぁ、今日の所は帰ろうか、名前」

『え?あ……はい…』

「……」



ジョット様は手錠を外すと私を軽々、抱き上げた。
その行動にハテナマークばかりが頭に浮かぶ。

私が不思議そうにジョット様を見上げるとふっと優しく微笑んで窓に向かう。



『あの、ジョット様…』

「どうした?」

『何で、窓に…』

「帰るからだ」

『だって窓……』

「だから窓から。」

『えぇ…っ!?』

「……。名前…」

『な、何でしょうか、アラウディ様…』

「また来なよ」

『……っ!』

「それじゃアラウディ、たまには会合に顔を出してくれよ」

『…って!ジョット様、飛び降りないでくださぁぁい!!』



私がアラウディ様に返答する間も与えてくれずジョット様は窓から飛び降りる。
下ではG様がまだかまだかと煙草を吸って待っていた。



『……っ』

「おぅ、大変だったみたいだな。名前。」

『ジ、G様……死ぬかと思いました…っ』

「…オレもまさか飛び降りて来るとは思わなかった。あまり無茶するんじゃねぇぞ、ジョット」

「ははっ、悪い悪い。でも……」

『で、でも…?』



ふと上から騒ぎ声が聞こえて見上げるとアラウディの部下の人たちが謝っている姿が見えた。
皆、「侵入されてしまいました、申し訳ありません!!」と必死になっている。



『ジョット様、本当に不法侵入したんですか…!?』

「どうしても入れてくれなくてな…、どうやらアラウディがオレを中に入れるなと部下に命令しているらしい。」

「アラウディの野郎に嫌われてるもんだな」

「これからもっと嫌われそうだ」

「…?どうしてだ?」

「こうするから。…名前」

『はい……?』



名前を呼ばれて私は素直にジョット様の方を向く。
じっと見つめるとジョット様は柔らかく微笑み距離が縮まる。

顔が近い、と思った時には額に柔らかいものが触れた。



『……!』

「…おい、ジョット。何してんだよ」

「牽制。」

「誰をだよ」

「アラウディに決まってるだろう?」

「アラウディ……って、おい!」

「ん?」

「暢気に笑ってんじゃねぇ。睨んで足を窓にかけてるぞ。部下に止められてるがこっちに来るつもりだ。」

「……逃げるか。名前、オレにしっかり抱きついててくれ」

『え…、だ、抱きつく!?』

「そう。首に腕を回して……落ちたら嫌だろう?」

『自分で歩けますよ?』

「アラウディから逃げられるのか?」

『……』

「決まりだな。さぁ、早く。」

『失礼します…』



ぎゅっと抱きつくとジョット様とG様は走り出す。
揺られながら後ろを見るとアラウディ様が静かに佇んでこちらを見ている。

その目はまるで狩りをする獣のようで背筋にゾクリとしたものが走り無意識にジョット様を強く抱き締めていた。



『……(…こ、怖い!!)』

「大丈夫だ、名前はオレが守るから。G、アラウディの足止め頼んでいいか?」

「オレが守るからって言った傍からオレを頼るな」

「………」

「そんな目で見るな。分かった、貸しにしておくぜ。」

「あぁ、すまないな。上手く引き付けてボンゴレアジトまで連れて来てくれ」

「おぅ……、って!ちょっと待て、足止めじゃねぇのかよ」

「そう思ったんだがな。あの様子なら名前を餌に会合に引っ張り出せるだろうと思ってな」

「まったく。そんなだからアラウディの野郎はいつまで経っても…」

「それじゃ、また後で」

「……少しは人の話を聞いてくれ。ジョット。」



アラウディ様が追いつくと同時にジョット様は再び走り出した。
後ろに視線を送るとふっと楽しそうな微笑みを向けていた。



「君の主は逃げ足が随分と早いようだね」

「てめぇならオレが少々、足止めしてでも追いつくだろ」

「君を倒してからも余裕さ…」

「それはどうか分からないぜ」

「……そうかな。僕は今、すごく機嫌が悪いんだ」












「抜け駆けは許さないよ、ジョット」

「早い者勝ちというだろう?」



end



2010/12/12

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