ジョット様の自警団に入って早一年。
非戦闘員である私は主にメイドの仕事をしていて今日は町へ食料の買い出しに来ていた。

そこで見つけたのは雲の守護者であるアラウディ様。
姿を見かけた一瞬のうちにササッと物陰に隠れた。



『……!』

「………?」

『…っ(み、見つかった!?)』



どうか見つかりませんように、と心の中で願うと無意識に息を止めてしまう。

アラウディ様は人の都合なんてお構いなしで我が道を行くタイプ。
捕まったが最後、地獄の雑用係が私を待っている!!

彼の事が嫌いって訳ではないけど、私の周りにいないタイプ。
どちらかと言えば苦手の部類に入るのかも知れない。

だって、アラウディ様の前だと異常にドキドキして緊張してしまうから。
だから私はなるべく会わないようにとしてる。

……なのに、何で行く先々で遭遇するの!!



『もう少し柔らかい雰囲気だったら、きっとここまで緊張しないし逃げる事もしないのに…っ』



独り言をしていたら、ふと、にこやかなアラウディ様を想像しまった。

さらさらとした金髪でブルーの瞳、それにプラス、あのスラリとした長身。
にっこりと笑ったら、さぞや王子様、顔負けだろう。

だけど。



『…ありえない、絶対にありえない。ないない!』



一人で想像して笑ってしまった。
アラウディ様はにっこりと笑うよりも微かに笑うくらいが似合うはず。

そういえば、ちゃんと笑った所ってあんまり見たことないなぁ。
哀しいことに馬鹿にするように笑われた事はたくさんあるのに。



「おや、君は……」

『………!!』

「やはり、名前でしたか。買い物ですか。一人など珍しい。」

『スペード様!!』



私に声をかけて来たのは霧の守護者、D・スペード様。
てっきりアラウディ様に見つかってしまったものだと思って心臓が飛び出そうだったよ…!!

ほっとしている私を見てスペード様は首を傾げている。



「どうしました?」

『しーっ!静かにお願いします!』

「……?」



さっきは大声を上げてしまったけれど、小さな声で話しかける。
スペード様にも静かにするようにお願いした。

様子がおかしいと思ったんだろう。
スペード様は私が見ていた方向に視線を移す。



「んー…?おや?あちらにいるのは雲の守護者、アラウディですね、彼がどうかしましたか」

『えーっと、それは…、その…』

「あぁ…、そういえば確か、君はよく彼に面倒ごとに巻き込まれているらしいですね」

『え…?』

「一人を好むと聞いていますが君には構うとは何やら……」

『あ、あの!とにかく静かにしてください、スペード様…っ』

「……」

『スペード様?』



口元に手をやり、何かを考えているスペード様。
アラウディ様の方を一瞬だけ見て、私に視線を戻すと楽しそうに口角を上げて瞳を細めた。



「彼、既にこちらに気付いているようですが」

『えぇ…!?』

「ヌフフ、私はこの辺で失礼しますよ、名前」

『……!!』



私のおでこにそっと唇を寄せたスペード様。
突然のキスに驚いて声も出せない私の頭を一撫でして去って行った。

今のは何だったのかとぼーっと彼の後姿を見つめていると肩を軽く叩かれる。



「……ねぇ、君」

『ひ……っ』



聞き覚えがある低音にビクっと肩を震わせる。
その声は間違いなくアラウディ様のもの。
いつものように睨まれているんだと思うと心臓がバクバク。

振り返るのが怖い。
だけど、いつまでも反応しないと余計に機嫌を悪くさせてしまう気がして思い切って振り返った。



『こ、こんにちは、アラウディ様……』

「……」

『あ…はは、は……その…、私はこの辺で失礼、します…ね?』



後ろを見ると予想通り鋭い瞳で睨まれていた。
これは、ここに長くいない方がいい…!!すっごく不機嫌だよ、アラウディ様!!

一歩下がってダッシュで逃げようとしたけれど片手に掛けられた手錠によって、それは叶わなかった。



『えっ、い、いつの間に!』

「君がへらへら笑っている間にね」

『何で手錠をかけるんですか…!!私、何か悪いことでもしましたかっ!!』

「君が僕を見るなり逃げようとするからだよ」

『う……っ』

「それと」

『……!?』

「こそこそとこちらの様子を窺っていただろう」



ばれてた!!
後ずさりすると背中に壁がぶつかり、これ以上、逃げられない。
と言っても手錠を掛けられているから、元々逃げられないんだけどね…!!

そんな私をアラウディ様は追い詰めるように影で隠した。

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