「……君はいつも僕を見ると逃げようとするね」 『……っ』 「気に入らないな。」 アラウディ様ほど強い人なら気配とか丸分かりに違いない。 今まで深く考えず逃げようとしてたけど、人にジロジロと見られたり逃げられたりしたら、いい気はしないよね…!! 『ご、ごめんなさい…!!』 「ふぅん、随分と素直だね。」 『だって…っ』 いつも逃げようとしてたのは本当だから。 さすがに面と向かってはっきりと言えず、俯いてもう一度、ごめんなさいと呟いた。 気まずいけれど、このままジッとしてる訳にはいかなくて見上げるとアラウディ様は私をじっと見ていた。 『……?』 「ねぇ」 『…何でしょうか』 「さっきの奴」 『さっき……?あ…、スペード様の事ですか?』 「スペード?」 『D・スペード、霧の守護者様です』 「へぇ、噂では聞いていたけど、あいつが…」 『……』 「………」 沈黙が流れたのもつかの間、アラウディ様が私の前髪にそっと触れた。 指に絡めた髪を見てふぅ、と息を吐くと私を自分の方へと引き寄せて頭にキスを落とした。 『……ッ!!』 「何、その顔」 『そっ、それは私のセリフです!いきなり何をするんですか!』 「D・スペードも同じような事をしていただろう」 『だ、だけど…っ』 「僕が似たような事をしたらおかしいかい」 おかしいに決まっている、と声を大にして言いたい。むしろ叫びたいくらいだ。 けれど心臓の音が邪魔をして苦しくて上手く言葉が出てこない。 何も言えないでいるとアラウディ様は手を引き、そのまま歩き出した。 あぁ、もう! どうして、この人はこんなにマイペースなんだろう…!! 『ア、アラウディ様……っ』 「罰として」 『へ…!?な、何の罰ですか…!?』 「いつも僕から逃げるだろう」 『う……』 「それにさっきはジロジロと見てたね」 『……っだから罰として雑用しろと!?』 「へぇ、分かってるじゃない」 『それくらい、いつも捕まったら雑用を任されるんですから分かりますよ!』 「あぁ、そうだね。分からなかったら馬鹿だ。」 『……っというかアラウディ様!』 「何?」 『一人がお好きなんでしょう!?逃げる私をそのまま逃がしてくれても、いいじゃないですか!』 「それは出来ないな。」 『何でですか!』 「逃げられたら意地でも捕まえたくなる。」 『な……っ』 「そう思うのは君だけだけどね」 『う……った、楽しんでますか!?もしかして私の反応を見て!!』 「……」 返事の代わりにふっと笑われた。 何なんですか、その挑発的な笑みは…!! 『…〜…!!』 言い返したいけど言い返したら、彼をもっと楽しませる事になるんだろう。 そう思ったら出かかった言葉をぐっと喉の奥に飲み込み俯いた。 『……っ(我慢だ、我慢!)』 俯くと手の違和感に気がつく。 あぁ!さっきから手錠をかけられたままだ…!! 両手にかけられてないだけマシだけれど手錠をかけられたままアラウディ様について行くなんて、まるで連行されているみたいだ…!! 『あ、あの…!逃げたりするから罰として雑用しろという事は分かりましたよ、アラウディ様!』 「ん…?」 『逃げません!だから手錠を外してください!』 「あぁ、かけたままだったね」 『……っ(忘れられてた!!)』 「………」 『は、外してくださいよ』 「だめ」 『何でですか!罰は雑用で決まったでしょう…!?』 「君には、もう一つの罪があるから」 『えぇっ!?私、他に悪い事してませんよ!?』 「したよ」 『一体、何を…』 「僕に嫉妬させた。」 『……はい?』 「気付いてないとは、もっと罪深いね」 『………』 「まぁ、今日の所はD・スペードが悪ふざけをしたみたいだけどね。今度、しっかり牽制しておく事にするよ。」 『……あ、あの、ア、アラウディ様?』 「何?」 『し、嫉妬って…?』 「……」 いつもと変わらない仏頂面で何を言ってるの、アラウディ様…! 嫉妬したって、まるでアラウディ様が私の事が好きみたいじゃない!? あっ、そういえばさっき頭にキスをされたよ、私! ん?という事は……? 『え…、あ、あれ…!?あの、アラウディ様…』 「行くよ、名前」 『……!!』 ぷいっと前を見てアラウディ様は歩き出す。 私はその手に引かれるまま後を追うことしか出来ない。 『……っ』 「……」 繋がっている手が熱い。 私の熱か、それともアラウディ様の熱か。 全身が心臓になってしまったんじゃないかってくらい鼓動が早い。 アラウディ様の背中を見たら、一際、大きく鼓動が鳴った。 『…ー…っ』 何で私、こんな気持ちになっているんだろう。 苦手なはずなのに 思えばいつも貴方のことばかり考えてドキドキしてた。 end 2010/6/2 唯様へ 三周年フリリク企画 リクエストありがとうございました! お題配布元:確かに恋だった |