今日は十月三十一日、ハロウィン。
子供の頃はお菓子を貰っていたけど大人になった今ではお菓子をあげる側。
お菓子を貰う側でイベントに参加しない。

だけど白蘭、野猿、それにジンジャーはノリノリでTrick or treatと言ってきた。
野猿と一年中ハロウィンっぽい服装のジンジャーはまだ分かるとして白蘭には首を傾げる。



『……』



白蘭達はお菓子をちょうだいと煩く騒いだ。
仕方ないから眠気覚ましに持ち歩いてるミントガムをあげたら辛いと文句を言われ朝からイライラ。

イライラしてる時には甘いもの、とイライラさせた張本人達がお返しと言わんばかりに、お菓子をくれた。
甘いものは好きじゃないから今朝、貰ったお菓子は一つも手をつけず仕事場のチャブダイに置きっぱなし。



『マシュマロにチョコレート…それにジンジャークッキーか』



ジンジャークッキー、ジンジャーは自分の名前とかけてるのかな。

クッキーは食べられなくはないけど問題はマシュマロにチョコ。
ふわりと香る甘い香りにため息。

ビターチョコだったらよかったのに。
ほろ苦いビターチョコは、たまに食べると美味しいと思う。

まぁ、甘党の白蘭がビターチョコなんてお菓子を買う時の選択肢に入れる訳ないか。

それにしてもミルフィオーレって甘党が多いなぁ。
仕事仲間のスパナも今日、何本目かのキャンディを舐めてるしね。



『よくもまぁ、そんなに食べれるわね…』

「……、何…?」

『キャンディ。一日に何本、食べてるの』

「………」



呆れたように言うと、きょとんとしているスパナ。
数秒して意味を理解したらしく、あっけらかんと「糖分は脳にいいだろ」と口をもごもごさせている。

確かに細かい作業に集中するなら甘いものはいいかもしれないけど何事も量って大事だと思う。

そう言っても今更、聞くような人じゃないから私は休憩に緑茶を入れた。

作業が一区切りしたスパナに声をかけると立ち上がって休憩スペースのチャブダイへとやって来た。



『はい、どうぞ』

「……、どうも」

『………』

「……、…ん、うまい」

『そう?』

「あぁ、ウチが入れるのよりずっと香りがいい気がする…」



緑茶を一口飲んで、微笑むスパナ。
確かに緑茶を入れるのも大分、上手くなったなと自分でも思う。

こっそりと緑茶の入れ方の本を見て研究した努力あっての事だけどね。
それはスパナには絶対に内緒。



『……』



甘ったるい匂いのキャンディとかお菓子は好きになれないけど緑茶は好きになった。
それに、スパナのことも。
多分、この気持ちは恋なんだろうな。

普通の仕事仲間ならお茶の入れ方一つに拘ろうとは思わないから。



「…名前」

『んー?』

「その菓子はなんだ?」

『あぁ、これ?ジンジャークッキーにチョコレート。それとマシュマロ……あ、訂正。マシマロね』

「あぁ…、ジンジャーに白蘭からか…」

『うん。チョコは野猿から。ハロウィンだからだって。』

「ハロウィン…」

『小さい時はよく仮装してたけど、さすがに今は行事に参加は出来ないよね』

「なぁ…」

『なに?』

「…ウチのキャンディもいるか?」

『キャンディ?私は別にお菓子が欲しいって訳じゃないよ?』

「……」

『…スパナ?』



ジッと白蘭達から貰ったお菓子を見つめてるスパナ。
キャンディー以外のお菓子がここにあるのは確かに珍しいと言えば珍しいけど、そんなに凝視しなくても。

うーんと何かを考えていたスパナはガサゴソとポケットの中を漁り赤いキャンディを差し出した。



『え……?』

「……ん」

『いやいや。ん、って言われても…』

「白蘭のは受け取ったのにウチのは嫌なのか?」

『そういう訳じゃなくて!というか、言わなかったっけ?』

「……?」

『甘いもの、苦手なんだよね』

「聞いてない」

『そうだったっけ?』

「あぁ…」

『えーっと、そういう訳でキャンディは……』

「……、……」

『それに私、Trick or treatって言ってないじゃない?』

「………」

『……スパナ?』



何、この沈黙。
しかもスパナ、その納得してなさそうな目は何なの…!!
じーっと見つめられたら、さすがの私も照れる。

顔が熱い。
ヤバイ。赤くなってるかもしれない…!!



「……」

『………』



というか、もしかしてTrick or treatって言えって無言で訴えてる?
そしてキャンディを受け取れと?

私がTrick or treatとスパナに言ってキャンディを受け取らない限り沈黙は終わらなさそうだ。

チョコもマシュマロも、それにキャンディも正直、あまり好きじゃない。
だけど貰うだけなら、……まぁ、いいか。



『…ー…ト』

「………」

『Trick or treat…』

「……、…あぁ、やる」

『……ありがと。』



ハロウィンのお決まりのやり取りに呆れつつスパナからキャンディを受け取る。

スパナは満足そうに微笑んで私の頭を撫でた。
まるで子供のような扱い。

だけど私は子供扱いに腹を立てるよりも恥かしさが上回った。
慌てて立ち上がり撫でる手から逃れるとスパナは先程のようにきょとんとした顔で見上げてる。



「……?」

『…お、お茶!もう一杯、入れるよ』

「……、あぁ、頼む」



スパナに背中を向けて、お茶を入れる。

ドキドキと忙しなく脈打つ心臓。
撫でられたくらいで、どうしてこうも動揺するかな、自分…!!
それはきっと他でもないスパナだから、だろうけど。

動揺を気づかれたくなくて、何もなかったようにお喋りをした。

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