最近、ドキドキしちゃって困っちゃう。 原因はあの人。 いつもにこにこ笑ってる白蘭様のせい。 私をからかっては底抜けに明るく笑う。 たまにわざとやっているんじゃ?とさえ思う、その笑顔を見ると、ドキドキしちゃって胸が少し苦しい。 それはきっと、彼に惹かれてるから。 ドキドキして困るのに、結局、あの人と一緒にいると気がつけば私も笑顔になっている。 白蘭様は不思議な人。 「今日のお昼はラーメンにしない?あとギョウザ!この間、行った店、中々美味かったんだ」 『白蘭様、私、今、仕事中です』 「でも、僕も正当な理由でここに来てるんだし世間話くらい、いいでしょ?」 『紙で指を切ったくらいでわざわざここに来る必要があります…!?』 「あるよ、痛いからね」 『……』 私が所属しているのはミルフィオーレの医務室。 いつもいるメンバーは重症な患者が入って付きっ切り。 私は一人で医務室を任されていた。 小さな傷でも心配だし来て欲しい。 だけど「早く治療して?」と笑う白蘭様を見ていると、ただ単に暇つぶしにここに来られているような気がしてならない。 そう思いつつも不謹慎だけど、こうして白蘭様がいつも来てくれるのは嬉しいと思う。 『……消毒しますから座ってください』 「はーい」 はーい、といい返事をしつつ、もう既にちゃっかりと座ってるじゃない。 まるで子供みたいな大人の白蘭様の指を診る。 って、これって本当にたいした事がない。 消毒をして塗り薬、仕上げにバンソーコーを貼って治療完了。 「ありがとう、名前チャン」 『これが仕事ですから』 「でさ、さっきの話だけど」 『あの、白蘭様…』 「なに?」 『いつも医務室に来てますけど、お仕事の方は大丈夫なんですか…?』 「うん、ちゃんとやってるよ、大丈夫」 『この間、来たんですよ、入江様が胃薬が欲しいって…』 「あぁ、そうなの?無理させてるのかなー」 あまりにも顔色が優れなかったから、ここのベッドで休むように言って入江様に眠ってもらった。 入江様、寝言でうなされてたのよね。 サボらないでください、白蘭さん!とか言って、それはもう見てて痛々しいほど眉間に皺を寄せて…! どうせ今日の白蘭様もサボりに違いないと思う。 この後はきっと、入江様がお腹を押さえて医務室に来るんだろうな。 ……胃薬を用意しておこう。 『あまり入江様に迷惑かけないようにしてくださいね?』 「ふふ、もちろん」 『さっ、これで治療は終わりです、白蘭様はお戻りにー…』 「名前ーっ!!」 「ほら、お呼びだよ、君は人気者だね、僕はここで待ってるから行っておいでよ」 『白蘭様の治療は終わったんですよ!?』 「お昼一緒に食べたいなと思ってね、もうすぐ昼休みだからここで待つよ」 『……今回だけですからね?』 「やった!」 お昼を誘ってくれたけど、サボりたい口実じゃないのかな? 既にベッドを占領してる白蘭様にツッコミは出来ずに私を呼んだ声の主の元へと行く。 遅い!とプーッと頬を膨らませているのはブラックスペルの野猿君だった。 『野猿君、今日はどうしたの…って!擦り傷だらけ…!?』 「兄貴達との特訓したんだぜ!全身、痛ぇ…!!」 『それにしては何だか元気そうね?』 「そ、そんな事ねーよ、それより早く治療してくれよ!」 『はいはい、そこに座ってね!まずは消毒しなきゃ』 「名前」 『はい?』 消毒液を用意していると声をかけられた。 振り向けば、そこにはスパナさんが立っていた。 いつもならこんな所に来ないのに、どうしたんだろう? 不思議に思ったけれどスパナさんの姿を見て開いた口が塞がらない。 つなぎはボロボロ、頬や髪が埃やオイルで汚れていた。 『ど、どうしたんですか…っ!?』 「あぁ、少し失敗した…」 『失敗!?スパナさんが!?』 「成功ばかりじゃない。」 『そ、それはそうですけど…!!何でここに…!?もしかして大怪我とか…っ』 「…大丈夫、捻っただけだ。湿布が欲しい。」 『よかった…っ!少し、待っててくださいね!』 「名前!オレの治療はまだなのかよ!!邪魔すんな、スパナ!」 「…野猿か。元気そうだな。」 「げ、元気じゃねーよ!だからここにいるんだ!オイラ、重症なんだぞ!」 「…重症?」 どこがだ?と言わんばかりに野猿君をジッと見つめるスパナさん。 野猿君は負けじと睨み返すけど全然、迫力がない。 「オイラの方が先なんだぞ!」 「ウチは名前に手間をかけさせない。これをやるから我慢してくれ」 「は…っ!?」 騒がしいのが煩わしいのかキャンディを一つ取り出して野猿君の口にグッと押し込んだスパナさん。 いきなりの事だから野猿君、むせてるよ! 『野猿君、大丈夫!?』 「な、何するんだよっ、スパナ!」 「名前、湿布」 『えっ!?あぁ!はい!ま、待っててください!』 「なっ!スパナ、無視すんじゃねー!!」 「無視はしてない。」 「……」 『ほらほら、二人ともあまり騒がないでね?眠ってる人もいるんだから』 「そうだよー、安眠妨害だよ、君達」 「ゲッ、白蘭」 「……」 ベッドカーテンをサッと開く白蘭様。 野猿君は白蘭様をよく思ってないのか、あからさまに嫌な顔。 スパナさんは白蘭様が何故ここにいるのか気にならないらしくリアクションはなかった。 「君達、だめだよ、名前チャンの仕事を増やしちゃ。救急箱なりあるでしょ?」 「う、うるせぇ!オイラ、治療すんの苦手なんだよ!」 「救急箱……どこに吹っ飛んだか分からない」 「吹っ飛んだって、どんな失敗したんだい、スパナ君。仕事は迅速に安全にしないとだめだよ」 って、それは白蘭様が言える事ですか!? 一応、怪我人にこんな事を言ってはいけないけど、この三人の中で一番、軽いじゃないですか!? 野猿君とスパナさんは見た感じ怪我してるのに白蘭さんは健康そのものですよ!? 「それにしても二人とも…」 「な、何だよ…」 「……」 「いや、別に。僕みたいに下心あるんじゃないかなーって思ってただけ」 「し、下心!?」 「……まぁ、ないと言ったら嘘だな」 「なっ!?スパナ、何、言ってんだよ!!」 「救急箱がなかったのは本当だ。だけどウチは名前に会いたかったしな」 『はい…!?』 「少し行き詰ってたから会いたかった」 『えっ、えぇ…っ!?な、何を言ってるんですか!?』 「……?会いたかったと言った」 『そ、そういう事じゃなくて!』 「ん……?」 ス、スパナさんの事だから深い意味はないと思うけど真面目な顔で言われると照れるよ…!! 顔に熱が集中するのが分かる。 きっと赤くなってる。 そんな私を誤魔化してくれるように野猿君はピョンと抱きついて、その場の空気を変えてくれた。 「お、オイラだって名前に会いたかったんだぜ!」 『へ?あぁ…、ふふっ、ありがとう、野猿君!』 「なっ!?スパナの時みてぇに照れねぇのかよ!?」 『え……?』 「野猿君、可愛いなって思ったでしょ、名前チャン」 『えぇ、もちろんです!いつも弟みたいで可愛いなって…』 「弟!?いつもっ!?」 野猿君はガクリと肩を落として、スパナさんと白蘭さんはマイペースを崩さずに会話してる。 私はこうしてゆっくりしてられない! 早く湿布を用意して野猿君の手当てしないと! まずは野猿君。 消毒をしてから目立つ傷を処置。 次はスパナさん。 腕と足に湿布を貼る。 頬に傷があったからバンソーコーを貼った。 |