『はい、これで二人とも終わりです!この後の仕事も頑張って下さいね!』

「えー!!もう終わりかよっ」

「……早いな」

「はいはい、おしまいだってさ。邪魔者は仕事に戻りなよ」

「…あんたは?」

「そうだぜ!白蘭だってサボってんだろ!?さっき入江正一が探してたの、オイラ、知ってんだぞ!」

『えっ!?』

「あ…」

『白蘭さん、やっぱりサボってたんですね…』

「お願い、名前チャン、匿ってよ」



ベッドに戻ってカーテンをサッと閉める白蘭様。

あぁ、もう!子供じゃないんだから!
私もスパナさんも野猿君も呆れて白蘭様を見つめるけれど、物音一つさせない。

…そんなにサボりたい程、仕事があるのかな?

そう考えたら、一つの疑問が浮かんだ。



『白蘭様、もしかしてサボってるからどんどん仕事が増えてるんじゃ…』

「大丈夫。やる事をやっていれば幸せになれるよ」

『やる事をやってないじゃないですか…っ!!』

「ふふっ、だって資料はもう一通り目を通したよ」

『けど…っ』

「細かい所は正チャンに全部、任せるよ」

『……』



あっ、今、少し胃がキリッと痛んだ……!!
入江様もこのパターンで頭を悩ませてるに違いない。
そして積もりに積もったストレスが胃にきちゃうんだ。

生活も不規則が重なってるらしいし余計に心配になる。
そのうち入院しちゃうかも…、早めに検査入院を勧めた方がいいかもしれない。



『とりあえず、入江様をお呼びしますね』

「それだけは勘弁してよ、名前チャン」

「名前!オイラ、呼んで来てやる!」

「こらこら、だめだよ、野猿君」



野猿君ならすぐに見つけて連れて来てくれそう。
白蘭様に舌をべーっと出して野猿君は背中を向ける。
駆け出そうした足はある人物により止まってしまった。



「ゲッ、γの兄貴!?」

「野猿、特訓に付き合ってくれって言うから付き合ったが、掠り傷でいなくなるとはどういうつもりだ?」

「う……っ」

「ほぅ…、治療してもらう、そう言ってたが…お目当ては、このお嬢ちゃんか」

「あー!な、何でもねぇんだよ、兄貴!もう治った!オイラ、元気だぜ!」

「…なら、もう一度、特訓するか」

「え……っ!?」

「野猿君、残念だねー、ばいばい」

「ち、ちくしょー!!見つけたらぜってー言ってやるからな!」

「世話になったな」

『い、いえ!お大事になさってください!』

「オレもあんたなら医務室に世話になるかな」

『医務室にお世話になっちゃだめですよ、γ様』

「だな。野猿にもしっかりそう教育しとくぜ」

「そ、そんなぁ〜…」



ずるずると引っ張られて野猿君はγ様ともう一度、特訓へと向かった。
野猿君が入江様を探しに行ってくれると思っていたから安心したけど、野猿君は特訓でそれ所じゃない。

これは私が入江様を探して言った方が早いよね?
だけど、私が入江様を探す間に逃げられそうな気がするから医務室を離れる事を躊躇ってしまう。

どうしようと考えていると医務室の前の廊下で入江様の姿を発見した。
私の視線に気づいてくれたようで早足でこちらに来てくれた。



『入江様!丁度よかったです!お話がー…』

「スパナ!君、ここにいたのか!」

「……正一、どうした?」

「どうした?じゃないよ!君の研究室が何であんなに大破しているんだ!」

「モスカが暴走した」

「なっ…!?大丈夫だったのか!?」

「あぁ、ウチは軽く捻っただけ。壁に激突しても中の安全性は保障する」

『ちょっ、スパナさん!激突ってそんな…!大丈夫なんですか!?』

「あぁ、アンタに診てもらえば大丈夫だ」

「話してないで行こう、スパナ。資料や機材を瓦礫の中から探さないと。他の連中に触れて欲しくない」

『あ、あの!入江様!』

「名前さん、ごめん。今はゆっくりしてられないんだ」

『でも、今、そこに…っ』

「……正一、聞いてくれ」

「ゆっくりしてる暇はないよ。スパナの研究室の事もあるし、あと白蘭さん……まったく、あの人はすぐにいなくなるから困るよ…!!」

『……』

「………」



今の入江様は余裕がないようで私達の話に耳を傾けてくれてない。

野猿君と同様、半ば強引に連れて行かれたスパナさん。
入江様達が医務室を出れば、再びベッドカーテンの向こうから声が聞こえた。



「あれは正チャンの悪い癖だねー。人の話はちゃんと聞かないとだめだよ」

『白蘭様!こんな所にいないで早く部屋に戻ってあげてください!』

「やだ。名前チャンと一緒にいたいんだもん」

『か、からかわないでください…っ!』

「からかってないよ」

『…〜…だ、大体、何でこんな時でもニコニコしてるんですか…っ!!少しは入江様の負担を考えてください!』

『こうして笑ってられるのは君と一緒にいるからだよ?」

『な…っ!?』

「あれ?やっぱり僕を焦らしてた訳じゃなさそうだね…」

『じ、焦らす…?』

「そう。いつまで経っても振り向いてくれないのは伝わってなかったんだね」

『え……』

「……名前、僕は君が好きだよ」

『…ー…っ!?』

「ねぇ、僕の秘書になってよ。そうしたら仕事も頑張っちゃうから」

『な……っ』



これ、上司命令だから。
そう言って微笑んだ白蘭様はずるい。

そんな笑顔で言われたら断れないじゃないですか!



「顔、真っ赤。可愛いね、名前」

『だっ、だから…っ!からかわないでください…っ』

「顔、隠さないでよ。それに、さっきも言ったけど君をからかってない」



立ち上がりコツコツと歩み寄って赤くなってるであろう頬に白蘭様が触れる。
触れる手に逃げないからか、白蘭様は私をぎゅっと抱き締めた。



「捕まえた」

『……っ』

「今、逃げないならもう離してあげないよ」

『びゃ、白蘭様……』

「白蘭でいいよ、名前…」

『で、でも…っ』

「白蘭。…呼んで?」

『…っびゃ、白蘭』

「……」

『……さん』

「えー、さん付け?」

『う…、す、すみません…』

「まぁ、今はそれでいっか。時間はたっぷりあるしね。」

『白蘭さん…』



二人きりの医務室。
好きだよともう一度、囁かれると、また顔が熱くなってドキドキする。
真っ赤な顔を隠したくて、白蘭様の胸元に顔を埋めた。



『…ー…っ』

「ふふっ、これが答えでいいのかな…」

「白蘭さん!!」

「……あ」

『……っ!?』



白蘭様を呼ぶ大声。
それは先ほど出て行ったはずの入江様だった。



「空気を読もうよ、正チャン」

「白蘭さん!人に仕事を押し付けて、自分はこんな所で女性を口説いて不謹慎です…!!」

「うちは恋愛禁止じゃないからね」

「そういう事を言ってるんじゃありません!仕事に戻りますよ!」

「えーっ」

「スパナも名前さんもどうしてさっき、ここに来た時に言ってくれなかったんだ、まったく!」

「それは正チャンが人の話を聞かないからいけないんだよ。ね、名前」

「……っ!!」

『あの、入江様…っ』

「午後から仕事に戻るよ。昼飯を食べてくる。休みはとらないとね」

「貴方は休んでばかりじゃないですか!」

「だって、もう本当に昼休みの時間じゃん」

「な……!?」

「ほら、行こう、名前」

『えぇ!?私もですか!?』

「当たり前でしょ。さっき昼飯の約束したし」

『えっ!?や、約束なんてしました!?』

「したした。やだなぁ、忙しいからって僕との約束を忘れちゃだめだよ」

『……!?』

「ちょっ、白蘭さん…!!」



入江様の声を聞かないで私の手を引いて逃げるように医務室を出る。
後ろを見れば青い顔で胃を押さえ廊下に座り込む入江様が見えた。



『あ、あの!白蘭さん!入江様が…っ』

「正チャンなら大丈夫だよ」

『でも…っ』

「いいから、いいから!」



本当に大丈夫なのかな?
心配だけど白蘭さんはすごく機嫌が良さそうに微笑んでいた。

繋がっている手がどきどきする。
名前と呼んでくれることが嬉しい。

白蘭さんを見ていると私も自然と笑顔になっちゃう。



大好きな人の笑顔はどんな薬よりも元気にしてくれる。












毎日、笑顔になれたらいいな!



end



2008/08/28
フリリク企画 のぞみ様へ!

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