学校を卒業して、就職。 私は某会社の社長秘書となった。 順調に社会人への第一歩を踏み出したはずだったんだけど、この会社に就職したのは明らかに人生最大のミスじゃないだろうか。 『白蘭様、今日の予定はまず…』 「様付けなんてしなくていいよ。それより今日はのんびりしようよ」 『仕事してください』 「えー、こんなにいい天気なのにもったいないじゃん」 『……』 私が就職したのは「やることをちゃんとやれば幸せになれる」というミルフィオーレ株式会社。 あとから聞いたんだけど、それは表向きで実はマフィアらしい。 マフィアって何なの!? 就職活動している学生を甘い言葉で騙してるでしょう…!! ちなみに私もマフィアとは知らず騙され入社した一人だ。 だって、会社は綺麗でお給料もいいし待遇がいいんだもの! 実際に入社したら仕事はかなり楽だった。 白蘭様の相手をしていればいいだけ。 白蘭様の相手をするのは疲れるけれど、仕事らしい仕事ではない。 いくら何でも、これでお給料を貰うのは気が引ける。 『……はぁ』 社長でありマフィアのボスである白蘭様。 白蘭様はのんびりしていたと思えば書類を見ながらお気に入りのマシュマロを食べる。 飽きたらトランプしよーゲームしよー、昼飯食いに行こーとか、とにかく煩い。 というか、うざい。 …と、いけない。 仮にも上司にこんな事を思ってはいけないわよね。 私も自分の仕事をしなければ! 『白蘭様、レオさんが必要な書類を取りに来ましたよ』 「あっ、レオ君!丁度、いい所に来たね!三人で遊ぼうよ」 「白蘭様、自分は書類を取りに来たのですが…」 「それとも何か食いに行く?すぐそこに出来た新しい中華店、評判いいんだよ。デザートの杏仁豆腐が美味しいんだって」 『白蘭様、レオさんの話を聞きましょうよ』 「まだ昼前だしそんなに混んでないしさー、三人で今のうちにー」 『白蘭様!!』 「ん?何?名前チャン、呼んだ?」 『さっきから呼んでます!仕事してください!!』 「やだ」 『子供ですか!』 「子供だよ」 『大人でしょう…!!』 「えー」 うざい! この人、うざい…!! 心の中とはいえ上司にこんな事を思ってはいけないと思いつつも「うざい」の三文字が浮かんでくる。 「ねー、行こうよー」 『……』 「いいでしょ?ねっ?」 もちろん僕の奢りだから、とにっこりと微笑まれたら私はもう何も言えない。 このパターン、前にもあったなぁ。 『負けました…』 「勝った!それじゃさっそく行こう、ほら、レオ君も書類は後にしなよ」 「え…、じ、自分も一緒に行くのですか?」 「当たり前じゃん」 「そ、そんな…恐れ多いですよ」 「気にしないでいいよ」 「ですが……」 『……』 私に助けを求めるようにちらっと見るレオさん。 いやいや、そんな顔をして見つめられても私に決定権はないんです。 「…わ、分かりました。ご一緒させて頂きます」 「やった」 『……はぁ』 レオさんも白蘭様のお願いに負け一緒に会社を出る。 白蘭様はものすごく上機嫌で前を歩いてる。 私とレオさんは白蘭様の後をトボトボとついて行く。 今朝は慌しく朝食をしなかったから少し早めのお昼ご飯は嬉しい。 だけど白蘭様をサボらせてしまったため、自己嫌悪。 『レオさん…』 「何ですか、名前さん」 『……レオさんは、ミルフィオーレに就職してミスったとか思ってないですか?』 「え…?いえ、自分は元々……」 『元々マフィア志望!?』 えぇっ、うっかり入っちゃったのって、もしかして私だけ!? レオさん、素朴な顔して実はマフィア!? そりゃ、ここにいる時点でマフィア関係者だけど…!! 「いいえ、そういう訳ではないですよ、マフィアと一括りにされるのは死んでもごめんです」 『え……?』 「僕には少々、やるべき事がありましてね…」 『……?』 「クフフ…」 急に雰囲気が変わったレオさん。 クフフなんて、そんな変な笑い方してたっけ? びっくりして見つめていたら再び妖しく微笑む。 「転職を考えているのであれば、ご紹介しますよ」 『レオ、さん……?』 「……」 な、何!?いつものレオさんじゃないような…!? レオさんは続きを話そうとしたけれど遠くで呼ぶ白蘭様の声で遮られた。 名前チャンもレオ君も早くおいでよー、と店先でひらひらと手を振っている。 「……クフフ、まったくいい所でしたのに」 『……?』 「……さぁ、行きましょうか」 『あっ、ちょっ……!!』 レオさんは私の手を取ると小走りで白蘭さんの所へ向かう。 こんなに強引な人だったっけ!? 何だか、いつものレオさんじゃないみたい。 やっぱりマフィアって変わってる人、多いのかな…? 「うわー、二人とも手を繋いじゃって何でそんな仲良しなの?」 『え、あの…っ』 仲間ハズレ嫌だなーと白蘭様は私の肩を抱いて引き寄せる。 前からスキンシップが多くて妙に馴れ馴れしい白蘭様だったけど肩を抱かれるのは初めて。 びっくりして離れると拗ねたように私を見つめる。 「レオ君はよくて僕はだめ?」 『立場を弁えてください!こんなのだめです!』 「社長と秘書の恋って王道だよね、ねぇ、レオ君」 「社長と秘書と言えば不倫関係だと思いますけど……名前さんが困ってますよ、白蘭様」 「あれー?何か妙にひっかかるなー、まさかレオ君、名前チャン狙い?」 「……」 バチバチと聞こえる二人の睨み合い。 私は居心地が悪くなって二人の間に割り込んで話しかけた。 『睨み合ってないで中に入りましょ!ね?』 「……」 「………」 『お、お腹空いちゃったなーなんて。ね?早く食べて早く帰りましょう!』 火花を散らす二人の背中を押して店に入る。 店内は綺麗な装飾がされていて鮮やか、評判のお店らしいけどお昼前だからかあまり人はいなかった。 それぞれラーメンとギョウザ、それとデザートに杏仁豆腐を注文。 正直、ゆっくり味わいたいけど二人が気になってしまい、それ所じゃなかった。 |