ヴァリアーメンバーで並盛にやって来て数日、オレはボスの使いで食材の買出しに来ていた。
日が昇らねぇうちに滞在している屋敷を出たから、さすがに欠伸が出てしまう。

文句を一つも言わせないためには徹底的に準備しねぇとなぁ…。
あんのクソボス、昨晩は人がせっかくいい肉を用意したっつーのに気に入らねぇときたもんだ。
今日、仕入れたもんなら文句は言わねぇだろぉ。

…いや、あのクソボスの事だ。
何か一つは言うだろうなぁ。

念のため、牛だけじゃなく他の肉も用意しておくべきか。



『わ…っ』

「あ゛ぁ?」

『…ー…っ!!』



クソボスの事を考えると軽く頭痛がする。
仕方ないがもう一度、街へと食材を探しに行こうと振り返るとガキにぶつかってしまった。
オレは何ともなかったがガキの方は尻餅をついてしまったようで地面に座り込んだ状態になっている。



『いたた……』

「う゛ぉ゛ぉい、大丈夫かぁ?」

『……っ!?』



声をかけると大げさに震えてオレを見上げる。
山本武と同じくらいの年齢か、よく見ると並盛の制服を着ている。
どうやら並盛中の生徒らしい。

いつまでも立ち上がらずにいるから腕を掴んで立たせると微かに眉をしかめた。



「おい。」

『は、はい!?』

「足でもくじいたかぁ?それともどこか怪我でもしやがったか。」

『あ…っ、い、いえ!大丈夫です!その…ぶつかってごめんなさい!』



慌てて深く頭を下げて、こちらの様子を不安そうに見つめている。
大丈夫と言っても全然、大丈夫そうには見えねぇ。

若干、面倒に感じたが、このまま帰らせるのは後味が悪く感じてぶっきらぼうに腕を掴んだ。



「来い。」

『なっ、なんですか…っ!?』

「いいからさっさと来いっつてんだぁ…」

『は、はい…っ』



すぐ近くにあった公園、そこのベンチに座らせて待つように言う。
タオルを水で濡らし戻ると礼儀正しく座っている。
オレが怖いようで緊張でカチカチに固まっているようだった。



「う゛ぉ゛ぉい!」

『……!!』

「……、悪かったなぁ、これを使え」

『………え?』

「痛む所を冷やせって言ってんだぁ」

『あ……ありがとう、ございます…』



恐る恐るタオルを受け取って足に当てた。
オレも隣に座ると沈黙が流れる。
伝わる緊張が心地が悪くオレは口を開いた。



「そんなにビクつく事ねぇ…楽にしてろ」

『は、はい……』

「………」



声をかけたのは間違いだったか、余計に緊張させてしまったみたいだった。
どうにも慣れない空気にため息をついて足を組み直す。

ふと隣を見ると何がそんなに珍しいのか、こちらの様子を窺っている。
このガキは見ている事をオレに気付かれてねぇと思っているんだろう。
だが、この視線なら裏の人間でもなくとも分かる。



「何だぁ?」

『…っす、すみません』

「いちいち謝る必要はねぇ。言いてぇ事があるなら言え」

『あ……その、…外国の方、ですか?日本語、ペラペラですごいです…』

「まぁな。てめぇは…」

『私、名前っていいます』

「名前、か。オレはスペルビ・スクアーロだぁ…。」

『スクアーロさん…?』

「あぁ」

『えっと……タオル、ありがとうございました。』

「ぶつかったのはオレの方だぁ。気にするんじゃねぇ…」

『優しいんですね、スクアーロさん』

「あ゛ぁ゛…っ!?」

『……っご、ごめんなさい!』



オレの機嫌を損ねたのかと勘違いして慌てて俯く名前。
しゅんとしている様子が不覚にも可愛いと思ってしまった。

って、何でこんなガキにドキッとしてやがるんだ、オレは!!



『あの、スクアーロさん……ごめんなさい』

「……いや、怒ってんじゃ、ねぇ」

『………?』

「…これは性分っつーか。」

『……』



何て言えばいいのか、何を言いてぇのか分からねぇ。
ただ、隣にいる名前を怖がらせたくなくてオレは今までになく声が小さくなっている。

明日はもう会わねぇ人間に気を遣う必要がどこにあるんだ。らしくねぇ。
息苦しさから空気を意識して吸えば隣からはくすくすと笑い声が聞こえた。



「……!!う゛ぉ゛ぉい!!何で笑ってやがるんだぁ…!!」

『へっ!?あ…っ、す、すみませんっ、ごめんなさい…っ』

「だから謝らなくていいっつってんのが分かんねぇのかぁ…!!」

『すみません……、って!あぁっ!また謝っちゃった…』

「……」

『……ス、スクアーロさん』

「なんだぁ?」

『え、えっと…』

「……?」

『…やっぱり優しい人ですね、スクアーロさんって!』

「さっきまで怖がってただろうが…」

『すみません…っ!!だって最初、ここに連れて来られた時、"ぶつかって骨が折れただろうが!"的に多額請求されるのかと…!!』

「ベタなドラマを見すぎだろぉ…」

『ですよね!だから、スクアーロさんが優しい人でよかったです!』

「てめぇはもう少し危機感を持っておいた方がいいぞぉ…」

『危機感?』

「分からねぇならいい。…いや、よくねぇな。」

『変なスクアーロさん』

「変なのはてめぇの方だぁ」

『え?』



きょとんとしている名前。
幼い故なのか性格なのか先程から表情がくるくると変わって見ていて面白い。
思わず笑うと意味が分かってないようで、ぽかんとしてオレを見つめた。

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