誰よ、肝試しを提案した奴は!

そりゃあ、せっかくの夏休みだもん。
私だって何か夏らしいことをしたいとは言ったよ?

だけど、夏らしいことなんて他にも色々あるでしょ!
海や川、山、お祭りに行くとか、花火をするとか!

何でよりによって肝試しなのーっ!!



『……っ』



夏休みのある日。
友達と遊んでいたら、ある噂の話題になった。

噂というのは廃墟の黒曜センターに人影や声、謎の光が浮遊するというもの。

妙に盛り上がって真相を確かめるべく夕方から黒曜センターで肝試しをすることになってしまった。

皆は怖がることなく興味津々に黒曜センターの中に入っていったけど、私は怖くて入り口付近で待つことにして大失敗。

こんな廃墟に一人でいるなんて怖すぎる……!!



『……はぁ』



大体、真相なんて確かめなくていいよ!

幽霊さん達が夏だ!やっほー!って、はしゃいでるって事にしておけばいいと思うなぁ…!!

わざわざ確かめに行くことない!うん!



『うぅー…』



もう、やだ帰りたい!
怖いし、むし暑いし、いい事がない!

友達に連絡を入れて、今すぐ黒曜センターから立ち去りたい。

でも、携帯を見たら何てことでしょう。

ここ、圏外なんです。



『………ふふ』



あぁぁ!何で圏外なの、黒曜センター!
恐怖と焦りからか乾いた笑いが止まらないよ!

どこかしら電波が入らないか出来るだけ高いところに向けたりするけれど、やっぱり圏外の二文字は消えてくれない。



『何でっ!?どうして!?』

「おや…、君は…」

『…ー…っひ』



後ろから聞こえた低く妖しい男の声に心臓がドクンと鳴って身体に寒気が走る。

反射的に叫ぼうとしたら、手で口を塞がれ息も心臓も止まりそうなくらい怖い。

いつの間に背後にいたのっ!?

で、でも、手って事は人間だよね…?

ちゃんと温かい。
幽霊ではない、よね…?



『……っ』



だけど、安心は出来ない。

ここは廃墟。
人気がない場所に男と女、二人きり。

これはこれで乙女のピンチなんじゃないのっ!?

ヤバいと思って、じたばたと暴れると口を塞ぐ男が落ち着いた声で話かけてきた。



「何もしませんよ、苗字名前さん」

『…ー…っ!?』



何で私を知ってるの!?

驚いて暴れることを止めたら、男は口を塞ぐ手を離してくれた。

私は手の主を見るため、ゆっくりと後ろを向く。



『あ……』

「クフフ、こんにちは、苗字さん。お久しぶりです。」



振り向くと、そこには元クラスメイトの六道骸が立っていた。
あまりの驚きで声が裏返ってしまう。



『ろ、ろく…っ』

「……?」

『ど……っ!?』



黒曜中トップの不良が何故、ここにっ!?

というか六道骸って、確か退学したんじゃなかったっけ!?

噂では刑務所に入った、並盛の雲雀恭弥に咬み殺されたってとんでもない噂が飛び交っていたのに、何で私の目の前にいるのっ!



「おやおや、大口を開けてどうしたのです?」

『だ、だって退学したんじゃ…っ』

「少々、休学していただけですよ」

『そ、そうだった、んだ……』

「そんなに怯えなくともいいでしょう、少し落ち着きなさい」



やはり面白い方ですねぇ、と特徴的な笑みを向けられ、私は今までの行動が恥ずかしくなり小さくなってしまう。



「…で、何故、一人でこんな場所に?」

『あ…、皆が肝試ししようって言う、から…』

「おやおや、余計な者までいるのですか。」

『……?』

「クフフ、丁度、力を持て余していたところ……、肝試しとやらに協力しましょうか」

『え……?』

「侵入者にはお仕置きです。苗字さん、君は僕と共に来なさい。」

『えっ、ちょっと、六道君……っ』



六道君は私を逃がさないように手を引いて歩きだす。

出ると噂の廃墟の奥に進んで大丈夫なのっ!?

幽霊さんが遊ぼうぜーっ憑いてやるぜーって出てきたらどうするの!



『……っ』



そんな私の考えなど六道君は知るはずもなくどんどん、奥に進んで行った。

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