荒れた廊下を歩き階段を上がる。
六道君は私の手を引いてどんどんどんどん奥に進んで行く。

不安になって繋いだ手を強く握り、六道君を見上げると私の視線に気づき、こちらを見てくれた。



『ろ、六道君…、その…』

「怖がらないで下さい。」

『……っ!』



見透かされてた!
幽霊が怖い、だなんて子供じゃあるまいし笑われないかなっ!?

そうは思っていても誤魔化すことは出来ず、繋いでいた手に力を入れてしまうと六道君は少し悲しそうに笑った。

あ、あれ?
何で、そんな顔するの…?



「怯えることないですよ、君には何もしません」

『え……』

「少し話をしたいだけです」

『お、話……?』

「えぇ、だめ……ですか?」

『………』

「君のこと、よく教室で見ていたんですよ。本当に楽しそうに笑う者だな、と…」



な、何なの、この会話!

私は今までの六道君の言動を思い出すと嫌な予感がして冷や汗が止まらない。

もしかして、六道君って……



『……ゆ』

「はい…?」

『幽、霊さん……?』

「は……?」

『……っ』



ごくりと息を飲んで、声を振り絞って言ったら六道君は目を見開いて驚いている。

そして、何を思ったのか彼は自分の背後を確認。

背後を確認した後、長考しても六道君は答えが見つからなかったらしく私に質問した。



「…幽霊とは一体、何の話でしょうか?」

『え…、だ、だから、六道君……』

「僕が幽霊?何故?」

『な、何故って…だ、だって……っ!!』

「だって?何です…?」

『怖がらないでくださいって言った後、悲しそうな顔するし、さっきはいきなり背後にいたでしょ!?肝試しに協力しようとか言ってたし!』

「……」

『あっ、そうだ!休学してたって言うけど実は並盛の雲雀恭弥に咬み殺されてて、成仏が出来ないとか…っ!!』

「………」

『それで夜な夜な黒曜センターに出るようになって……という事は噂の幽霊さんの正体は六道君!?』

「……」

『あ…!!そうだ!お、お話!お話したら成仏、出来るのっ!?生前、友達が欲しかったとか…!?』

「…ー…っ」

『ど、どうしたのっ!?』

「…ー…っク、ハ」

『……九×八?七十二だよ、六道君っ!!』

「クフフ…ッ、ハハ……ッ」

『え……』



私は混乱しながらも真剣に話してるっていうのに六道君は大爆笑している。

その様子を見ると全部、私の勘違いらしい。

穴があったら入りたい、というよりも今すぐに穴を掘って入りたいくらい恥ずかしい。



『……』

「クフフ…!」



それにしても、こんなに笑う六道君を初めて見た。

そうやって笑っていると、やっぱり普通の男の子と変わりないなぁ。

休学前はいつも人を寄せつけない感じだったのに。



『……六道君、何だか雰囲気が変わったね』

「ク……ッ、今、話さないでください…っ」

『変なことは何も言ってないじゃない!』

「だめです、今は君の声だけで笑ってしまいそうです…!」

『ちょっ、失礼じゃないかなっ!?』

「ク……!!本当にこれ以上、笑わせないでくださいよ」

『……大体、六道君が勘違いさせるから悪い』

「クフフ、おやおや、勘違いではないですよ?」

『へ……』



そう言うと六道君は真面目な表情で妖しく口角を上げて私を見つめる。

目を細めてクフフと笑われたら背筋に寒気が走った。



『……っ成仏してください!』

「クハハ…!苗字さんは単純ですねぇ…!」

『からかわないで……ッ、というか六道君は私が何で怖がってると思ってたのっ!?』

「僕、これでも一応、黒曜中のトップでしょう?普通ならば怖がると思いまして…」

『あぁ、そっちか…』

「クフフ、なのにまさか僕を幽霊と勘違いしていただなんて…」

『ち、違うから!最初は黒曜センターに幽霊が出るっていうから、ズカズカと中に入っていいのかなって思って…っ』

「おや?そんな噂があったのですか?」

『知らなかったの?』

「えぇ。ですが、随分とここにいますが出ませんよ」

『……六道君、やっぱり自覚がないだけで黒曜センターの地縛霊さん?』

「…まったく君は」

『……?』

「こうすれば信じて頂けますか?」

『……っ!』



ため息を吐いた六道君は私を引き寄せると胸元に押し付けた。

抱きしめられた状態になり少し速い六道君の心音が耳に届くと同時に私の心臓が騒がしくなった。



『な、なな…っ、ろ、ろく…っ』

「ちゃんと生きているでしょう?」

『わっ、分か…っ』



分かったから!と言いたいけれど言葉に出来なくて六道君の胸元に手を置いて無理矢理、距離を作った。

真っ赤になった顔を見せたくなくて背中を向けて深呼吸。

だけど、全然、熱が下がってくれない。



『…ー…はぁ』



必死に呼吸していると後ろから六道君の落ち着いた声が聞こえて控えめに視線を移した。



「…黒曜センターは訳あってアジトにしているんですよ」

『ア、アジト…?』

「まぁ、そこは気にしなくていいです。さぁ、僕が使っている部屋に行きますよ」

『え……っ』



そう言って歩き出した六道君の横顔は機嫌がよさそう。

不思議に思いながらも一人でいたくなくて私は彼について行った。

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