幼馴染の凪。
猫を助けようとして交通事故を起こし病院に運ばれた。
そしてその後、行方不明になった。

突如、姿を消した凪。
探そうともしない凪の両親は形だけ心配をしているようにしか見えなかった。

動ける身体じゃない重症のはずなのに、どこへ行ったの?

私は凪を探した。
だけど、どこに探しに行けばいいのか分からなかった。

学校も公園も凪の家も、全部、彼女にとって大切な場所ではなかったから。

ただただ凪の帰りを待つ事しか出来ない私も結局はあの人達と同じなんじゃないかと思う。

何も出来ない自分に苛々して泣きじゃくった。



『……』



私の腕の中には一匹の猫がいる。
凪が助けた猫は私が飼うことにしたの。

いつもいるはずの凪はもういない。
いないから、猫の命が助かった。

だから、大切にしようと私は猫を抱きしめた。



『………』



寂しくて胸にぽっかりと穴が開いてしまい私は学校以外の時間は猫と過ごす日々が続いていた。

この猫と一緒に待っていれば、いつか凪が帰って来るんじゃないかと思っていたから。



『……』



そんなある日、あの子が目の前に現れたの。

髑髏の眼帯をしている黒曜中の女の子。

髪が短く大きな瞳と小柄な身体で、その声は忘れるはずがない凪のもの。

"信じられない出来事"を聞かされたけれど凪の言葉ならすんなりと受け入れられた。

だって、彼女が今ここにいるのが何よりの証拠だから。

そして、その日から私はこの黒曜ヘルシーセンターに足を運ぶようになった。



『凪ー!あ、違った。えっと、クローム!これ、お土産!』

「名前、ありがと…、麦チョコにケーキ…?」

『好きでしょ?』

「うん…、大好き…。」

『それじゃ、おやつにしよっ!』



きょろきょろと見渡すと、もっさりした帽子にツンツンの金髪が見える。

金髪の方は私が来たことに気づいたようでちらりと見たけれど、すぐにツーンとそっぽを向いた。

いつもと変わらない素っ気ない態度に苦笑いをして明るく声をかける。



『ねぇ、千種君も犬君もケーキ、食べない?』

「………」

「んなもん、いらねぇよ!!…って、柿ピー、どこ行くんだよ!!」

「手伝う…」

『あっ、ありがとう!』

「って、食う気かよ…」

「……」



お茶の準備をしていると、千種君は大きな身体を起こして手伝いに来てくれた。

二人の性格は段々、分かってきた。
千種君はめんどいと言いつつも、ちゃんと優しい。
犬君はぶっきらぼうでクロームに対しても素っ気無いけれど不器用に優しい。

クロームが言う例の"骸様"は会ったことがないから良く分からない。

ただ一つ分かるのは、クロームの変な髪形は"骸様"意識という事だ。

あぁ、もう!あんなサラサラで綺麗な髪だったのに…!!



『犬君、ここに置いておくから気が向いたら食べてね?』

「いらねーびょん、んなの」

『まぁまぁ、いいじゃない。』

「……」

『残してもいいからさ』



あからさまに嫌な顔して近寄って来ないけど、最近は私が帰る頃にはちゃんと食べてくれるんだよね。

名前は犬だけど、何だか野良猫に餌付けしている感覚になっちゃう。



「おいしい…」

『並盛一のケーキ屋さんだからね!あ!千種君はどう?口に合う?』

「ん……」

『よかった!』



千種君はボーっとしながら小さく頷く。
口に合ったようで安心していると後ろでは「甘っ」と犬君の文句が聞こえた。

多分、こちらにも聞こえるように、わざと大きな声で文句を言ったんだと思う。

もう!小学生じゃないんだから!

でも、食べてくれているなら距離が縮まったような気がして嬉しくなった。

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