黒曜第一中学校。
今度、私が転入する学校だ。

今日は黒曜第一中にお母さんと一緒に見学に来た。

お母さんが先生達と話している間、私は校内探索をすることにしたのはいいんだけど。



『……』



放課後だから人がいないなぁ。
もう少し賑やかな校内を見たかったよ。

そう思いつつも私は足を止めずに校内を歩いた。

私の学年である一年の教室はどこだろう?

当てもなく廊下を歩いていると扉が開いた教室があった。

教室なんてどこの学校も変わらないと思うけど、好奇心から中に入ってみると夕日に染まる教室に一人の青年が立っている。



『あ……』

「……、…?」



気配に気付いてこちらをゆっくりと見た青年。
整った綺麗な顔、サラサラとした髪が風に揺れている。
透き通るような赤と青の瞳に見つめられドキッと胸が高鳴った。



『…ー…っ』



時が止まるような感覚。

これはもしかして一目惚れ?
いやいや、一目惚れなんてあるはずないでしょ!?漫画じゃないんだから!

そう思っても目の前の彼から目を逸らす事は出来なくてキラキラして見える始末。

あぁぁ!もう!ドキドキして言葉が出てこない…!!



『……ッ』



静まり返る教室。
何も言わず立っているだけじゃ変に思われてしまっているかも。

思い切って何か声をかけてみようかな?
でも、何て声をかければいいんだろう…!!

うんうんと考え込んでいると彼は微かに足音をたてて、こちらに歩いて来た。



『……あ』

「………」

『…ー…っ』



あの!
勇気を振り絞って声をかけたもののスッと横切られ彼は振り向くことなく廊下を歩いて行ってしまった。

誰もいなくなった教室には、ぽつんと一人寂しく残された私の間抜けな声が響く。



『………へ?』



えぇぇ!ちょっ、無視!?無視ですかぁぁぁ!!

虚しい!虚しすぎる…!!

急いで廊下に出て彼の姿を探すと、どこにもいない。

代わりに遠くにお母さんが見えた。
どうやら説明が終わったみたいで私を探していたらしい。



『……』



名前はなんだろう?
どんな声で、どんな話し方をするの?
今度、会えたら、ちゃんと話をしてみたいな。

また会えるかな?

お母さんとの帰り道に、あの青年の事ばかり考えていた。



『………』



どうやら私は、何にも知らない彼に恋をしてしまったみたい。









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