親の仕事の関係で予定通りに黒曜へと越してきた。 引越しも無事に終わって今日から黒曜中へと通う。 新しい制服を着て鏡の前でチェック。 見慣れない自分の姿が少し気恥ずかしくて、むずむずする。 『…今日から黒曜中の生徒、か』 ここ最近はあの青年の事ばかり考えてた。 そして黒曜中に転入する今日をどんなに心待ちにしていたか! 先日は慌しくて出会った教室がどこだったか確認するのを忘れてしまい手がかりはただ一つ、同じ学校という事だけ。 同じクラスだったらいいなぁ。 だけど、どう見ても同級生ではなさそうな気がする。 大人っぽかったから二年、ううん、やっぱり三年の先輩だろうな。 会えたらいいな、と思ったらうきうきする。 新しい学校で友達が出来るかな、なんて不安もあるのに行って来ます!という声はどこか弾んでいた。 *** 私のクラスは一年D組。 挨拶をして指定された席へと座る。 窓際だから風が入って気持ちがいい。 隣の席に視線を移すと髑髏の眼帯をしている女の子が座っていた。 「よろしくね」と話しかけると小さな声で「よろしく」と返してくれたけれど、すぐ俯いてしまった。 横顔から見える頬は真っ赤。 『……?』 「………っ」 じっと見つめたら、さらに俯いてしまった。 人見知りなのかな? 私も新しい教室で緊張しているけれど、私以上に緊張している雰囲気で話しかけづらい。 『……(せっかく隣の席なのに、仲良くなりたいなぁ)』 「………」 隣の彼女が気になるものの、やはり考えるのは彼のこと。 さり気なく教室を見回すと彼の姿はない。 都合よく同じクラスになれるとは思ってなかったけれど、やっぱり凹んでしまう。 はぁ、とため息を吐くと何人かの女の子がこちらにやって来て話しかけてくれた。 自己紹介をして、どこから転校してきたの?とか何か分からない事があったら聞いてね、なんて言ってくれて嬉しい。 話が盛り上がっているとチャイムが鳴って先生が教室に入って来た。 『あ……』 「先生、来ちゃったね」 「もっと話したいのに。」 「それじゃ!」 『あっ、うん!ありがとう!』 また後でね、と言い残して話しかけてくれたクラスメイト達は席へと戻っていった。 友達、出来るかな、なんて心配する事はなかったみたい。 『……あ』 そういえば、教科書がまだ揃ってなかった。 窓際だから隣は先程の静かな女の子だけ。 見せてもらえないかなと様子を窺うと、やっぱり俯いていて話しかけてもいいものなのか躊躇してしまう。 『……(だ、大丈夫、だよね?)』 「……」 『あの…』 「……!!」 『教科書、まだ揃ってなくて…見せてくれないかな?』 「………っ」 小さな声で話かけると驚かせてしまったようでびくっと肩を震わせる。 もしかして、怖がらせちゃってる!?困ってる!? 数秒の沈黙が何だかすごく長く感じるよ…!! 内心、慌てているとコトンと小さな音を立てて机に置かれた教科書。 こちらにも見やすいように広げてくれていた。 『あ……、見せてくれるの…?』 「……っ」 顔を赤くしてコクンと頷いた彼女。 嫌がられてはない、よね? 安心して机をくっつける。 だけど、ありがとうと伝えたら再び困ったように眉を下げて顔を赤くして俯いてしまった。 人見知りで話すのが苦手なのかな。 『……』 声をかけようと思っても今は授業中、声を出すのは少し目立っちゃう。 『……!』 ふと、いい事を思いつき私はペンケースからシャーペンを取り出す。 そして真っ白なノートに文字を書いた。 "教科書、見せてくれて本当にありがとう! よかったら名前、教えて?" トントンと肩を叩いて手紙を彼女に見せると驚いたように紙を見つめている。 こちらをちらっと見たから笑いかけると、おずおずとペンを握って書いてくれた。 嬉しくなって私は再びペンを走らせる。 "名前は、凪" "可愛い名前!凪ちゃんって呼んでもいい?私の事もよかったら名前で呼んでくれると嬉しいな!" ちょっと図々しいかも? ノートを見つめる凪ちゃんに心配になって"もちろん嫌じゃなかったらでいいから!"と付け足した。 凪ちゃんは、その手紙を見るとカァァと頬を染めた。 「…ー…っ」 『……?』 「……っ、名前、ちゃん」 『……!』 「………っ」 小さく呟いた私の名前。 先生の声と重なって周りには聞こえなかっただろうけど私にはしっかりと聞こえた。 今度は手紙ではなく、こそこそと小さい声で話しかける。 『名前でいいよ!これからよろしくね、凪ちゃん!』 「…っよ、よろしく、…名前」 『……!!』 もじもじと恥かしそうにしているけれど、柔らかく微笑みながら言ってくれた。 もっと話したいと思ったけれど今は授業中。 先生がこちらを見ていたこともあって授業に集中した。 |