ぎゃーん!と犬の叫び声が響き渡った黒曜センターを後にして私と骸様は公園へとやって来た。

青々とした木々が太陽の光を浴びてキラキラしてる。
子供達が遊具やボールで遊んでいる光景は平和そのもので心が安らいだ。

ここまで来てベンチに座るのも何だからと私達は公園を一周する事にした。
周りを見回すと一ヶ月程前には咲いていた桜は今はもう散ってしまっていて緑の葉。

分かっていた事だけれど、しゅんとしてしまう。



『やっぱり、もう咲いてないですよね…』

「……?…あぁ、桜ですか?」

『はい、さっき皆でお花見したかったなって話してたんですよ』

「クフフ、桜よりも名前は食べ物では?」

『ち、違います!犬じゃあるまいし!そりゃ、美味しいものあったら嬉しいです、けど!』

「でしょう?」

『う……』



ちょっと図星だったことは骸様には知られたくない。

だけど、このままじゃ隠し切れないから表情を見られないように骸様の二、三歩、前を歩く。
そんな行動から骸様は察したようで、後ろからくすくすと笑い声が聞こえた。



「名前、怒らないで隣を歩いてください」

『お、怒ってないですっ!』

「せっかくの散歩も君が隣にいないとつまらないでしょう?止まりなさい。」

『今はいやです!』

「仕方ありませんねぇ…、それでは…」

『……?』



骸様の足音がピタリと止まる。
どうして立ち止まるのか振り返った瞬間、辺りは一面、優しいピンク色の景色に変わった。



『さ、桜!?なんで…っ!?』

「クフフ…」

『あっ!もしかして…』

「えぇ、幻覚を使いました。いかがですか。」

『綺麗です!幻覚ってこんな使い方も出来るんですね!』

「こういった使い方は滅多にしませんけどね、今日は特別ですよ」

『ありがとうございますっ、骸様っ!』

「いえいえ、君の機嫌が直ったようで何よりです。それでは、行きましょうか」

『はい!…って、…え?』

「…どうしましたか?」

『……っ』



骸様が隣に来たと思ったら手を握られて指が絡まる。

随分と長く一緒にいるけど手を繋ぐなんて初めて。
ドキドキして隣にいる骸様を見るとふっと微笑んでいた。



「おかしな顔をしてますね、名前」

『だ、だって!骸様、手が……』

「おや?嫌ですか?」

『い、いえ…』

「でしたら、このままで…」

『……っ』



手から伝わる体温。
いつもよりも近い距離にドキドキする。

私の手が汗ばんでいるんじゃないかって心配になり見上げた骸様の横顔は桜のせいか、いつもと違って見えた。



『…ー…っ』

「………」



緊張して喋れない。
桜を見るふりをして沈黙を紛らわしていると骸様が話し出した。



「……、…こうして手を繋いでいれば」

『…は、はい?』

「先程のように逃げられませんよね、クフフ…」

『え…?』

「君が転ぶこともないですし安心です」

『……』

「さぁ、行きましょう」

『………』



効果音をつけるなら「ガーン」だ。
うぅ…、一人でドキドキしてた私がバカみたいじゃない。

骸様は、いつも私を子ども扱いする。
いつもは気にしてなかったけど今日ほど恨めしいと思ったことはない。

こう思うのは何でだろう?
さっきからドキドキしちゃって、私の身体、おかしくなっちゃったみたい。



『……』

「そんなに見つめて、どうしたんです?」

『な、なん、でもない…です…』

「……?」

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