ねぇ、君は何でそんなに強いの?

君は何でオレを許してくれるの?

何で君は今もまだオレを"友達"だって言ってくれるのかな…?



「………」



オレなんかが君の手をもう一度、握っても、いいのかな。



「……」



ごめん、ごめん、ごめん。
心の中で何度も謝るけれど「ごめん」の三文字は決して言葉に出来ない。

だって、今のオレなんかが軽々しく口にしていい言葉じゃない。



「………っ」



ねぇ、お願いだよ。

何でもするから、早く目を覚ましてよ。








Best friend



君が手首を切り意識を失ってから今日で六日目の夜。
しんとする保健室前の廊下にオレは一人で座っていた。

空に浮かぶ月はオレの情けない顔を照らしている。



「……」



オレは彼女に何をした?

君の言葉が全部、嘘に思えて、ただただ自分の感情のまま殴って蹴って、傷つけた。

殴った感触が未だに手に残っている。
君の苦しむ顔が頭の中に浮かぶ度、オレは胸が締め付けられるように痛くなる。

人を傷つけて自分も痛いのは殴った拳だけじゃなくて、心がこんなにも痛くなることを初めて知った。



「……だけど、これくらい君の痛みとは比べ物にならないよね」



京子ちゃんを傷つけた"真白"の事が心の底から憎かった。

泣いてる京子ちゃんをオレにはどうする事も出来ないのが悔しくて、原因である真白を責めた。



「……」



あんなに仲良かったじゃないか。

なのに、何で?
ずっと京子ちゃんの事が疎ましかった?嫌いだったの?

オレたちの事を裏切ってたんじゃないか、そう思ったら感情が爆発した。

どうしようもなく真白が信じられなくなって、憎んだ。



「……」



君と初めて出会ったのは朝の教室。
彼女は時季外れの転入生だった。

他のクラスメイトにはない不思議な雰囲気を持つ君は教室で目立っていた。

戸惑って緊張していたみたいで、目が離せなかったことをよく覚えている。



「………」



緊張しながら座った席の隣は山本。
友達になったらしい山本が紹介してくれて、彼女と握手をした。

小さな女の子らしい手だなって思ったら照れてしまって上手く話せなかった。

その時、照れると同時に素直に思ったんだ。
優しくて、いい子なんだろうなって、仲良くなれたらいいなって。

何で、その気持ちを忘れていたんだろう。



「……違、う」



忘れてたんじゃない。
振り返ったら躊躇っちゃうから、見ない振りをしていた。



「……」



なんて馬鹿だったんだろう。

何で話を聞こうとしなかったんだろう。

今更、謝りたいなんて思うオレは虫が良すぎる。



「本当、オレはいつまでたってもダメツナ、だな…っ」



今は膝を抱えて彼女が目を覚ますのを待つ事しか出来ない自分が情けない。



「………」



出来ることは一つもないけれど、近くにいたいんだ。

オレは臆病だから、彼女が眠る保健室の中には入れない。

でも、家でのんびり待っていられない。



「……」



だから、壁一枚を隔てた保健室前の廊下で待っている。



「オレと彼女に出来た壁みたいだな…、はは……」



自分で自分を嘲笑い、壁に寄りかかると冷たくて、彼女がオレを拒否しているように感じた。

硬くて厚い壁。

この壁を壊すことはきっと、出来ない。



「十代目……」

「獄寺君…!真白…さん、起きたの…っ!?」

「あ……いいえ、相変わらず、眠ってるっス…」

「そっか…」



保健室から獄寺君が出て来て立ち上がり、状況を聞く。
だけど、やはり状況は変わらないようで力なく座り込んだ。

獄寺君も静かにオレの隣に座る。



「十代目、冷えますし、中に…入りませんか?」

「……いいよ。オレはここで。」

「……」

「ねぇ、獄寺君…」

「はい、何ですか…?」

「………」

「その、オレ、さ…あの時…」

「……」

「獄寺君に、酷い命令をー…」

「言わないでください。」

「え……」

「あん時の行動はオレ自身で決めた事です。」

「……!!」

「あいつを傷つけたこと、十代目を言い訳にしたくないっス」



だから、気にしないでください。
獄寺君はそう言って、いつもと変わらない笑顔をくれる。

そんな獄寺君に以前の真白さんが重なって見えた。



「オレ、獄寺君に慕われるような人間じゃ、ないよ…」

「何を言ってんスか!十代目は十代目です!」

「……マフィアになんてならないよ」

「それでもオレはついて行きます!」

「………っ」



オレって本当にダメだな。
涙が出てきて、どうしようもない。



「ごめん…っ獄、寺君……っ!!」

「じゅ、十代目!謝らないでください!」

「……っ」

「十代目……」

「…ー…オレは大丈夫、だから。真白さんの傍に、いて…」

「……はい」



涙を見せないように顔を伏せて獄寺君に部屋の中に戻るように伝える。

獄寺君は控え目に挨拶をして静かに保健室へと入って行った。



「オレ、最低だよ…」



自分がどうしようもなく情けない。

オレは真白さんを何度、一人で泣かせたんだろう、何度、傷つけたんだろう。



「……っ」



真白さんへ言った全ての言葉は全部、オレ自身への言葉だ。

オレは本当になんて事をしちゃったんだ。



「く…ー…っ」



照らす月の光が穏やかで優しすぎて眩しくて、オレはずっと泣いていた。


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