一番、最初に出会ったのは教室。
先生と一緒に教室に入ってきた。

あいつ、真白羽依は時期外れの転校生だった。



「……」



隣の席になったから、さっそく話しかけてみると、明らかに戸惑ってる反応をした。

あれ?もしかして馴れ馴れしかったか?

そう思いつつも机をくっつけて、まだ揃ってない教科書を見せた。

驚いた感じで目を真ん丸にさせていたけれど、その後には「ありがと」とはにかんだ笑顔は今でも覚えている。



「………」



なんだ、こういうの慣れてねぇだけなんだ。

理由が分かって安心したと同時に、放っておけねぇと感じた。








君と一緒の空の下!



「よ!オレ、山本武っつーんだ、よろしくな!」

『あ…、えっと…』

「自己紹介、聞いてたぜ!真白羽依、だろ?」

『う、うん…!』

「分からねぇ事があったら何でも聞けよ?あっ、勉強以外な!」



授業中だから周りには聞こえないくらい小さな声で喋る。

どこから来たんだ?とか購買の限定パンが美味いんだぜ!とか話してるうちに一限があっという間に終わった。



「あっ、わりぃ、授業の邪魔しちまって…」

『大、丈夫だよ…お話が出来て、嬉しい…』



ふんわりと笑った真白は単純に可愛いと思った。

妹がいたらこんな感じか?
同い年の奴を妹みたいっつーのは失礼かもしんねぇけど、一番、しっくり来た。



「あ、あのー、山本…」

「んっ?」

『………?』



短い休み時間にツナ、獄寺、そして笹川と黒川もオレ達の所に来た。

ツナと獄寺が来るのはいつもの事だけど、笹川と黒川が来たのは転校生目当てだな。



「よっ!ツナ、獄寺!笹川達も来たのな」

「ふふっ、うん!気になっちゃって!ねっ、花!」

「まぁ、気になると言えば気になるけどね。というかダメツナも女子に話しかけられるようになったかー」

「なっ!黒川!からかわないでよ!」

「オレは別に転校生が気になってる訳じゃねぇ!十代目がいるから来ただけだ!」

「真白、この二人はツナと獄寺だ。いい奴らなんだぜ!」

『獄寺くんに、つな、くん…?』

「あっ!え、えっと!ツナって言うのはあだ名で……」

『……?』

「あー…その、オレ……」

「ツナ、照れてんのな」

「ちょっ、山本までからかわないでよ!えっと!オレは沢田綱吉!よ、よろしく、真白さん…」

「おい、新入り。十代目に近づくんじゃねぇぞ!」

「獄寺、転校生を苛めるなって」

「苛めてねぇよ!オレはけじめをだな…」

「んな事を言ってねぇで皆、仲良くやろうぜ!なっ?」

「そうだよ!よろしくね、真白さん!私は笹川京子っていいます!」

「ちす。私は黒川花よ」

「羽依ちゃんって呼んでいいかな?私のことも名前でいいから」

『うん…っ!よろしくね、その……京子、ちゃん…!』

「ふふっ、京子でいいよ」

『えっ、京、子…?』

「うん!」

『あ、ありがとう…、きょ、京子…』

「わぁ、嬉しい!」

「私の事も適当に呼んでくれていいからね、羽依」

『う、うん…!』

「おい!分かってんだろうな!」

『へ……っ』

「十代目に失礼な態度を取るんじゃねぇぞ!何たって十代目はー…」

「わー!!獄寺君、ストップ!そんな事を、言わないでいいよ!」

「ですが、十代目!」

「い、いいから、いいから!」



真白は獄寺とツナのやり取りに目をパチパチさせてる。

女子と話す時も慣れていないみたいで緊張している雰囲気だった。



「なぁ、真白」

『……!な、なに……?』

「無理に合わせないでお前のペースで慣れていけばいいんだぜ」

『え……?』

「あー…と、その…」



真白を見ていたら言葉がスッと自然に出て自分でも驚いた。

少し馴れ馴れしいか?と思ったけど、ポンポンと頭を撫でると、真白はほっとしたように微笑んだ。



『ありがと、山本くん』

「……気にすんなって!これからよろしくな!」

『…ー…うん!よろしく、ね!』



これがオレたちの始まり。

それから少しして、真白はクラス中を敵に回した。

まだクラスに溶け込んでちょっとの時間だったけど、よく知らないから疑う…、なんておかしいだろ。

オレは真白がそんな事をしたなんて思えなかった。



「………」



クラスの女子とかグループでつるんでるけどよ、友達のことを深く知ってんのか?

オレはクラスメイトの事を良い奴らだって言えるけど、実際は深くは知らねぇ。
笑いあってても、心の中じゃ何を考えているか想像が付かない。

真白の事だって正直、よく知らない。

だけどさ、一つだけ言い切れるぜ。

こいつは良い奴なんだ、そんな酷い事、出来る奴じゃねぇって。



「……」



ある日、部室に行く途中、覚えがある爆発音が聞こえた。

オレは嫌な予感がして音のした屋上へ急ぐ。
その時に屋上から出てきたツナと獄寺を見て、胸がざわめいた。

ツナはオレを見ずに帰り、獄寺はオレとすれ違う一瞬「早く行け」と小さく呟く。



"まさか、真白に何かあったのか…?"



居ても立ってもいられず屋上への階段を駆け上がって、重い扉を開けると火薬の匂いと煙が普段の屋上の姿を消していた。

中央の煙が深いところには傷ついてぼろぼろの真白が座り込んでいる。
その前には、追い詰めるかのように雲雀がトンファーを構えていた。

その時、オレまで痛くなった。
怪我した訳じゃねぇのに、何つーか、胸の奥がぐっと締めつけられて。



「……」



雲雀が真白に攻撃する瞬間、割って入ってトンファーを受け止める。

その後、雲雀から聞かされた言葉にはさらに胸が痛くなった。



「………」



意識を失った真白を連れて行ったのは保健室。

悪い夢を見ているのか、うなされていた真白が目を覚ますとシャマル先生は抱き締める。

それを見ていたら胸がもやもやしてすっげー嫌な気持ちになって、気がついたら保健室から連れ出してた。

そのこと伝えたら真白になんで?って言われてうんうん悩んで、やっと気がついたんだ。



"オレは羽依が好きなんだ"って。



初めて抱き締めた羽依はいい香りがして、柔らかくて温かった。

こんな華奢な身体、すぐに壊れちまうんじゃないか?

一瞬でも遅かったら、さっき雲雀に壊されてたかもしんねぇ。



「……」



生まれて初めてだった。
誰かを「守りたい」と思ったのは。

こんな気持ち初めてで、気づいたら、もうどうしようもない程、好きだった。



「………」



屋上での出来事の後、当たり前だけど羽依は学校を休んだ。

一日、二日、三日。
まだ三日しか経ってないのかよって思うくらいに一日がすっげー長く感じた。

いっそのこと、家に行ってみようかって、思ったけど抱き締めた時に「いや」と拒絶されたのを思い出して足が止まる。

オレに抱きしめられる事が嫌だったのか?

シャマル先生にはいやだなんて言ってなかったのに、と思ったらありえねぇくらい凹んだ。


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