羽依が休んで六日目。 悩んでたって仕方ねぇし結局、オレは家へ行く事にした。 初めて羽依の家に行って、緊張しながらブザーを鳴らす。 けれど、数分しても出て来なかった。 寝てるのか? それとも病院に行ってるのか? ブザーが壊れてるとか…? んなの万が一もねぇだろうけど、気になって扉を叩く。 ドンドンを言う音は静かなマンションの廊下に大きく響いた。 だけど、羽依は出て来ない。 やっぱりいねぇのか?と呟くと中からガタンという大きな音がしたけれど、問いかけると返事はなかった。 オレが怖いのか、それとも、思うように身体が動かないのか? 無言の理由を、その場に立ったまま、うんうん悩んで考えた。 だけど、悩んだって例え嫌われたってオレが羽依が好きなことは変わらないし、変えられない。 だから、オレはいつものように話した。 赤点やシャマル先生の事、あと体育の授業の野球の話。 趣味を押し付ける訳じゃねぇけど、「お前に野球を見てもらいたい」って気がついたら口にしていた。 聞いてるのか、聞いてないのか。 話していたら、もうそんな事は関係なくなってた。 ただ、オレが無性に言葉にしたかった。 お前がいないと嫌なんだ、いて欲しいんだって伝えたかった。 「……」 色んな事を話してるうちに部屋の中から「私なんて消えた方がいい」って声が聞こえた。 オレの言葉が負担になったのか? オレはお前に何にも出来ないのか? 何をしたらいいのか分からない。 だけど、これだけは伝わって欲しいって思ったんだ。 「………」 お前は一人じゃない。 オレは会いたいから、お前と一緒に笑っていたいから、ここにこうしているんだぜって。 無理にこじ開けるなんてしねぇ。 お前が自分自身で"扉"を開けなきゃ意味がねぇんだからな。 怖くても、辛くても、一歩でもいいから踏み出してくれよ。 一歩、踏み出したなら手を引っ張るぜ。 絶対に置いていかない。 遅れないように手を繋いで、オレが隣を歩くから。 頼むから「消えた方がいい」だなんて言わないでくれよ。 そう思って必死に話していたら、オレは気がついたら自殺しようとしていた時の事を話してた。 「……」 何か行動しなきゃ、何も変わらない。 野球だってそうだ。 どんなに早い打球も、変化球もバットを振らなきゃ、そこでおしまい。 三振が怖くてバットが振れないなんてオレは思わないぜ。 だってよ、もしかしたらホームランが打てるかもしんねーんだぜ? ボールがバットに当たってカキーンって空に響く音は最高。 想像しただけで身体中が身震いするくらいすっげー気持ちいいホームラン、お前だって打てるはずだ。 「………」 こういう考え出来るようになったのは仲間のツナのおかげだ。 ずっと話していたら、羽依は扉を開けて出て来てくれた。 あの時、お前と歩いた夕焼けの公園、今でも忘れられない。 今まで見たことないくらいに暖かい色していた。 お前といたからそう見えたのかな。 「……」 お前が手首を切った時、本当はすぐにだってシャマル先生を呼びたかった。だけど呼べなかった。 お前の決意を邪魔することはしたくなかったから。 意識を失った後、保健室で眠るお前を一人にしておけなかった。 ましてやシャマル先生に任せていられなくて、勝手だけどオレの家に連れ込んだ。 親父は驚いていたけれど事情を話したら、黙って空いてる和室を使えって言ってくれた。 笹川と黒川、ツナや獄寺、シャマル先生も帰りには必ず見舞いに来てくれた。 だけど、目は覚まさなくて不安ばかりが募っていく。 このまま目を覚まさなかったら?と考えたらどうしようもなく怖くなった。 何も出来ない自分が悔しくて、だけど、羽依の手を握ったら温かくて安心して眠ってしまった。 そん時に羽依の夢を見たんだ。 夢の中の羽依は笑っている。 その笑顔を見たら、自然に「好きだ」って口に出しちまった。 驚かせちまったと慌てたけれど、羽依ははにかんでオレの事が好きだと言ってくれた。 今、思えば、すっげー都合が良すぎだし不謹慎すぎねぇか? 「……」 目が覚めて、驚いた。 羽依が起きて、オレを見てたから。 そして、意識を取り戻した羽依に大谷達の事を話してたら、ふと思ったんだ。 もしかして羽依もどこか遠くへ行っちまうんじゃないかって。 オレの勝手だけど、どこにも行かせたくねぇ。 オレと一緒に居て欲しいと強く思った。 「………」 羽依が「オレと一緒にいたい」って、伝えてくれた時、すっげー嬉しかったんだぜ。 「嬉しい」なんて月並みすぎる言葉だけどさ、もうそれしか思いつかねーの。 これ、さっきの夢の続きか?と思ったりもした。 だけど、抱き締めてる温もりは確かにオレの腕の中にいて、羽依も背中に手を回して抱き締め返してくれて「……あ、夢でもいいんじゃね?」とか思っちまった。 「……」 ……んで、獄寺が邪魔、もといオレ達の所に来て二人きりの時間は終了。 その後は羽依が目を覚ましたお祝いにオレの家で皆を呼んでパーティー。 ツナはせっかくのパーティーなのに泣いて謝っていた。 羽依はツナの話をきちんと聞いて、大丈夫だよと微笑んでる。 三浦とも仲良く話してるし、イーピン、フゥ太、ランボも羽依に懐いてて、これからはぜってー楽しくなる!って思った。 親父も羽依を気に入ってくれて、部屋も空いてるしここに住んだらどうだ?といつものノリで提案する。 ナイスだ、親父!って、思いつつもやっぱり邪魔が入る訳だ。 それが今。 「野球馬鹿!!お前、年頃の娘と同居なんていいと思ってんのか!んなのオレが許さねー!!」 『ご、獄寺くん?(骸みたいな事言ってる…)』 「許さないも何も獄寺の許可なんて必要ねーじゃん、なっ、羽依?」 『え、えっと……』 「ほら見ろ!戸惑ってるじゃねーか!さっさと離れやがれ!」 獄寺は顔を赤くしてぎゃあぎゃあと騒ぎ出す。 なんとなく、だけど獄寺も羽依が好きなんだと思う。 本人が自覚しているのかは分かんねぇけど。 「つーか、羽依はオレの彼女だからな」 『……!!』 みんなに聞こえるように、わざと声を大きくする。 羽依の肩を抱き寄せて笑うと、皆一斉にオレ達を見た。 「んなーっ!?」 「えっ!?山本、どっどういうことっ!?」 「羽依っ?山本くんと付き合ってるのっ!?」 「はひーっ!?こ、恋人って事なんですかっ!?」 「武!やるじゃねぇか!こんないい子、手放すんじゃねぇぞ!」 「当たり前だ!」 「な、な、な…っ!マ、マジ、かよ……」 「そうだよなっ、羽依」 『えっ!あ……そ、その……』 羽依に笑って同意を求めたら顔が真っ赤。 だけど、応えるようにオレに控え目に寄り添っていた。 ん?お前ってそういうタイプだったっけ? 結構、あっさり「うん」って言うもんだと思ってたけど…。 なんだか、新鮮なのな! 『……っ』 「……」 こういう表情、獄寺じゃ出せないだろ? 挑発するようにニッと笑うと獄寺はオレを見て震えてる。 おっ、来るか? 「み、認めねーッ!!果てやがれっ!野球馬鹿!!」 「受けて立つぜ!」 「んなっ!?山本のバットーっ!?」 「ははっ、何故かここに立てかけてあったんだよなー」 「リボーン!お前だろの仕業か!!トロばっか食ってないで止めてよ!」 「いいじゃねーか。これもまた特訓だ。」 「どこがだよっ!!」 「オレも参戦するぞ!!何の勝負か分からんが、極限に熱い戦いだな!!」 「お兄さんまでッ!?」 「ちょっ、お、お兄ちゃんまで!!は、花…っ!どうしよう!」 「煩いわね、まったく。放っておけばいいわよ。そのうち飽きるでしょ。」 「で、でも…!……あれ?」 「どうしたのよ、京子」 「お兄ちゃんと羽依が恋人同士になったら、もしかしたらいつかは義姉妹?……なーんて!ふふっ!」 「京子ちゃんまで何を言ってんのーッ!?(話が余計にややこしくなるー!!)」 一気に賑やかになった雰囲気に羽依はおろおろしていた。 はは、そんな顔すんなって! 本気でケンカしてる訳じゃねぇんだからさ! 「外に出やがれ、野球馬鹿!」 「おぅ!」 「行くぞ!」 「お兄ちゃん!頑張ってね!」 「負けるつもりはないぞ、京子!」 「ガハハッ、ランボさんも戦うもんね!ちねー!!」 「○×▼!」 「羽依姉の事を愛してる人ランキングしてみようかな」 「ふふっ、いいランキングじゃない。誰が羽依を一番、愛しているのかここではっきりさせましょう」 「うん、やってみる。あれ…?一番は……」 「どうしたのよ、フゥ太」 「僕のランキングに狂いはないはずなんだけど…」 「山本武じゃなくて隼人と出たのかしら?」 「ビアンキ姉…、えっと…ううん、何でもない!」 「……?」 「ビアンキ、オレはウニが食べたいぞ」 「リボーン、ふふっ、待ってて、すぐに用意するわ」 「……ろくどう、むくろ」 「どうしたんだ、フゥ太」 「……なんでもないよ、リボーン」 みんな"ここ"にいて、馬鹿みてぇに騒いで笑って、そこに羽依もいる。 それって前だったら考えられねぇくらいすげぇ事だよな。 これは全部、お前が頑張った結果だぜ! 「………」 これからも、色んな事があるかも知れねぇ。 だけど、オレはいつだって傍にいる。 お前の一番、近くにいるぜ。 だから、その笑顔を絶やさないでくれよ? お前の笑顔はオレの元気の素なんだからな! 「……」 過去も今も一秒先の未来だって お前の事を想ってる。 end 加筆修正 2012/03/05 |