フゥ太くんとツナくんを追いかけて森の中を走る。

ツナくん達を追いかけているはずなのに、私は何かから逃げてるみたい。

逃げる事も、目を背ける事なんでしたくないのに。

出来る訳、ないのに。








変わらない笑顔



「待てよ、フゥ太!!」

『…っツナくん!』



ツナくんはフゥ太くんを追いかけて森の奥へと入って行く。

遠く離れていないけれど森の中は足場が悪い。

強い風に葉が舞う一瞬、目を閉じてしまったらツナくんを見失ってしまった。



『あ、あれ…っ!?ツナくん…!?』

「…ー…っ!!」

『ツナ、くん…!!』



ツナくんの声が遠くなっていく。
人気がない森の中に一人きりになると、不安になってきて足を止めた。

まるで森の中に閉じ込められたように向かうべき場所が分からない。

右に行けばいいのか、左へ行けばいいのか、それとも真っ直ぐ…?

道らしき道はなくて、どこに進めばいいのか分からない。



『……』



今まで当たり前だった骸たちと過ごしていた日々。
色んなことがあってやっと手に入れた並盛の日常。

もう大分、昔のように思えてしまう。

みんなが笑顔でいる、大好きな人が傍にいる、そんな日々が戻ってくるって信じたい。



『………』



迷っていた時、苦しかったり不安な時、傍にいたのはいつだって骸だった。

だけど今は誰もいない。



『……むく、ろ』



私、わがまま、だ。

並盛で充実した日々を送ってるのに、気がつけば骸たちのことを考えてはため息ばかり吐くなんて。



『むく、ろ……っ犬…、千種…っ』



少しずつ過去が鮮明に蘇ってくる。

楽しかったこと、辛かったこと、悲しかったこと。

今みたいに森の中、一人でいたこともあった。



『……っ』



研究所を抜け出した後のことを思い出す。

追っ手が来るかもしれないから廃墟を転々と移動して、私たちはじっと身を潜めていた。



『……』



深い森の中のずっと奥にあった廃墟。
そこで生活していた時、骸は数日間、いなくなった時があった。

すぐに帰ってきます。
そう言っていたけれど一週間以上も帰って来なくて不安になった。

私達は「大丈夫だ」と強がって怯えながら骸の帰りを待つ。

もしかして捕まってしまったのか。
それとも怪我を負って動けないから帰って来れないのか。

色んな不安がぐるぐる頭を回って、時には何時間も泣いて目を腫らしていた。

骸に会いたくて、私は森の中をひたすら走って探していた記憶が今も強く残ってる。



『……あの時の森に、似てる』



木々が空を隠す深い森が怖くてたまらない。

右か左かも分からなくて、どっちに行けばいいのかも分からない。

必死に走って、帰り道さえ見失って一人きり。

今と、同じ状況だ。



『………』



暗い森の中で聞いた鳥達の声は一人きりの私には不気味に聞こえてしまって耳を塞いでしゃがみこんで泣いていた。

その時は骸が見つけてくれたんだ。

大丈夫ですよ、と言って抱き締めてくれた。

骸が微笑んでくれたから安心して、私は姿を消していた骸が「何をしていたか」よりもただ「おかえり」と泣いていた。



『……』



私は骸のことをよく知らない。
エストラーネオの実験で手に入れた能力のことも気にしなかった。

骸の優しさだけしか知らない。

それだけで十分だと思っていた。



『………』



今になって気付いた。
骸は自分のことを私に一切、話していないことに。

温かい居場所を疑いもしなかった。

骸が微笑んでくれるから私は嬉しくて笑って犬や千種もいて、それが心地よくて、ずっと嬉しくて幸せだった。



『む、くろ…』



胸が苦しくなる。

だけど泣きたくないから胸を押さえつけるように、しゃがみこんで大きく息を吸った。



『…ー…どうしたら、いいんだろう』



守りたいのに守れない。
みんなは守るために戦っているのに、私は骸たちと戦えない。



『ツナ、くん……』



並盛が危ない状況になっているのに骸たちの事をツナくんに話すこともしないなんて、私はずるい、よね。

だけど、話したら、骸もツナくんの事も裏切ってしまうんじゃないかと思って言葉が出てこなくなるの。



『……っ』



ツナくんを信じてる。

だけど、もしかしたら、また「あの時」みたいに嫌われちゃうんじゃないかと思ったら、不安が心に影を落とす。



『怖、い……』

「……羽依、ちゃん?」

『…ー…!?』



背後から聞こえた声に身体が震える。

驚いて身動きが出来ないでいる私に声の主が慌てて近寄った。



「やっぱり、羽依ちゃんだ!」

『ツナ、くん…』

「フゥ太を見失っちゃったと思ったら今、変な人に会ったんだよ……って、ど、どうしたのっ!?どこか痛いの…っ!?」

『だ、大丈夫…』

「本当?」

『う、うん…』

「……」

『ツナくん…?』

「羽依ちゃん…」

『どう、したの?』

「……」



ツナくんは立ち上がった私を真剣な瞳で見つめる。

後ろめたい事があるからか胸がざわついて、私は視線を落とした。


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