緊張の中、続く沈黙。
その先を急かすように風が吹いていた。



「ねぇ、羽依ちゃん…」

『ツナ、くん……?』

「さっきの、犬って人のこと、知ってるんだよね?」

『………!!』

「あの人は羽依ちゃんのことを知らないって言ってたけど、君は…」

『……』

「獄寺君は理由を知っているみたい、だった。」



ツナくんも緊張した様子で問いかける。

その様子に思わずびくっと震えてしまうとツナくんは小さく「ごめん」と呟いた。



「その…、やっぱりオレには話せない、かな…」

『………』

「今度は何を聞いたって、絶対に君を…、大切なものを見失わない。」

『……』

「羽依ちゃんのこと、信じてる。」

『……っ!』



ツナくんは真っ直ぐな瞳で私を「信じてる」と言ってくれる。

その瞳は昔とは全然、違う。
意思の強い、真剣な眼差しには光を感じた。

私の心の影を照らしてくれる、そんな光。



「頼りないけどさ、何か悩んでるなら話して欲しいんだ」

『ツナくん……』

「あっ!も、もちろん言いたくないんだったらいいんだよ!」

『え……』

「オ、オレだって言いたくない事あるし!この間のテストが赤点だったとか……あっ、今、言っちゃったけど!!」

『……』

「ほ、本当はさ、敵のアジトに乗り込むなんてすごく怖い。今だって足が震えてるし、逃げ出したいくらい」

『………』

「さっき、ナイフを刺そうとした時だって怖かった」



格好悪いよね。
そう言ってツナくんは笑う。

笑っていたけどすぐに真剣な顔になって話を続けた。

真剣だけど、前に起きた事件の時みたいな怖い表情ではなかった。



「…怖いけど守りたいって思ったんだ」

『守、りたい?』

「うん、オレの日常と、居場所を」

『居場所…』

「誰か一人でも欠けたらだめなんだ。」

『一人でも、欠けたら…?』

「羽依ちゃんも他の皆も…誰か一人でも欠けたらオレの日常じゃなくなる」

『………』

「だから、戦うんだ。ダメダメで力もないけど、暴力とか…そういうのは、嫌だけど…」

『……』

「戦わないといけない時もあるんだって思った。」

『戦、わないといけない、とき…』

「誰も傷つかないで戦うのって、きっと難しいと思う。」



ツナくんはとても辛そうな顔をして話してる。
今までのことを思い出しているのか、声が震えていた。



「山本は腕に怪我してまで守ってくれた。獄寺くんだって身体を張って庇ってくれた。」

『うん……』

「羽依ちゃんだって、オレの前に立ってくれた。京子ちゃん達を守ってくれた。」

『……』

「オレもそうなりたいって思う。もちろん犠牲が必要だなんて思わないど、さ。」

『ツナ、くん…』

「正直に言ってダメダメで弱いオレに何が出来るか分からないよ」

『………』

「だけど、一人じゃないから、怖いけど前に進めるんだ」



ツナくんは何かを決心したようにぎゅっと握った自分の拳を見つめる。

その姿をじっと見つめていたらツナくんはハッとして慌てだした。



「というか、羽依ちゃんまで巻き込んじゃってごめんねっ!?」

『…ー…ううん』

「……?」

『……来たかった、から』

「羽依ちゃん…?」

『ツナ、くん…』

「ん……?」



聞いてくれる、かな…?

全てを話すのはまだ少し怖いけど、私はゆっくりと骸たちのことを話す。

骸たちとは幼い頃からの仲間で、並盛に来た理由は普通の日常を求めてやって来たということを。

ツナくんは驚いていたけれど私の話に静かに耳を傾けてくれた。



「じゃ、じゃあ、羽依ちゃんと六道骸は仲間ってこと、なの?」

『うん……』

「……」

『…ー…黙ってて、ごめん、なさい』



ツナくんは呆然として私を見つめている。

どんな風に思っただろう…?

不安になり俯いていたらツナくんは落ち着いた声で話しかけてくれた。



「ねぇ、何で打ち明けてくれたの?」

『それは、ツナくんたちは……』

「仲間、だから…?」

『うん……』

「でも、六道骸達も大切で仲間、なんだよね…」

『…ー…うん』

「………」



一つ一つ確認するように話しかけて、ツナくんはふぅと息を吐いた。



「……だったらさ」

『……?』

「骸達に会いに行こうよ」

『えっ?』

「オレ、戦えないし、話し合いで何とかなるならしたいしさ!」

『ツナ、くん……っ』

「羽依ちゃんだって、そうじゃないのかな?」

『……っ!』

「止めたいから、大切な仲間にこんな事をして欲しくないから来たんだよね?」



一緒に会いに行こうよ!
ツナくんはそう言って笑ってくれた。

ぎゅっと握ってくれた手は力強くて、温かい。



『…ー…っ一緒に』

「……」

『一緒に、いて…も…っ、いい、の…?』

「……!もちろんだよ!!」



曇りのない笑顔を見たら安心して涙が出てきた。

その様子にツナくんは慌てていたから私は涙を拭いて精一杯、笑う。



『…ー…っあり、がとう、ツナくん』

「お礼なんて言われる事じゃないよ」

『でも……っ』

「オレ達だって仲間じゃん!」

『……っ!!』



仲間だと言ってくれたツナくんは、いつもと変わらない笑顔だった。

その笑顔が嬉しくて、もう一度、ありがとうと伝えて手を握る。



『…ー…っ』



私の、もう一つの居場所。

ツナくんの笑顔はそう言ってくれてるようだった。



「え、えっと!」

『……?』

「あ、あのさ!六道骸ってどんな奴なの?」

『え……?』

「脱獄囚としか聞いてないから気になっててさ!」

『骸は優しい、よ、すごく……』

「や、優しい…っ!?あの写真の人がっ!?」

『写真……?』

「うん、さっきリボーンから六道骸の写真を見せてもらったんだ。犬って人と眼鏡の…」

『千種…?』

「そ、そう!多分、その人!」

『骸と、千種と犬の写真……』

「その写真だけでも迫力満点で怖くてさ…」

『……』

「睨まれたら動けなくなるくらい迫力あったよ…。でも、そっか…見かけによらず羽依ちゃんには優しいのか…」

『動けなくなるくらいの、迫力…?』



確かに敵に向ける殺気は鋭くて、その場が痛いくらいの空気に変わる。

でも、写真にまでそういう風に写るもの、なのかな?



『写真……』



今まで骸は自分の手がかりになるようなものを残す事はなかった、はず。

研究所にいた頃の私や犬達のデータも全て消去したって話を聞いた事がある。



『ツナくん、その写真って、今、持ってる…?』

「ご、ごめん、持ってないや。でも、リボーンが持ってるはずだよ」

『そっか…』

「えっと、羽依ちゃん…」

『……?』

「こ、怖いけど、オレ、羽依ちゃんの傍にいるから…」

『……!ありがとう、ツナくん…』

「う、うん!じゃあ、みんなの所に戻ろう!」

『……うん!』



二人であやふやな記憶を辿って元の場所へ戻る。

ツナくんは、はぐれないようにと手を繋いでくれた。

木々の隙間から人影が見え、安心したのもつかの間、ドォンと響く重低音にハッとする。



『ツナくん…!!』

「この音…!!みんなは…っ!?」

『あそこ…っ』

「な……っ」

『山本くん、獄寺くん、ビアンキさん…!!』



先程いた場所に戻ると大きな鋼球を持つ男の人がいた。

その人の前に倒れているのは山本くんと獄寺くん。
ビアンキさんは二人を庇うように料理を持って構えてる。



「あ、あれって…写真の六道骸…っ!?」

『え……?』

「あのままじゃビアンキが……っ」

『……!』

「コラー!!何やってんだーっ!!」

『…ー…!!』



耳にビリビリとツナくんの大声が響く。
その声に気づき、ツナくんが「六道骸」と言った人物はこちらを向いた。



「……降りて来い、ボンゴレ十代目。女を殺して待つ。」

「ひぃぃ!!何、言っちゃってんの、オレーッ!?」

『ツ、ツナくん…!!』

「ど、ど、どうしよ、羽依ちゃん…!!」

『は、早く行こう!じゃないと…っ!!』

「で、でも…ッ!!」

『ビアンキさん…っ!?』

「……ツナ、最後の一発だ。骸と決着をつけてきやがれ」

「……っ!!」



ビアンキさんの元へ向かおうとした時、私の真横を銃弾が通った。

リボーンくんが撃った弾はツナくんの額を撃ち抜く。
それと同時に私を追い越しビアンキさんの前に出て、鋼球を受け止めた。

まるでスローモーションのように流れた一瞬に私は呆然として動けない。



「リ・ボーン!!」

「ボンゴレ十代目…」

「六道骸、死ぬ気でお前を倒す……ッ!!」



私を追い越して行ったツナくんの背中はとても大きく見えた。



『……』



信じてくれた。
今までと変わりなく接してくれて、仲間だと言ってくれた。

そんな、ツナくんみたいに、私もなりたいって思った。



『……っ』



今の自分より弱い自分は"この先"にいない。

ほんの少しでも、強くなれるはずだから、小さな歩幅でも前に進もう。



かけがえのない仲間と一緒に。



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加筆修正
2011/12/10


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