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逆さまに吊した心臓の願い

青木桃花、ただいまやさぐれ中。


「黄瀬くん、昨日発売の雑誌買ったよー」
「あ、マジっスか?ども!」
「ねえ黄瀬くん、他校の友達に黄瀬くんのファンの子がいてね、ツーショット見せたいんだけど一緒に撮ってもらっていい?」
「うん、いいっスよ!ちょっと待って、この子のサイン書いたら撮るから」
「黄瀬くん優しいよねぇー」
「そっスか?」
「黄瀬くんってなんで彼女いないんだろうねー」


わたしの彼氏はひじょーにモテる。いや、仕方ないよモテるのは。モテる要素のかたまりみたいな男で、そんな彼と付き合ってることはそりゃ誇らしいし自慢の彼氏だけどモテすぎるってのも考え物なわけだ。だってほら、まさか涼太とわたしが付き合ってるとはみんな思わない。だからあんなこと言って、彼女はこんなに近くにいるのに。ってかそこのあなた、ツーショット撮るのは勝手だけど腕絡ませる必要はどこにある?涼太も涼太でなんか言え バカ!


「はは、オレ彼女いるっスよー?」
「ふふ、どうせまた隣の家のわんちゃんとか言うんでしょ?」


それはわたしと付き合う前に涼太が言った冗談だ。ずいぶん懐かれてるらしく、涼太も気に入ってる。だからたとえ今涼太が彼女いると言ってもみんな相手は「犬」だと思うから、効き目がない。もっと真剣な顔して言ってほしいのに…。へらへら笑いながら言うから誰も信じないのよ。


「いいの?あれ」
『ほっとこ』


わたしと涼太のことを知る友人は心配そうにする。そりゃわたしだってあんなの何度も何度も見せつけられて嫌な気分にならないわけがない。だけどそれでも何ができるわけでもないから、結局いつもわたしはこうして目をそらして強制的に意識を外すしかないのだ。涼太はモテるし仕方ないよと、精一杯自分を説得して。


▼▼▼


『な…何それ!?』
「……」


前言撤回。これは仕方ないよじゃ片づけられない。

お昼休み、いっしょにお弁当を食べるために誰も使ってない空き教室へ来た。しかしジュースを買ってから行くとあとからやってきた涼太の首筋には、わたしにはつけた覚えのないキスマークがひとつ、これでもかと言うほど主張していた。


「あの、言っとくけど浮気じゃないっスよ…?」
『う、浮気だったらマジで殴る!』
「違う!」
『じゃあなに!?』
「これにはふかーいワケがあるんスよ!」
『話してよ』
「実はジュース買いに行こうとしたら先輩に呼びとめられて」
『…うん』
「ここじゃ話しにくいから、って人気のないとこ連れてかれて」
『…ん』
「それで、告白されました」


いや、それはいいよ。
告白なんてやまほどされてるだろうし、今さら…そりゃ、不安だけどさ、予想はできるし。じゃなくて、キスマークがついたゆえんを聞きたいわけよ、わたしは。


「これは、むしろちゃんと断ったシルシみたいなもんスよ。オレが告白断ったらなんでって聞かれて、彼女いるって答えたらいきなりキスマークつけてきて」
『ええ!?』
「私のほうが上手よ、って」
『えええ!?』


何その積極的な先輩!


「いや、ビビったっスわ」
『わ、わたしもビビ……って、ちょっと待って!そのまま流されて、ヤっちゃった、なんてないよね?』
「してたらこんなに早いわけないっしょ」
『なんかその否定の仕方嫌なんだけど…』
「まあ、まあ」


何がまあまあよ。まんざらでもない顔して、このイケメンめ…。
ふてくされながらも箸を進めていると、ふいにお腹に違和感を感じた。見れば涼太の大きな手が制服のシャツの中に侵入していた。


『ちょっ』
「だめ?」
『だ、だめっていうかまだお昼ご飯…だし!』
「でもオレ我慢できない」
『なんで!?』
「オレも健全な男子高校生っスよ?色っぽーい先輩にこんなキスマークつけられちゃって」
『そ、それで我慢できないの…?』


わりとショックなんだけど…。相手は誰でもいい、みたいで。


「あと、桃花が可愛すぎて」
『はあ?』
「オレのファンの子たちや先輩に嫉妬する桃花が、可愛すぎるのがだめ」
『……………』


涼太って、やっぱもてる。
女心なんていとも簡単にわかっちゃうんだろう。わたしのほしい言葉だってすぐわかっちゃって、ほら、だからわたしはもうほだされた。


『…涼太のバカ』
「(え、何それ可愛い)」


──────────
120921//逆さまに吊した心臓の願い

◎あずきさま
40万打記念企画に参加してくださりありがとうございます!
黄瀬くんのファンの子たちに嫉妬する主人公というリクエストでしたが、うまくそえていたか…不安です!←
ですが頑張ってかいたので、少しでもあずきさまに楽しんでいただけたなら幸せです…(´ー`)
このたびは本当にありがとうございました!


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