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愛し方は覚えたてなもんで

世の中には、可愛くてふわふわしてて鈍感で、自分へのベクトルに気付かないまるで少女漫画に出てくるような女の子がいるのだろう。そりゃあ、世界はこーんなに、ってか私じゃ表せないくらい広いわけだから、そんな女の子がいたってなんにもおかしくない。

けれど、きっと。
そんな女の子より、可愛くなくてふわふわしてなくて敏感で、自分へのベクトルに気付くまるで少女漫画に出てこないような女の子の方がたくさんいると思うんだ、どういうわけか。


私はもちろん、後者に決まってますがな。


「でさ、青木がこないだ言ってたバンド、俺も好きでー」

『ああ、うん。話してたやつね』

「そう、それ」

『へえ、木下くんも好きなんだ』

「声と歌詞がいいんだよな、切なげで」

『おっ。わかるねぇ、君』


クラスメートの木下くん。は、まあぶっちゃけどうでもいい。今ここで大事なのは、少し離れたところからびしびしと感じるこの視線──黄瀬くんのものだ。ちょうど視界の端に入る彼は、机に座ったままそばにいる友人の話を適当に流しつつ私と木下くんをガン見していた。それはもう、穴があくほどに。


恐らく。多分。きっと。予想だけど。黄瀬くんは私のことが好き。自惚れてるって思われるから誰にも言わないけどね。学年1、いや学校1のモテ男。モデルやっててバスケ上手で人柄も良くて、文句の付け所ナシ。そんな彼がどういうわけか、私みたいなどこにでもいる女を好きになった。そりゃ、クラスのランクとかつけたら上の方かもしんないけど、つーかこんなこと考えちゃう時点で性格終わってんだけどなー…。黄瀬くんって見る目ないよね、ぜったい。

けどね、黄瀬くんが今みたいに嫉妬してるとこってけっこー可愛くて、だから私はそんな彼を見たくてわざとこうやって違う男の子と楽しげに話したりするのです。ごめんね黄瀬くん、あなたが可愛すぎるの。


「んで、こないだそのバンドのチケット!ゲットしたんだよ!」

『まじか』

「まじまじ!2枚あんだけどさ、なかなかみんな都合あわねーとか興味ねーとか言ってくるんだ」

『もったいないねぇ』

「だからさ、青木、もしよかったら…」


あ、誘われる。
どうしよっかな、そのバンドは好きだけど…

っていうか女ってなんでこんなに賢いのかな、なんで誘われるとか直感でわかっちゃうのかな。こういう計算高いわけじゃないけど、打算的なとこも嫌い。


「一緒に、」

「行かねえっスよ」


あら、あら。
黄瀬くん我慢の限界?ついに割り込んじゃいましたか。

私たちの間に割って入った黄瀬くんの横顔を見つつ、のんきにそんなことを思った。(やっぱかっこいいな、チクショ)
こうして黄瀬くんが割り込んでくるのって、もう何度目だろ?1回目とかならさすがに私も自分に気があるのかもなんて思わなかったけど、3回目あたりからは『アレ?』ってなっちゃって、むしろならないほうがおかしいよね。黄瀬くんはいつもこうして入ってきて、断ってからまた自分のとこに戻って…


「ちょっと、青木っち」


アレ?


『え、ん?黄瀬くん?』

「話したいことあるんスよ」

『あ、そーなの?でももうすぐ休み時間終わっちゃうよ?』

「いいから」


黄瀬くんは私の手首を掴んでずいずいと進んでいく。ちょっぴり痛くて、けどそんなことより話がなんなのか気になった。まさかまさかの告白?だったらどうしようか。


「…青木っち」


連れてこられたのは人気のない廊下。遠くから聞こえるチャイムの音を耳にしながら、黄瀬くんの言葉を待った。掴まれたままの手首を握る力は、徐々に強くなってきている。


『なに?』

「青木っち、オレあんたのこと好きなんスよ」

『……』


ま、まじで告白されちゃったよ。
わかってはいたけど、やっぱり黄瀬くんって私のこと好きだったんだ。あの、黄瀬くんが。


「でもそのこと知ってて、他の男と楽しそうに話してオレに毎回嫉妬させて、青木っちはほんとに悪い子っスね」

『え?』

「知ってる、知ってるんスよ、オレ。青木っちがオレの反応楽しんでるってことくらい、知ってる」


黄瀬くんの手にどんどん力がこもってきて、いやそれよりこの手首に食い込む爪が痛くてたまらない。短い爪でも、こんなに力をこめれば食い込むものらしい。

そして黄瀬くんの顔がなんだかいつもと別物に見えちゃうんだけど、気のせい?


『きせく、』

「ほんとはまだ告うつもりなんてなかったから、返事はいらないっス。ただ、それでもあんたみたいに悪い子にはやっぱりちゃんとお仕置きしなくちゃダメだなって、オレさっきあんたら見ながらずっと考えてたんスよ」

『き、黄瀬く、』


トン、と背中が冷たい壁に触れる。白のシャツ越しに感じるひんやりとした感覚に、背筋が震えた。けれど本当の理由はもしかしたら黄瀬くんの聞いたこともないような低い声や、見たことのない冷たい瞳のせいなのかもしれない。


「…あんたはずいぶん優位に立って高みの見物決め込んでたつもりみたいっスけど、残念。あいにくオレはそんな遊びに付き合うほど優しい男じゃねーよ」


ぐっと壁に押さえつけられたまま、黄瀬くんが私の首筋に噛みついた。

あ、食われる?


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120920//愛し方は覚えたてなもんで

◎藍さま
40万打記念企画に参加してくださりありがとうございます!
20万打の際はリクエスト小説を更新するの遅れてしまってごめんなさいorz
それなのに今回の企画、いちばんに参加してくださって嬉しかったです(*/ω\*)
嫉妬する黄瀬くんを書いたはいいですが、なんだか打算的な女の子になってしまってごめんなさい…!
このたびは本当にありがとうございました!


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