天然パーマネント
「サラサラヘアーになりたい」
以前、天然パーマを持つ私の彼氏の銀時がそう言っていたのを思い出した。何故か、理由は簡単だ。今日は雨が降っているからだ。雨が降ると湿気が多くなり、ただでさえ爆発している髪の毛がさらに量を増すのだ。私はそんな心配はないのだが、銀時は髪が広がるし機嫌は最悪になるので勘弁だ。
「なんで雨降ってんだよこれで何日連続だよふざけんな俺を殺す気かァァァァァ!!」
「うるさい」
「お前はいいよなァ、髪の毛が爆発する心配がなくて、そんな俺の苦労も知らずによォ…」
「そりゃそうでしょ、私は同情するしか出来ないんだから」
そう言っていつもよりも量が多い彼の髪の毛をもさもさと撫でると彼はぷい、と横を向いてしまった。拗ねたらしい、面倒だ。
「はいはい、すいませんね分かってあげられなくて。私が悪かったです」
「んな棒読みで言われても嬉しくねェし逆に腹立つからやめてくんない」
目の下に影が射しているのでこれは相当精神的に効いているらしい。あ、私のウザさじゃなくて連日の雨が。もう私に何か言い返すのも億劫なのか、突っ伏してぶつぶつと呟き始めた。そんな彼の背中を意味もなく撫でていると、ふととある疑問が浮かび上がった。素直に口にしてしまえば怒られるだろうが、まあいいや。
「…天然パーマの由来ってなんなんだろうね。天然パーマネント?」
「…お前は俺の傷を抉るのがそんなに楽しいのか」
「パーマネントって、永久に、っていう意味らしいよ。ってことは永久にくるくるってことなのかな。それともパーマネントウェーブ?」
「急になんなのお前」
「多分後者が正解だと思いますよ」
「急にでしゃばってくんじゃねェダメガネ」
「なんで僕だけこんな扱いィィィ?! ひどいですよこんなの!!」
一人自問自答を繰り返していると、何か知っている風の新八くんが答えてくれた。相変わらず銀時の新八くん弄りは冴えていて、ほんとちゃっかりしてんな、と思った。
「…何か知ってるの?」
「いえ、由来だけなので知っているわけではないんですけど。なまえさんが言った通りなので」
「そうなんだ。よかったね銀時、別に永久にクルクルなわけじゃないって」
「銀ちゃんは頭の外側よりも内側の方がクルクルネ。クルクルパーのマダオヨ」
「お前ら俺を元気付けようとしてるのか集中攻撃しかけてきてんのかはっきりしてくんない、そろそろ泣くぞ」
「とか言ってちゃっかりなまえに抱きついてんじゃねーよ色ボケジジイ。マジキモイアル」
「…なまえ!!!」
「はいはい」
神楽ちゃんが辛辣すぎて銀時が涙目になって抱きついてきたので突き飛ばさずに受け入れて頭を撫でてあげた。話の渦中である天然パーマを撫で回すのは如何なものかと思ったけれど、傷心中の銀時はそれに気付いていないらしい。抜け目ない彼からは想像も出来ない失態だ。まあでもそんな難しいことはどうでもいいんだよね。
「まあなんだかんだ言って銀時のガラスのハートに無意識ながらヒビを入れるようなことを言ったけど、私は銀時の髪の毛が好きだよ」
髪の毛だけじゃなくて全部か、と付け足せば「よくそんなこっ恥ずかしいこと平気で言えんな…」と胸元から拗ねたような声が聞こえた。大きな子供みたい。
でも一応納得してくれたのか、体を起こして胸元にあった顔を私の肩に乗せてちゃんと抱きしめ返してくれたので復活したと見よう。なんとなく満足そうな顔をしていたから、私は間違った答え(銀時を怒らせるような返答)はしていないんだね。
神楽ちゃんが「なまえは銀ちゃんに甘すぎアル!! 飴と鞭を使い分けないとダメヨ!」と昼ドラか何かで覚えてきたようなセリフを吐いたので苦笑を返しておいた。
「でも私が飴なら、神楽ちゃんは鞭だから丁度良いんじゃない?」
「んん…そういうもんアルか」
「さ、ひと段落ついたところでそろそろご飯にしますよ」
場の雰囲気を変えるように新八くんの言葉に賛同すれば、残りの2人も動き出した。
万事屋に少しの波乱を巻き起こした本人が言うのもなんだけど、相変わらず万事屋は平和(?)でした。
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