空を見る親子


朝、珍しく一緒に登校するなまえと影山。なまえは家の前で影山の準備が終わるのを待っていた。手持ち無沙汰でうろうろと視線を動かし、ふと空を見上げると月が浮かんでいた。今は朝で明るいので白く欠けた月だ。
何を考えているのかわからないような顔でぼんやりと空を見上げてるなまえの隣に影山が来た。ほんのりとシャンプーの匂いが鼻をくすぐる。影山が「悪い待たせた」と声を発してもなまえは微動だにしない。影山は動かない彼女に向かって心なしか声を張ってもう一度声をかけた。


「おい、なまえ」

「飛雄。見て、月…あ、向こうに虹も」

「ん…ほんとだ」


なまえの囁くような声に、背を屈めて彼女の顔の横まで顔を持って来て耳をそば立て、言う通り空を見れば白い月が浮かんでいた。その少し先には虹の橋もかかっている。
しばらく2人で見上げていたが、いつまでもこんなことをしていたら遅刻してしまう。影山が行くぞと声をかけて先に歩きだしたが、なまえは空に気を取られて上を見ながらのろのろと歩いていて危なっかしい。影山はため息を吐いて立ち止まり、振り返った。


「おい、ちゃんと前見て歩け」

「んー」

「ったく…掴め」


生返事しかしないなまえに呆れつつ、影山は自分の服の裾をなまえに掴ませ、彼女のペースに合わせて、でも遅刻しない程度にゆっくり歩き始めた。





放課後。
またまた珍しく、影山となまえは肩を並べて帰路につくことになった。影山は言うまでもなく部活、なまえは無理矢理入れられた図書委員の仕事をこなす為に学校に残っていたのだ。通常の委員会ならばこんなに遅くなることはないのだが、最近は年末の大掃除に向けて本の整理をしなければならず、委員会のたびに遅くまで残る羽目になっていた。時間も時間で、冬ということもあり日が短く、既に外は真っ暗になっていることを気の毒に思った図書委員担当の教師が今日はここまでにしようと区切りをつけ、居残り練習をしている部活動生よりも少し早く切り上げることができたのだった。
なまえは、影山のいる体育館へと向かった。携帯で連絡をすればいいと思うだろうが、影山は普段から携帯を使わないので連絡を入れたとて見る保証はないのだ。だからこうして影山のいる体育館まで出向いているのだが。

体育館に行くと、顧問の武田先生が寒いし暗くて危ないからとなまえを体育館に招き入れた。影山は突然やって来たなまえを目に留め、彼女の目の前に立ちはだかる。


「どうした」

「委員会が長引いたから、飛雄と一緒に帰れるかと思って。まだやるなら待ってる」

「いや…いい、帰る」


影山の頬を伝う汗をハンカチで拭ってやると、自分が汗をかいていることを思い出したようにスウェットの袖で汗を拭いた。
影山がキャプテンの澤村に目をやれば、察したように「もうこんな時間だ、今日の練習はもう終わりにするぞ」と声を上げ、それに従って部員たちが片付けを始めた。ちょっと待ってろと言われたなまえはただ見ているわけにもいかず、マネージャーたちの業務を少し手伝うことにした。


片付けが終わり、着替えるために更衣室へと行った影山の背中を追って、更衣室のドアの前で待つ。中からは部員の楽しそうな声が聞こえて来る。恐らく影山が幼馴染みとはいえ女子と帰ることを珍しがった部員が冷やかしているのだろう。揶揄う部員の楽しそうな声と影山の少し焦ったような、恥ずかしさからか怒ったような声が聞こえて来て、なまえは微笑ましくて思わず控えめに笑った。

空気がひんやりして澄んでいる。空を見ると、濃紺に小さな光がちらちらと瞬いていた。そしてそんな中に一際存在感を放つ月がある。朝とは異なり、あんなに白くぼんやりしていたのに今ではその存在を存分に現している。周りに灯りが少ないので余計にはっきりと空の模様を見ることができる。感嘆のため息を吐くと、白い息がモヤっと広がって消えた。

背後で影山の声が聞こえる。どうやら着替えを終え、挨拶をしたようだ。ドアを開けた時にぶつからないよう少し横にズレるのと同時にドアが開き、影山が姿を表す。
帰るぞと声を掛けて先導するように歩きだした影山は、いつもなら背後にあるはずの気配がないことにすぐに気づいて立ち止まった。というよりは予想していたと言った方が正しいのかもしれない。振り返った影山の顔はやはり、呆れ顔である。その視線を独り占めしているのは言わずもがな彼の幼馴染みのなまえだ。今朝と同じようにぼんやりと空を見上げている。


「オイ、」

「んー」


今朝と同じやりとりだ。影山はそれに倣ってなまえの手を掴んだ。そして彼女の視線を遮るように視界の中に割って入った。星空でいっぱいだったなまえの視界が今度は影山で満たされる。


「階段なんだから危ないぞ。ちゃんと降りてからにしろ」

「はあい」


返事はしたものの、影山はまだ少し不安が拭い切れないのかその手を離さぬまま階段を降り、そのまま空に気を取られるなまえの歩幅に合わせてのろのろと歩いた。


「飛雄、空綺麗だね」

「ああ」


2人揃ってゆっくりと歩く後ろ姿はまるで親子のようで、普段の影山(見た目はクールだがその実末っ子のようで、なまえといる時はどちらかと言えば弟のような雰囲気すらする)を知っている3年生は、この時ばかりは影山のことをなまえより年上のように思え、「…親子か…」と目を覆っていた。


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