えいっ!


友達と話している時、飛雄の話になった。


「ねえ、なまえって影山くんのこと怖くないの?」

「なんで?」

「だって、いつも怒ってるように見てるじゃん」

「…あぁ〜、」


それを聞いて私は否定出来なかった。
確かに、飛雄のことをよく知らない人からすればそうなのかもしれない。あいつ、ただでさえ目つき悪いのに眉間の皺エグいくらい刻むしすぐ目顰めるし笑わないし…あれ、これただの怒ってる人じゃん。こりゃ誤解されるわ…なんで飛雄が中学の頃から友達できなくなったのか分かった気がするわ。いや勿論原因は顔だけじゃないけど…。飛雄って、表情で結構損してるんじゃない?
少しだけ頭を悩ませていると、休憩時間の終了を告げるチャイムが鳴り、お開きになった。



昼休みになり、何故だかどうしてもパック牛乳が飲みたくなって自販に向かった。ご飯はもう食べ終わったのでデザートみたいなもんだ。

自販機の前には背の高い男子生徒がいた。体型と頭の丸み的にこれは飛雄だろう。それを証明するように、小銭を入れて光ったボタンをピースの指で二箇所押した。どうやら人差し指の方が強く押したようで、左側のボタンだけが光っていた。ガコンと音を立てながら勢いよく落下してきたものを手にして振り向いた飛雄と目が合う。


「…あ」


やっぱり飛雄だ。飛雄は「あ」の口のまま止まって間抜けな顔をしている。
おす、と飛雄を押し退けて、飛雄に倣ってピースで2つのボタンを同時に押せば、私も人差し指の方が先に触れたのか左側のボタンだけ光って牛乳が落ちてきた。プスッとストローをさして牛乳を飲むと、飛雄は眉を顰めながらぐんぐんヨーグルを飲んで私を見下ろしていた。…あれ、チャンスじゃん。


「えい」


掛け声と共に人差し指で飛雄の眉間を押し上げれば、飛雄はまた間抜けな顔になった。でもそれは一瞬で、自分の背後から何かただならぬオーラを垂れ流しながら私の手を掴んだ。

ヤメロ。

目と空気がそう私に言っている。飛雄の殺気がビリビリと体を包み込んでいくけれど、私は飛雄の幼馴染みなのでそんなことでは怯まない。
ケラケラと笑っていれば飛雄は呆れたように溜息を吐き、反撃と言わんばかりに私の牛乳を勢いよく飲んだ。ズゴーッと大きな音がして残りが少ないことを悟ると私は途端に焦り始める。


「あああ分かったから全部飲まないで!」


飛雄は半泣き状態の私を見てスッキリしたのか、ニヤリと笑ってストローから口を離した。手に持つそれが一気に重量を無くしてしまったことにショックを受けつつ残りの牛乳を吸い込むと、牛乳よりも空気のほうが入ってくるのが多かったように思う。…まだ殆ど飲んでなかったのに…こいつ全部飲みやがった。
おのれ飛雄と爛々と目を光らせれば飛雄は肩をビクつかせて目を逸らし、ぐんぐんヨーグルを飲み始めた。私はがっしりと飛雄の腕を掴み、にっこりと笑う。飛雄は余計に震え上がった。


「飛雄、ちょっと付き合え」


語尾にハートマークが付きそうなくらい媚び媚びに言えば、飛雄は観念したように飲み干したぐんぐんヨーグルを潰して捨てた。



私と飛雄は学校を出て坂ノ下商店へ行き、飛雄にカレーまんを買ってもらった。飛雄も食べたそうにしているけど、今日はそこまで手持ちのお金がなかったのか項垂れていた。私はそんな飛雄を横目にカレーまんに豪快にかぶりつく。匂いにつられた飛雄がこちらをチラチラと見ているけど無視。
目を閉じてタネのカレーを堪能する。感嘆の溜息を吐くと、飛雄は恨めしそうにこちらを睨む。まるで「見せつけるんじゃねぇ」と言っているみたいだ。でも牛乳を全部飲み干す飛雄が悪いので自業自得だ。


「クソ…お前、ほんとうまそうに食うよな」

「私があまりにも美味しそうに食べるからお腹すいちゃった?」


意地悪な顔をして聞けば飛雄はぐっと堪えるように唇をギュッと噛み締めた。そしてまたあの鬼のような形相でこちらを睨む。
ほらほら、眉間。皺刻みすぎだから。

先程と同じように飛雄の眉間の皺目掛けてツンと指を当てる。今度は学習したのかイラッとしたのを抑えた。えらいえらい。


「飛雄の顔怖いってさ」

「あぁ?!」

「友達が言ってた」

「…生まれてからこの顔だ」

「いやまあそれは否定しないけど。でも飛雄、ガン飛ばし過ぎ」

「飛ばしてねえ」

「ほらその顔! 皺寄りすぎだから!」


ポケットの鏡を取り出して見せれば何も言い返せずにうぬんと唸っただけだった。


「私は慣れてるからそのままでもいんだけどさ、飛雄、昔からその眉間のせいで色々損してるじゃん?」


飛雄は途端に複雑な顔をして梅干しみたいな顔をした。いや、どういう心境なのそれ。口をムズムズさせて何か思いついたのか口を開いた。


「…お前が今のままでいいって言うなら、いい」

「ん…?」


私が微妙な顔をすると飛雄はまた鬼の形相をした。私は微妙な顔のまままた眉間をつつく。もうここまできたら作業だ。


「眉間に力入りすぎだよ」

「俺がいいって言ってんだからいんだよボゲェ」


まあ確かに、本人がいいって言うならいいのか。私も気にしないし、きっと飛雄も友達ができようがそうでなかろうが関係ないし気にしないんだろう。頭の中バレー一色だし。
なんだか飛雄に悪いことをしているような気がしたので、カレーまんを飛雄の口元に差し出した。飛雄は目を輝かせて大口開けてかぶりつこうとしたけれど、私の爛々と輝く目に気付きいつもより少し控えめに食べた。


「…そういえば、前にもやったことあったね」


飛雄がカレーまんを咀嚼しながらこちらを向く。
眉間を突くのは中学時代によくやっていた気がする。特に中3の頃。あの時の飛雄はずっと眉間に皺を寄せて難しい顔をしていたから。それこそ、その時も友達に飛雄の顔が怖いと言われたんだっけか。
中3の頃(と言ってもまだ数ヶ月前まではそうだったけど)に思いを馳せていると、飛雄も斜め上に視線を向けて、やがて思い出したのか、ああ、と納得したように私を見た。


「あの時の飛雄、ずーっと皺寄せてすれ違う人に殺気ばら撒いてたよね」

「そっ…んなことねえ! …多分」


ケラケラと笑うと飛雄は変な声で唸った。でも、一応目つきが悪いという自覚はあるらしい。飛雄は何を考えているか分かりにくいけど、ちゃんと色々考えてる。ただバカで空回ってしまうだけだ。

カレーまんの1番美味しいところを一口齧って堪能し、残りを飛雄の口に押し込んだ。飛雄はびっくりしたように少し目を見開いたけど、すぐに嬉しそうに食べた。リスみたいな幼馴染みを見て、これからも変わらないで欲しいなと思った。


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