冬蝶夏草ノベル | ナノ


□1.初めまして



 最初に少女を見たのは、施設の内にある遊戯場だった。





 そもそも、『血統選民』だか下らない事柄に関与する気はなかった。
私自身その「下らない事柄」に随分と苦い思いをしてきたひとり。
そんな事柄である。

 しかし、運の悪いめぐり合わせと云うべきか、師の薦めでそれに関連した施設に勤めることになった。
血統研究に明け暮れている学者共に、医師に就いて間もない私が歓迎されるはずもないのだが。

 南に位置する、白い施設。
到着するなり、白人[コオカソイド]を初めて見たと、アジア人独特の黄色い肌をした使者に握手を求められた。





 硝子張りの遊技場。贋物の空。贋物の太陽。贋物の空気。
始終、学者共が選ばれた『遺伝資源』という材料に眼を光らせる。

 そんな贋物だらけの園のなか。
少女は、周囲の子どもとは会話もせず、隅にただ立ち呆けていた。
混血の外見[ミテクレ]も相俟って、酷く目が立つ。
使者が云うことには、紛争で両親を失い、ここに保護されたらしい。
そして、検査を抜けて『選民』という太鼓判を押されたわけだ。

 同時に、「誰にも懐かず扱いにくく、視線さえ誰とも合わすことはない」と使者は不満をこぼす。
どうやら、この使者も学者のひとりなのだろう。
『遺伝資源』である子ども達に、少なからず徒労を感じている云い草だ。



 それから暫く少女を遠目に見遣っていたが、やはり誰とも交渉をもたない。
試しに私は少女の背丈ほどに身体をおとし、言葉を交けた。

ほんの只の好奇心。そうなる。




 「初めまして。」




 その瞬間、彼女が顔を上げ、互いの眼が すツとかち合う。
上等の硝子玉[ビイドロ]のような、少女の青い瞳。
その視線に辟易し、少女の熱を帯びた顔立ちに思わず息をのむ。



 きっと白人が珍しいのだ。



 学者共は云った。




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